初級翻訳・海底都市 第8話

海底都市

つまり力が三十倍に増幅されるのですから、パワーは申し分なしです。ですから、昔のように無理をして使う必要がない。したがって、危険だの何だのといった心配は、全くしなくていいんです」

タクマ少年の話を聞いていると、非常に頼もしい気持ちになる反面、自分の頭の古さが情けなくて腹立たしくもなりました。だが、それにしても、分かったような顔をして知ったかぶりをするのはよくないと思いました。分からないことは納得するまで聞いておくべきです。特に、この案内人のタクマ少年に至っては、肩のところに可愛い羽根でも隠しているのではないかと思えるほど、純粋で無邪気な子供でしたから、知らないことを知らないと正直に尋ねるのに、少しも気後れすることはありませんでした。ただ、自分の無知さ加減に赤面することは、たびたびありましたが。

「さあ、お客さん。実物を見たほうが早分かりしますよ。あれを見てごらんなさい。ぐんぐんと向こうへ押し込まれていく、錆びない鋼鉄の長い梁(はり)をごらんなさい。あれが棚になる主要な材料なんです」

なるほど、巨人国で使うレールのような形をした鉄材が数十本、上下から互いに噛み合った状態で、壁の向こうへとどんどん送り込まれています。すさまじい力です。原子力エンジンのパワーで打ち込んでいるのです。

「よく見てごらんなさい。あの長い梁には、継ぎ目というものがないでしょう。どこまでも一本の棒として続いているはずです。あれは蚕が糸を吐き出すのと同じ理屈で製造されていて、作られるそばからああして押し出され、打ち込まれていくのです」

全く、すばらしく進歩した技術です。僕はただただ舌を巻いて感心し続けるばかりでした。そのとき、僕は自分が夢を見ているのではないかと思いました。これほどの大工事が行われているにもかかわらず、工場でよく耳にするような、金属がぶつかり合うやかましい音が、少しもしないのですから……。

「ふしぎだなあ。これだけの大掛かりな工事をしているのに、鉄を叩くような音が全くしない」

僕がそう言うと、タクマ少年はびっくりしたような顔で僕を見つめていましたが、しばらくして納得したのか、こう言いました。

「ああ、お客さん。昔はニューマチック・ハンマーや、削岩機、クレーンといった機械が土木工事に使われていて、非常ににぎやかな音を立てていたそうですね。しかし今は、騒音制限令があって、そうした不愉快な音は出せないことになっているんです。それに、穴を掘ったり鉄の棒を押し込んだりする機材も、原子力エンジンから直接動力を得ているので、まるで巨人が手で棒を押したり、土を掘ったりするように楽々と仕事ができるため、音も出ないのですよ」「……さあ、あっちへ行ってみましょう。海溝の工事現場で、海水を汲み出して人間が歩けるようになっている場所がありますから、そこを見物しましょう。どんな鉱物が掘り出されるか、おもしろいですよ」

タクマ少年は、ずんずん歩き出します。僕はそのあとから遅れまいとついていきました。そこには既に、丹那トンネルのような立派なトンネルが出来ていて、明るい電灯が足元を照らしているので、少しも怖い思いをせずに済みました。

驚いたのは、いつの間に据え付けたのか、エレベーターが十台ほど並んで、しきりに上り下りしていることです。ずいぶん早い仕事ぶりです。何から何まで僕には意外なことばかりで、昔おとぎ話で読んだ「魔法の国」に来ているような気がします。

そのエレベーターの一つに乗り込みました。タクマ少年と二人きり。運転手はいません。中へ入って、タクマ少年が数字のついているボタンを押すと、エレベーターは自動的に扉が閉まり、下へ下がり始めました。こんなエレベーターなら、僕だって知っていると思いました。しかし、しばらくすると、これがあたりまえのエレベーターではないことが分かりました。扉は透明でしたし、箱の奥の壁もまた透明だったのです。だから前方もよく見えるし、後ろ側もよく見えました。そしてどういう仕掛けか分かりませんが、まっすぐに下へ降りるだけではなく、横に走っていることもありました。つまり、上下だけでなく、横にも走れるエレベーターなのです。

「こっち側が海になっています。海水がある側です」と、タクマ少年は箱の後ろ側を指しました。なるほど、いつの間にかそちら側には、美しい深海の光景が広がっています。妙な形をした色の汚い魚が、ゆっくりと泳いでいます。みんな深海魚だそうです。そのうちにエレベーターは速力をゆるめて、ぴったりと止まり、扉が開きました。

「下りましょう。海溝の棚工事場の底のところへ来たのです」

エレベーターの外へ出てみると、断崖の下へ出たような気がしました。いや、正しく断崖に違いありません。目の前にそびえ立つのは、海溝を作っている海中の断崖であったからです。断崖の下はかなり広く平らにならされていて、芸術的ではありませんが、実用向きの幅の広いセメント道路が出来ていました。仕事の早いのには全く驚かされます。僕が今立っているところは、昨日の夜までは海水が満々とたたえられていたところで、深海魚たちの寝床だったのです。

海溝の断崖の色は、わりあい明るい色をしていました。黄色いような、赤みがついているような岩質で、黒ずんだ醜い深海魚とは、およそ反対の感じのものだったのです。道を行くこと五十メートルほどで、断崖の中へ向かって掘り進められている坑道の入口へ出ました。これは今、試験的に穴を掘ってみているので、土はどんな地質か、どんな岩があるか、鉱石であるかなどを調べているのだといいます。

坑道の中から、長い帯のようなものが出ていて、それが川の流れのようにこちらへ押し出されてきます。それは言うまでもなくベルト・コンベヤーで、掘った土をその上に乗せて穴の外へ運び出す機械でした。技師と見える人が四、五名、流れ出てくる土をしきりに調べています。すると、タクマ少年が叫びました。

「あ、金だ。黄金だ。ふうん、やっぱりそうだったんだ。海溝には黄金があるという噂があったんだが、本当だった!」

「えっ、これが金か? すごいなあ」

僕は、土の流れの中からピカピカ光るやつを手に拾い上げ、思わず大きな声を出しました。

悲願の黄金。

僕はタクマ少年の案内で、海溝の排水地区から、またもや動く道路に乗って下町へ向かいました。僕は動く道路の上にうずくまり、複雑な思いに渋い顔をしています。金でした。黄金が海溝の底から掘り出されていたのです。あんなにたくさんの量の黄金を見たのは初めてです。すばらしい富だ。あれを使えば、いろいろなものが買えるだろう。僕は非常に興奮してきました。なんとかして、あの金を持って帰りたいものです。二十年前の世界――すなわち、現に僕が一人の生徒として住んでいる焼跡だらけの世界へ?

それはむずかしいことです。考えれば考えるほど、むずかしいことです。二十年も前へ物を移すということは、二十キロ先へ物を運ぶこととは違って、甚だ困難なことだ。いや、絶対にできないことのように思われます。

(しかし、何とかできないものかなあ。

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