初級翻訳・恐竜島 第21話

恐竜島

椰子の木の向こうに、まぶしい海が見えてきたとき、玉太郎は緊張の糸が切れて、ふらふらと倒れそうになりました。
それをマルタンが後ろから支えてくれました。
しかし、マルタン氏は疲れ切って声が出ません。そこで、声の代わりに玉太郎の肩をぱたぱたと叩き、彼の顔をハンカチで仰いであげました。
玉太郎も同じく声が出なかったので、身振り手振りでマルタン氏に感謝を伝えました。
立ち尽くしている二人の脚から腹へ、腹から胸へと、赤蟻がぞろぞろと這い上がってきました。
「もう一息だ。元気を出して……」
マルタン氏が、ようやく口を開きました。
「もう大丈夫です。さあ行きましょう」
玉太郎も、しゃがれた声を出して、マルタン氏の先頭に立って、また走り出しました。
最後の椰子の木の林を通り抜け、二人は海岸に立っているテントを目指して駆けました。
小屋の前には、人々が集まっていました。
にぎやかに歌を歌ったり、手を上げたり、踊ったりしています。どうやら酒宴が始まっているようです。
玉太郎とマルタンが近づくと、彼らは酒に酔ってとろんとした目で、二人をよく見ようと努めました。
しかし、首がぐらぐらとしていて、はっきりとは見えていない様子です。
「だ、誰だ。怖い顔をするなよ。まあ、一杯いこう」
そう言ったのは、水夫のフランソアでした。
その横では、同じく水夫のラルサンが酔いつぶれて、テーブル代わりの空箱に顔を押し付けたまま、何と言っているのか分からない歌を、豚のような声で歌っています。
砂の上には酒の空き瓶がごろごろと転がり、酒樽には穴が開いて、そこから黄色い酒が砂の上へたらたらとこぼれていました。
玉太郎もマルタンも、その光景にあきれ果ててしまいました。
その向こうの大きなテーブルには――テーブルといっても、やはり空箱を四つほど並べて、その上に布をかぶせてあるだけのものですが――巨漢のモレロが、山賊の親分のように肩と肘を張り、前に酒瓶を林のように並べて、足のある大きな盃で、がぶりがぶりと飲んでいました。
彼の瞼は下がって今にも眠りそうでしたが、ときどきびくっと目を開いては、鋭い目つきで辺りを見回します。
「……俺が許すんだ。今日は飲め。……うんとのめ……文句を言う奴があったら、俺が手を伸ばして、首を引っこ抜いてやる。なあ、黄色い先生」
「黄色い先生」と呼ばれてモレロが首を回した先に、張子馬(ちょうしば)が静かにテーブルについていました。しかし、玉太郎とマルタンが青い顔をして駆け込んできたのを見ると、彼は盃をそっと置いて立ち上がりました。
そしてモレロの頭越しに、玉太郎たちに声をかけました。
「何か重大な事件が起きたようですな。何事がありましたか」
感情を少しも表に出さず、中国の詩人は静かに尋ねました。
「大変なんです。恐竜の洞窟の中で、みんなが遭難してしまったんです」
「ロープが切れて、みんな崖の中段のところに置き去りになってしまったんだそうです。すぐ皆さん、救援に行ってください」
「それは大事件ですね。ロープだけでいいのでしょうか」
張は冷静に尋ねました。
「ロープと食糧と明かりと……それから薬がいる」と玉太郎が言いました。
「ロープがいちばん大事なものだ。たくさん持っていく必要がある。そして早くなければならない」
マルタンは、何が大切かをよく心得ていました。
張子馬は頷きました。そして水夫たちのところへ行って言いました。
「おい、フランソア。ラルサン。もう酒盛りはおしまいだ。今度はお前たち、できるだけインチのロープを肩に担いで、あの密林の奥へ急行するんだ。分かったか、フランソアにラルサン」
そう言って、二人の肩を何度も叩きました。
二人とも首をぐらぐら揺らすだけで、張の言っていることが半分も分かっていない様子でした。
「やい、やい、やい、やい……」
モレロが仁王のように立ち上がりました。
「俺をのけ者にして、何をどうしようというんだ」

慾の皮

玉太郎もマルタンも気が気ではありませんでしたが、救援隊がようやく出発したのは、それから一時間後のことでした。
そのときには、二人の話によって、留守番の連中もだいぶ酔いがさめかけていました。恐竜は一頭かと思っていたのに、この島には五頭も六頭も集まっていると聞いては、酔いもさめるはずでした。密林を通り抜けて沼のほとりに出たときには、モレロも二人の水夫たちもすっかり正気に戻っていました。
「おや、学者親子が、あんなところで遊んでいるじゃないか」
モレロが険しい目をして、沼のほとりにあるガジュマルの木の根元を、突き刺すように指さしました。
ツルガ博士とネリは、さっきからずっとそこにいたのです。
博士はモレロの声を聞くと、軽蔑の眼差しを向けました。
ネリはモレロの恐ろしい剣幕におびえて、父親の胸にすがりつきました。
玉太郎は、モレロに対して怒りを感じ、一言言ってやろうと前へ飛び出そうとしましたが、張(チャン)がそれを押さえました。
「相手が悪い。それに今は、大切な時だ」
と、張は玉太郎にささやくように言いました。
そうだ。ラツールやケン、ダビットたちを救うまでは、仲間割れしては不利なのです。
それだけ救援力が小さくなってしまう恐れがあるからです。
玉太郎は、怒りをぐっと胸の奥に飲み込んで、ただネリの方へ同情の視線を送りました。
「あいつらにも、救援の仕事をさせないと不公平だ。俺が引っぱたいてでも働かせてやる」
「まあ、待ちたまえ、モレロ君」とマルタンが止めました。
そして葉巻を一本出してモレロに与えました。
「ツルガ博士はあのままでいい。一緒に連れて行っても、かえって我々の足手まといになるだけだ。何しろ、恐竜たちに対して、我々は素早く行動しないと取り返しのつかないことになるからね」
「ふん。じゃあ、このたびは見逃してやるか」
モレロは、憎々しげに言いました。よほど彼は、博士のことが気に入らないようです。

断崖を登り、それから林の中を這って地下道を通り、恐竜の洞窟へ入りました。
洞窟の中は、ものすごい光景でした。
海水に体を浸してうずくまる四頭の恐竜の姿。洞窟の中へ差し込む陽の光のまぶしさ。わわん、わわんと反響する波の音。
初めてこの光景を見る四人の新来者たちは、みんな顔色を変えました。
「すごいところがあったもんだ」
「地球の上に、こんな別天地があろうとは、夢にも思わなかった」
「これは、地獄の入口かもしれない」
「恐竜の巣に飛び込むなんて、契約にはなかったぞ」
四人が四人、それぞれに恐怖に包まれてしまいました。
マルタンが指揮をとります。
「さあ、作業開始だ。まず四本のロープを、下へ下ろさなくてはならない。そこにしっかりした岩を見つけて、ロープの端を縛り付けるんだ」
「見物はあとにして、こっちへ集まってください」
と、玉太郎が叫びました。
「いい気味だ。普段、偉そうな口をきいていた連中も、崖の中段で小さくなっているじゃないか。うわはははは」
モレロは毒舌をふるいます。
「モレロ君。君は自分の分を、このロープでくくりつけたまえ」
「わたしはいやだよ。下に下りる気はない」
「本当かね。わしは賭けをしてもいい。今に君は、きっと下へ下りるだろう」
「とんでもないことだ。

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