明るい秋の朝日が差し込む中、羽柴家の土蔵から一人の少年が姿を現しました。
小学生の壮二君です。
まだ朝食の準備もできていない早朝なので、屋敷の中はひっそりと静まり返っていました。
早起きのスズメだけが、元気に庭木の枝や土蔵の屋根でさえずっています。
その早朝、壮二君はタオルの寝巻き姿で、しかも両手には何か恐ろしげな、鉄製の機械のようなものを抱えて、土蔵の石段を庭へと降りてきたのです。
いったい、どうしたというのでしょう。
驚いたのはスズメばかりではありません。
壮二君は昨夜、恐ろしい夢を見ました。
「二十面相」の賊が、どこからか洋館の二階の書斎へ忍び込み、宝物を奪い去るという夢です。
賊は、お父様の居間に飾ってある能面のように、不気味に青ざめた、表情のない顔をしていました。
そいつが宝物を盗み出すと、いきなり二階の窓を開けて、真っ暗な庭へと飛び降りたのです。
「わっ!」と叫んで目が覚めると、それは幸いにも夢でした。
しかし、どういうわけか夢と同じことが起こりそうな気がしてなりません。
「二十面相のやつは、きっとあの窓から飛び降りるに違いない。そして庭を横切って逃げるに違いない。」
壮二君は、そんなふうに信じ込んでしまいました。
「あの窓の下には花壇がある。花壇が踏み荒らされるだろうなあ。」
そこまで空想したとき、壮二君の頭にヒョイと奇妙な考えが浮かびました。
「うん、そうだ。これは名案だ。あの花壇の中に罠を仕掛けておいてやろう。もし僕の思っている通りになるなら、賊は必ずあの花壇を横切るはずだ。そこに罠を仕掛けておけば、賊のやつ、うまくかかるかもしれないぞ。」壮二君が思いついたその罠というのは、一年前のことだったでしょうか。お父様のお友達で、山林を経営されている方が「鉄製の罠を作らせたい」と言ってアメリカ製の見本を持ってきたことがあり、それがそのまま土蔵にしまわれていたのを、彼はよく覚えていたのです。
壮二君はその思いつきに夢中になってしまいました。広い庭の中に一つ罠を仕掛けたところで、果たして怪盗がそれにかかるかどうかは怪しいものですが、そんなことを考えている余裕はありません。ただ無性に、罠を仕掛けてみたくなったのです。そこで、いつになく早起きをして、そっと土蔵に忍び込み、その大きな鉄の道具をエッチラオッチラと持ち出したというわけです。
壮二君は、以前一度だけ経験したネズミ捕りを仕掛けたときの、あの何とも言えないワクワクする愉快な気持ちを思い出しました。しかし、今度の相手はネズミではなく人間です。しかも「二十面相」という希代の怪賊なのです。そのワクワクする気持ちは、ネズミの時の十倍も二十倍も大きなものでした。
鉄の罠を花壇の真ん中まで運ぶと、大きなのこぎり状の歯がついた二つの枠を力いっぱいグッと開き、うまく据え付けたうえで、罠だと分からないように辺りの枯れ草を集めて覆い隠しました。もし賊がこの中へ足を踏み入れたら、ネズミ捕りと同じように、たちまちパチンと両方ののこぎり刃が合わさって、まるで真っ黒で巨大な猛獣の牙のように、賊の足首にガッチリと食い込んでしまうのです。
家の人がかかっては大変ですが、花壇の真ん中ですから、賊でもない限り、めったにそんなところへ踏み込む者はいません。
「これでよし。でも、うまくいくかな。万が一、賊がこいつに足首を挟まれて動けなくなったら、さぞかし愉快だろうなあ。どうかうまくいきますように」
壮二君は神様にお祈りするような格好をして、それからニヤニヤと笑いながら家の中へ入っていきました。実に子供らしい思いつきです。しかし、少年の直感というものは決して馬鹿にできません。壮二君が仕掛けたこの罠が、のちにどんな重大な役割を果たすことになるのか、読者の皆さんは、この罠のことをよく記憶しておいていただきたいのです。
◇
その午後、羽柴家は総出で、帰国した壮一君を羽田空港に出迎えました。
飛行機から降り立った壮一君は、期待通りに実に颯爽とした姿でした。こげ茶色の薄い外套を小脇に抱え、同じ色のダブルボタンの背広をキチンと着こなしています。折り目の正しいズボンがスーッと長く伸びて見え、まるで映画の中の西洋人のような雰囲気でした。
同じこげ茶色のソフト帽の下には、帽子とあまり変わらない色に日焼けした、赤銅色で、しかし精悍な顔がにこにこと笑っています。濃い一文字の眉、よく光る大きな目、笑うたびに見える揃った真っ白な歯、そして上唇の細く刈り込まれた口ひげが、なんとも言えない懐かしさを感じさせました。写真とそっくりです。いや、写真よりも一段と立派でした。
みんなと握手を交わすと、壮一君はお父様とお母様に挟まれて自動車に乗りました。壮二君はお姉様や近藤老人と一緒にあとの自動車でしたが、車が走っている間も、前の車から透けて見えるお兄様の姿をじっと見つめていると、なんだか嬉しい気持ちがこみ上げてくるようでした。
帰宅して、一同が壮一君を囲んであれこれと話しているうちに、もう夕方になっていました。食堂には、お母様の心づくしの晩餐が用意されました。新しいテーブルクロスで覆われた大きな食卓の上には美しい秋の花が飾られ、それぞれの席には銀のナイフやフォークがキラキラと光っています。今日はいつもと違って、きちんと正式に折りたたまれたナプキンが置かれていました。
食事中は、もちろん壮一君が話の中心でした。珍しい南洋の話が次から次へと語られます。その間には、家を出る前の少年時代の思い出話も盛んに飛び出しました。
「壮二君、君はその頃まだあんよができるようになったばかりでね、僕の勉強部屋へ侵入しては机の上をひっかき回したものだよ。いつだったか、インキ壺をひっくり返して、その手で顔をなすったものだから、黒ん坊みたいになってね、大騒ぎをしたことがあるよ。ねえ、お母様」
お母様は、そんなことがあったかしらとすぐには思い出せませんでしたが、ただただ嬉しい気持ちで目に涙を浮かべ、にこにこと頷いていらっしゃいました。ところが読者諸君、そんな一家の団らんも、ある恐ろしい出来事のせいで、まるでバイオリンの弦が切れたかのように、プツリと断ち切られてしまいました。
なんという心の冷たい悪魔でしょう。
親子兄弟十年ぶりの再会、一生に一度というおめでたい席に、その幸せを呪うかのように、あいつの不気味な影がぼんやりと現れたのです。
思い出話の最中に、秘書が電報を一通持って入ってきました。
いくら話に夢中になっていても、電報とあっては開いて見ないわけにはいきません。
壮太郎氏は少し顔をしかめてその電報を読みましたが、するとどうしたことか、急に黙り込んでしまったのです。
「お父様、何かご心配なことでも?」
壮一君が目ざとくそれを見つけて尋ねました。
「うむ、困ったものが飛び込んできた。お前たちに心配はかけたくないが、こんなものが届くようでは、今夜はよほど用心しなくてはならない」
そう言って見せられた電報には、こう書かれていました。
『コンヤショウ一二ジ オヤクソクノモノウケトリニイク 二〇』
「二〇」というのは、「二十面相」の略に違いありません。
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