初級翻訳・怪塔王 第23話

怪塔王

あっはっはっ、とうとう本音を吐いたね。食事にも行けなかったり、せっかくの殺人光線灯も役に立たなかったり、黒人が言うことを聞かなかったりしたんでは、もう弱音を吐くより仕方がないだろう」
と、『顔』の怪塔王は朗らかに笑い、
「じゃあ、貴様の頼みを聞いて、あれを返してやろうよ。こっちへ来い」
「えっ、返してくれるか!」
と、『声』の怪塔王は、大喜びでじりじりと近づいていきます。
「おっと、そのまま近づいちゃいけないよ。両手を高く上げるんだ。頭より高く上げるんだぞ。さもなければ、僕は貴様の恐れている秘密を黒人たちに……」
「待て――」
と、『声』の怪塔王は、痛々しい声で叫びました。
「あれを返してくれるなら、なんでも貴様の言うとおりにする」
そう言って、『声』の怪塔王は両手を頭の上に高く上げ、静かに『顔』の怪塔王の方へ近づいていきました。
『顔』の怪塔王は、それを見て満足そうにほほえみました。相手はついに降参したのです。
「さあ、ここへ来い。この後ろへ入れ」
と、階段の陰を指さしました。
顔を風呂敷で隠した『声』の怪塔王は、最初の勢いはどこへやら、いまはしょんぼりとして『顔』の怪塔王の言いなりになっています。一体、何が彼をそうさせたのでしょうか。
それはもちろん、この怪塔が海中につかりきりだと、あと少しで爆発してしまい、自分も死なねばならないという恐怖があったからです。
『顔』の怪塔王は、いきなり『声』の怪塔王の両手を背中側へ縛り上げてしまいました。
「約束通り、あれは本当に返してくれるんだろうね」
と、『声』の怪塔王は念を押しました。

5

水中にながくいると怪塔が爆発するかもしれないというので、さすがに命が惜しくなった『声』の怪塔王は、いまや『顔』の怪塔王に降参した形になりました。
彼の両手は後ろに回され、しっかりと縛られてしまいました。
「さあ、君の言う通りにしたんだから、早く約束通りに君が盗んでいったものを返してくれ」
と、『声』の怪塔王は急かしました。
「うむ、約束は必ず果たすよ。しかしその前に、貴様の体を念入りに調べておかないと、危なくて安心していられない」
「なに、体を調べるだと? ちぇっ、そんな約束をした覚えはないぞ」
と、『声』の怪塔王は慌てました。
「馬鹿なことを言うな。僕の方こそ、貴様の体を調べないなんて約束はしなかったぞ。それがいやなら、やはり怪塔が爆発するのを待つことにするか?」
「いや、いや、いや。それはいかん。怪塔が爆発すれば、こっちの命がない。まあ仕方がない、なんでも調べろ」
「それみろ、余計な手間をとらせやがる」
そう言って、『顔』の怪塔王は『声』の怪塔王の後ろに回ると、彼の体を上から下まで念入りに調べました。
すると果たして、『声』の怪塔王の服の下には、弾丸を寄せ付けない怪力線網が隠されていました。また、その怪力線網に磁力を通す電源も見つかりました。
さっそく、そのような危ないものを取り除きました。
「さあ、これでもう貴様の体には、弾丸を弾き返す力はなくなったぞ。おとなしくしていることだ」
『声』の怪塔王が、深い溜息をつくのが聞こえました。
「どうかあれを早く返してくれたまえ」
「よし、返してやろう」
と、『顔』の怪塔王は自分の顔を両手で押さえました。
さあ、何が始まるのでしょうか。

マスクと顔

1

いま怪塔の中では、とても信じられないような不思議なことが行われています。
こちらへ顔を見せている『顔』の怪塔王は、その両手を自分の顔にかけると、えいやと力を入れて、すぽりと顔を脱いだのです。
顔を脱いだのです。目、鼻、口、それから頭の髪の毛までそっくりそのまま、怪塔王の顔の皮はまるで豆の皮を剥ぐように、くるくると剥がれていったのでした。
ああ、なんと痛々しいことでしょう。
血? さぞかし、たくさんの血がどっと吹き出すことかと思われましたが、そうはなりませんでした。
ただ、びっしょりと玉のような汗をかいた帆村荘六(ほむらそうろく)の顔が、その下から現れたのです。
なんだ、マスクだったのか。
マスクにしては、なんと巧妙な作りでしょうか。帆村荘六も、このマスクを怪塔王の寝室のそばで発見したときは、「生首が落ちている!」と思って、どきっと心臓が止まりそうになったほどです。
しかもその生首は、他ならぬ怪塔王の首だったではないですか。驚きは二倍になりました。
だが、よく落ち着いて観察すると、生首だと思ったのは実に巧妙なゴム製のマスクだとわかったのです。
そのマスクも、普通の仮面のように顔の前面を隠すだけのものではなく、耳も、首も、頭部もすっかり隠してしまい、頭髪さえちゃんと生えているものでした。
ちょうど、人間の手をすっかり隠してしまう手袋のような形式で、喉のあたりから上をすっぽりと包んでしまう特別なマスクだったのです。
それは質の良い生ゴムで作られており、例の汐ふきのような顔になっていて、生ゴムの表面は渋色に染められていました。
マスクの合わせ目は耳の後ろの頭髪の中にあり、この頃よく見かける噛み合わせ式の金具を特に小さく作ってあるので、簡単に縫ったり裂いたりできるのでした。

2

怪塔王の巧妙なマスクを三階の寝室で発見したときの帆村の驚きは、近頃にないほど大きなものでした。では、生きている怪塔王の体はどこにあるのかと思ってあたりを見回したところ、その寝台の上から「すうすう」という寝息が聞こえてくるので、三度びっくりしました。
寝台を見ると、寝具は確かに人間の体のような形に膨らんでいました。
しかし彼は、頭を毛布の中にすっぽりと埋めていました。
「さては……」
と、帆村は早くもピンと感づきました。勇気を奮って寝台に近づき、その下にいる人の顔を覗き込もうとして、そっと毛布を持ち上げました。「いまのが怪塔王のマスクであるとすれば、ほんとうの怪塔王はどんな顔をしているのであろうか」
はやく見たいという気持と、おそろしい気持とがごっちゃになって、帆村の胸をゆすぶった。
――が遂に彼は見ました!
彼は見ました! 彼は溜息をつきました。
その寝台の上に寝ていた怪塔王は、顔を下にむけて寝ていたのである。
帆村の目にうつったのは、赭茶けた毛と白髪とが交っている、中老人らしい後頭部を見ただけでありました。
叩きおこして、顔を見てやろうか。
そうおもった帆村だったが、ついにそのことは思いとどまった。
ここで怪塔王に目をさまされ、いろいろとおそろしい武器をつかって暴れられてはたまらない。
それよりもここは、怪塔王の気づかないうちに、怪塔王が困るようなことをやっておこう。
そういう考え方で、帆村はマスクをにぎったまま、その辺にあるいろいろな仕掛などを、できるだけ壊したり外したりしておいたのです。
そしてマスクをもって階下におり、鏡の前で怪塔王のマスクをかぶりました。
帆村はすっかり自分を怪塔王に変えてしまったこの巧妙なマスクに、改めておどろきの声を出しました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました