初級翻訳・怪塔王 第24話

怪塔王

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さても巧妙にできているマスク! 首全体をつつむようにできている最新式の怪マスク!
そのマスクの顔は、世にもおそるべき破壊力の持ちぬしである怪塔王の顔だ!
さていま、帆村探偵は、その怪マスクを手にして覆面の怪塔王とむかいあっているのです。
その怪塔王は、あわれにも帆村のため、両手をうしろにしばられ、手をつかうことができなくなっています。
「さあ、このマスクは一たん貴様にかえしてやるぞ。
その代り、こんどは僕のいいつけをきいて、怪塔を横須賀方面へとばせるのだ。
いいか」
と、帆村探偵が勝ちほこっていえば、覆面の怪塔王は力なくうなだれ、
「よろしゅうございます。
こうなってはあなたさまのおっしゃるとおり、なんでもいたします。
私としては、この海底から一刻もはやくのがれたいのです。
私の一番こわいのは、海面にうきあがる以前に、この塔ロケットが爆発しやしないかということです」
「水中に永くいると、なぜ爆発するのかね」
ロケットが海中に永くつかっていると爆発すると怪塔王はおそれていますが、帆村はなぜ爆発がおこるのかわけをしらないので、ただ不思議でありました。
「それは、ロケットをうごかす噴出ガスの原料であるところの薬品に、塩からい海水がしみこむと、だんだん熱してきて、おそろしい爆発がおこるのです」
「じゃあ、海水のはいらないようにしておけばいいのに」
「そうはいきません。
どうしても金属壁の隙間から浸みこんで来ます。
さあ、帆村さん、はやくマスクをかえしてください」
「うん、マスクはここにある」
といって、帆村はようやく怪塔王のマスクをさしだしました。
「ああ、私は手をしばられているから、マスクをかぶれやしません。
紐をほどいてください。
ああ、手がいたい」

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怪塔王にマスクをかえしてやったのはいいが、怪塔王は両手を帆村のためうしろにしばられているためマスクがかぶれないから、紐をほどいてくれというのです。
帆村はそれをきいて、つよくかぶりをふりました。
「いや、だめだ。
しばってある貴様の手をほどいたりすれば、貴様はどんなにおそろしいことをやるかしれない」
「ああいた、いたい」
と、怪塔王はしきりに身もだえをします。
そんなに両手が紐にくいしめられていたいのでしょうか。
「それほどいたくもないくせに、いたいいたいなどとおどかすなよ」
「いえ、ほんとにいたいのだ。
ああいたい」
「いくらいたくても、僕はけっしてほどいてやらないぞ。
じゃあマスクは、ぼくが貴様の顔にはめてやろう」
「えっ、あなたさまがマスクを私の顔にはめてくださるというのですか」
怪塔王は、わざとらしくながいため息をついた。
「なにをそんなに、ため息などをつくのだ」
「いえ、ため息というほどのものではありません。
さあ、では一刻もはやく、私にマスクをかぶせてください」
「うむ、いまやってやる」
と、帆村はマスクを手にして、風呂敷で覆面している怪塔王の前に近づきました。
「そうだ。
まずその覆面をとらなくては。
――」
と、帆村はマスクを下におき、両手をのばして怪塔王の覆面に手をかけました。
ああ、いまこそ怪塔王の覆面がひきむかれるのです。
その覆面の下には、はたしてどんな顔があるのでしょうか。
胸はおどる! 帆村の胸は、どきどきとおどります。
それを早くも察したものとみえ、怪塔王は覆面の下からおどかすような調子で叫びました。
「さあ、はやく覆面をとってください。
しかし帆村探偵よ。この覆面の下にある我が輩の素顔を見て、腰をぬかさぬように!」

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 怪塔王が、今まさに覆面をはぎ取られようとする刹那に――覆面を取るのはいいが、その下にある我が輩の素顔を見て腰を抜かすな! と叫んだ捨てぜりふ――
「うむ……」
 と帆村は、怪塔王が放った強烈な言葉に、思わずうめき声を漏らしました。
ああ、なんと恐ろしい奇襲の脅し文句でしょう。たしかに怪塔王の一言は、帆村の心臓をズクリと突き刺したようです。怪塔王の首全体を包んだ風呂敷の下には、一体どんな恐ろしい顔が隠されているのでしょうか。帆村でなくとも、誰だってその下を見るのは怖いと感じるはずです。特にここは、隣家などあるはずもない深い海底で、横倒しになっている怪塔ロケットの中なのです。身の毛もよだつような気配がひしひしと迫り、肌には鳥肌が立ちます。
「なに、そんな脅し文句に誰が乗るものか」
 と帆村は、それを振り払うように言い返しました。
「それなら、早くマスクを……」
 と怪塔王は急かします。
帆村は、奇妙な不安に駆られながらも、「何ほどのことがあろうか」と自分を奮い立たせ、両手を怪塔王の首の後ろに回して、風呂敷の結び目を解きにかかりました。その時、さすがの帆村も、この覆面の下の顔を見ることを恐ろしく感じたのか、怪塔王の首筋に回した両手が思わずブルブルと震えました。怪塔王は、まさにその瞬間をずっと待ち構えていたのです。
「やっ!」
 大喝一声、怪塔王の膝頭が、帆村の下腹部を強烈な勢いで突き上げました。腹の皮が裂けてしまうかと思うほどの衝撃です。これではたまったものではありません。
「う、ううん……」
 苦しそうなうめき声とともに、帆村の体は棒のように倒れました。

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 怪塔王の覆面を取ることにすっかり集中しすぎて、足が飛んでくることへの用心を怠ってしまったのです。名探偵として非常に恥ずかしいことだと、帆村は後々まで悔しがることになりますが、何しろ大問題である「覆面の下の本当の顔」が今まさに現れようとする、息詰まるような場面だったのですから、そのような失敗も無理はありません。
「う、ふふふふ。ざまを見ろ」
 怪塔王は、先ほどのおろおろした声はどこへやら、いつもの憎たらしいしゃがれ声に戻り、床の上に倒れている帆村を見下ろしました。
「……」
 帆村はうなり声さえ上げず、床の上にまるで死人のように横たわっています。さあ大変です。帆村の息はこのまま絶えてしまうのでしょうか。
「う、ふふふふ。口ほどにもないやつだ。しかし、間もなく息を吹き返すだろうから、そうだ、今のうちに大切なマスクをかぶっておこう」
 と、怪塔王は慌てて床にしゃがみ込むと、帆村の手から例の「潮吹き」の顔をしたマスクをひったくりました。そしてそのマスクを目の前に差し上げ、感心したような様子で言いました。
「ふうん、実にうまく出来ているマスクだわい。こんないいマスクはないねえ。何しろ顔にピタリと合う。笑えばこのマスクも一緒に笑う。怒ればこのマスクも一緒に怒る。これをつけていれば、マスクだとは誰にも気づかれないほど見事な出来だ」
 そう言って、怪塔王はマスクを頭からスッポリとかぶりました。その時、怪塔王は自分で覆面をさらりと脱いだので、その下から大問題の素顔が現れたはずですが……。

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 怪塔王は自分の顔を包んでいた風呂敷をパラリと解きましたから、その時たしかに下から素顔が現れたはずです。ですが、大変残念ながら、この時せっかくの素顔を誰も見ていません。なぜなら、帆村探偵は気絶して床に倒れていますし、三人の黒人は鉄の円筒の中で小さくなって震えていたからです。そのほか、誰一人としてその場の様子を見ている者はいませんでした。

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