初級翻訳・火星兵団 第80話

海野 十三

むかし、この火星へアリタ博士というのがやって来たが、彼などは、なかなかすぐれた頭を持っていた。
ああいう連中に見せたら、後がよくない」
「ですがペペ王、モロー彗星は、あと十日ぐらいして地球を粉々にこわしてしまうのですよ。
ですから、たとえ宇宙艇を人間に見せたところで、あと十日では、そのうちの一台だって作り上げられませんよ。
心配は御無用です」
丸木は、落着き払って言った。
「ふん、まあ、せいぜい気をつけてくれ」
と、ペペ王はようやく折れた。
「で、その占領された宇宙艇は、この後どうなさるのですか」
と、今度は丸木がたずねた。
「うん、仕方がない。
中にいる火星人には気の毒だが、宇宙艇ごと、粘液で、とかしてしまうつもりだ」
と、ペペ王は放言した。

50 連合脱出隊

中天にかかる恐怖の星モロー彗星は、日ごとに大きくなり、光力を強めていった。
もうそのころには、夜間だけではなく白昼でさえも、モロー彗星が空に浮かんで見えるのだった。
夜になると、モロー彗星は、にわかにらんらんと輝き出すのであった。
その大きさは、もう月の半分ぐらいになった。
月が空に二つ、かかっているようにも見える。
全く怪しくも不思議な光景であった。
地球の人々は、モロー彗星の光が強くなればなるほど、興奮の度をたかめた。
半分おかしくなっている者や、道ばたで一日中泣きどおしの者が、だんだんふえて来た。そうかと思うと、盛んにステッキや剣を空に向けて打ち振り、
「モロー彗星なんか何者だ!」
と、見えすいた強がりを言っている者もあった。
その一方で、科学者や技術者たちは、その大半が工場に詰めきり、わき目もふらずに地球脱出用のロケットを製造することに一生懸命であった。
彼らは、時にはモロー彗星のことさえ忘れているかのように、ロケットづくりに熱中した。
ドイツでは、いつの間に揃えたのか、ロケット兵団をつくりあげた。
それは、百台の大ロケットで編成されていた。
このロケット兵団は、アルプス山脈地帯にかたまっている火星兵団を尻目に、空中高く飛び出し、威嚇(いかく)のための飛行を始めた。
ところが、その挑戦に応じて、アルプスの方角からは火星兵団の宇宙艇五台が飛び出した。
そこでロケット百台と宇宙艇五台による大空中戦が始まったが、気の毒にも、ロケットは見る見るうちに空中でとろりとろりと溶けだしてしまった。
やがて四十台ほどのロケットは空中で溶けて散り、あとかたもなく消え去り、残りの六十台のロケットはすごすごと基地へ引き返した。
科学国ドイツの技術を総動員しても、火星人のつくった宇宙艇にはかなわなかったのだ。
モロー彗星はいよいよ地球へと近づいてきた。
地球から見ると、彗星の頭は満月の二倍ぐらいに大きくなった。
夜間しか見えなかったその彗星は、このごろでは昼間でも空中にうっすらとその姿が見えるのであった。
地上の人間は、日ごとに夜ごとにモロー彗星の怪奇な姿におびやかされ、神経衰弱にならない者はいないと言っていいほどであり、頭がおかしくなる人たちが平年の百倍、千倍にもふえていった。
モロー彗星の尾は、気味の悪い青白い光を放っていた。
大空を大きな川のように流れていたが、その形はいつも同じではなく、風に吹かれる煙のように方向が変わり、形が変わっていった。
それは太陽の影響によって吹き飛ばされているのだと、学者たちは説明した。
このような怪しげな天空の下で、地上の人々がだんだん希望を失っていったのも、無理のないことであった。
しかし、いつの世にもそうであるように、どんなに悪い世の中のありさまの時であっても、決して負けない人間たちはいた。
いや、かえってそういう苦しく困った時にこそ、元気や勇気がわいてくる人間たちがいたのだ。
日本人とドイツ人とイタリア人とアメリカ人とは、なかなかに勇敢な人種であった。
ドイツでは、前にも言ったように、かなり優れたロケットを百台も空へ飛ばしたけれど、火星兵団の宇宙艇のためにすっかりやっつけられてしまった。
しかしそれにもこりず、ドイツではまた二回目の地球脱出ロケット隊を編成し、ふたたび大空へと飛び出した。
だが、気の毒にも彼らは、やはり火星兵団の敵ではなかった。
最後は前と同じように、語るも悲惨な結末を迎えてしまったのである。
しかし、負けず嫌いの魂を持ったドイツ人たちは、さらに次から次へと地球脱出隊を編成していったのだった。
もしかしたら、ただの一機だけでも無事に地球の外へと逃れてくれるのではないかと、彼らはそれを心待ちにしていたのだ。
ドイツの優れたロケットによる地球脱出隊が、次から次へと悲惨な最期をとげている一方、イタリアでもアメリカでも、同じような脱出が試みられた。
だが、その結果は似たり寄たりで、ついに火星兵団に勝つことはできなかったばかりか、地上における火星兵団の基地攻撃さえもうまくいかず、大損害を受けてしまった。
「どうにも手段がない。
どんなことをしてみても、火星兵団を打ち破る見込みは立たない」
「仕方がない。
この上は世界同盟をつくり、各国の知恵者たちを集めて、火星兵団の暴力に立ち向かう方法を考え出すことにしようじゃないか」
「それがいい。
それ以外の方法はない」
その昔、地球の上で互いにはげしい戦争を交えた各国も、こうなってはにらみ合っている場合ではなく、何とかして手を取り合い、地球総力戦の体制をつくって火星兵団に対抗するよりほかに道はないことが、彼らにもはっきりわかってきたのだ。
「そんなことを言ったって、今から集まって良い考えを出したところで、もう遅いよ。
そんなことは、もっと早くから気づいていなければならなかったんだ」
「だって仕方がないだろ。
今になってやっと、地球総力戦の体制をつくることに気づいたんだから。
それに、今まではお互いに各国同士でにらみ合っていたんだから、そう簡単には一緒になれないよ」
各国の足並みはまだ乱れがちであったが、とにかく日一日と、地球総力戦の体制がまとまってきた。
その結果、あと二日後には各国のロケット隊が連合の編隊をくみ、その数も五百台というたいへんな数で、一気に地球を飛び出し、金星へ向けて飛行しようという計画がまとまったのだ。
そうして、この連合脱出隊の計画のことは、火星兵団には絶対に漏れないようにと、お互いに気をつけ合ったのである。
連合脱出隊の秘密は、極限まで固く守られていたのだった。いよいよその日、各国のよりすぐったロケット隊は、空中のある場所で合流することをあらかじめしっかりと約束し合い、それぞれ自分の基地から出発しました。
基地といっても、一国に一箇所だととても目立ってしまうため、あちこちに分散させてつくっていました。
たとえばアメリカでは、全国になんと六十五箇所もの基地をつくり、そこから二台、または三台ずつのロケットを同時に飛び立たせたのです。
そして、彼らは無事に空中の集合場所に集まることができました。
「ふむ、うまく計画どおりにいったぞ!」
乗組員たちは、五百台ものロケットが並んだ堂々たる脱出隊のすばらしい姿を見渡して、にっこりと笑いました。
こうして、連合脱出隊は一斉に向きを整え、金星を目指して飛び立ちはじめたのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました