初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第3話

ニールスのふしぎな旅

「あいつ、僕とそっくりだな」少年はそう言いながら、びっくりして手をたたいた。
すると、鏡の中の小人も同じように手をたたいた。
そこで少年は、髪の毛を引っ張ったり、腕をつねったり、ぐるっと回ってみたりした。
すると、鏡の中の小人も、すぐそのとおりにするのだ。
それから少年は、鏡の周りを二、三度駆け回った。
もしかしたら、鏡の裏に小さな誰かが隠れているんじゃないかと思ったのだ。
けれども、鏡の裏には誰もいなかった。
こうなると、少年は怖くなって、体中がブルブル震えてきた。
当然だ。
自分が小人に魔法をかけられたのだと、今になって初めてわかったのだから。
鏡の中に見えたちっぽけな小人は、間違いなく、少年自身の姿だったのだ。

ガンの群れ

少年は、自分が小人になってしまったとは、どうしても信じることができなかった。
「これはきっと夢なんだ、気の迷いだ。
ちょっと待っていれば、すぐにまた元の人間になれるだろうさ」
そう思いながら、鏡の前に立って、目を閉じた。
そして、こんな馬鹿げたことが消えてなくなってしまえばいいと願いながら、二、三分して目を開けた。
ところが、なんの変わりもない。
やっぱり前と同じように、ちっぽけなままの姿だ。
白っぽいアマ色の髪の毛、鼻の上のそばかす、革ズボンにあてた継ぎ当て、靴下の穴、何もかもが、元のままだ。
そしてただ、体だけが、ひどく小さくなっているのだ。
いや、こうやって立って待っていても、どうにもならない。
なんとかしなくちゃ。
そうだ、一番いいのは、小人を見つけ出して、仲直りすることだろう。
そう思うと、少年は床に飛び降りて、さっそく探し始めた。
椅子のや戸棚の後ろから、長椅子の下や暖炉の後ろまで探した。
そのうえ、ネズミの穴にまで這い込んでみたが、小人の姿はどこにも見当たらない。
少年は探し回りながら、泣いたり、祈ったり、思いつくままに色々なことを誓ったりした。
これからは、決して約束を破ったりしない。
意地悪もしたくない。
お説教の時に居眠りもしない。
もう一度人間の姿になれたら、きっと、おとなしくて立派ないい子になる……。けれども、いくら誓ってみたところで、なんの役にも立たなかった。
小人はよく牛小屋に住んでいると、いつだったか、お母さんが言っていたのを、少年はふと思い出した。
そこで、さっそく牛小屋へ行って、小人がいるかどうか探してみることにした。
ありがたいことに、戸口が少し開いていた。
だって、もしそうでなかったら、錠まで手が届かないから、戸を開けることができなかっただろう。
ともかくこうして、楽に抜け出すことができた。
玄関に出たとき、自分の木靴はどこにあるかと見回した。
今まで部屋の中では、靴下しか履いていなかったからだ。
少年は心の中で思った。
あんなに大きな重たい木靴を、いったいどうやって履いたんだろう。
でもそのとき、よく見ると、入口のところに小さな木靴が一足、きちんと揃えて置いてあった。
おや、おや、小人は木靴まで小さくするほど気を使っているのだ。それがわかると、少年はひどく心配になってきて、「あいつめ、僕にこんな惨めな思いをいつまでさせるつもりなんだ」と思いました。
戸口の前に置いてある古いカシワの板の上を、スズメが一羽、ピョイピョイと飛び跳ねていました。
スズメは少年の姿を見たとたんに、叫び立てました。
「チュン、チュン、ごらんよ、ガチョウ番のニールスを! あのチビ小僧を見てごらん! チビ小僧のニールス・ホルゲルッソンを見てごらん!」
すると、たちまちガチョウもニワトリも、ニールスのほうを振り向きました。
そうして、みんなはものすごい勢いで鳴き立てました。
「コケッコッコ」と、オンドリはがなり立てました。
「バチがあたったんだ! コケッコッコ、俺のトサカを引っ張ったのはあいつさ!」
「コ、コ、コ、コ、バチがあたったのよ!」と、メンドリたちは鳴き立てました。
そして、いつまでもいつまでも叫び続けました。
ガチョウたちはかたまって、互いにささやき合いました。
「誰があんなにしたんだい? 誰があんなにしたんだい?」
しかし、何よりも不思議なのは、鳥たちのしゃべっていることがニールスによくわかることでした。
ニールスはあんまりびっくりしてしまって、入り口のところにつっ立ったまま、ぼんやりとただ聞いていました。
「こりゃあ、きっと僕が小人になったからなんだろう。それで鳥の言葉がわかるんだ」と、ニールスは言いました。
ニワトリたちはいつまでも「バチがあたった、バチがあたった」と叫び続けています。
ニールスは我慢ができなくなりました。
そこで石をぶつけて、怒鳴りました。
「だまれ! こんちくしょう!」
ところが、つい大事なことを忘れていました。
それはほかでもありません。ニールスは、今ではニワトリたちから怖がられるほど大きくはないのです。
ニワトリたちはニールスめがけて走ってきて、その周りを取り囲むと、またまた叫びました。
「コ、コ、コ、コ、バチがあたった! コ、コ、コ、コ、バチがあたった!」
ニールスは逃げようとしました。
けれど、ニワトリたちがあとから飛びかかってきては大声で鳴くので、耳がツンボになりそうです。
もしもそのとき、ネコがそこへ来てくれなかったら、きっと逃げ出すことができなかったでしょう。
ニワトリたちはネコの姿を見ますと、たちまち黙り込んで、地面をつつき回しては、一生懸命虫を探しているようなふりをし始めました。
ニールスはさっそく、ネコのところへ駆け寄りました。
「ミーや、おまえはこの庭なら、隅の隅から隠れ穴まで、すっかり知っているだろう? いい子だから、小人がどこにいるか教えておくれよ」
ネコはなかなか返事をしませんでした。
そこへ座って、しっぽをかわいらしく前足の周りに巻きつけてから、少年を眺めました。
大きな黒いネコで、胸にぽっつりと白いところがあります。
毛並みはつやつやしていて、お日さまの光を浴びるときれいに輝きました。
爪は隠していました。
目は灰色で、真ん中に小さな黒い点が見えました。
見るからにおとなしそうな黒ネコです。
「小人がどこに住んでいるかぐらい、もちろん知っているよ」と、ネコはやさしい声で言いました。
「といったって、君に教えてやろうとは思っちゃいないよ」
「かわいいミーや、僕を助けておくれよ」と、ニールスは言いました。
「僕が魔法にかけられているのがわからないの?」
ネコが目を少し開けますと、意地悪そうな様子が現れてきました。
それから、満足そうに喉をゴロゴロ鳴らして、とうとうこう答えました。
「この僕が、君を助けるんだって? 君はあんなにしょっちゅう、僕のしっぽを引っ張ったじゃないか」
ニールスは、しゃくにさわって仕方ありません。
それで、今は自分がちっぽけな弱い者になっていることを、またまた忘れてしまったのです。
「よし、それなら、もう一度しっぽを引っ張ってやるぞ、いいか」こう言って、ネコに飛びかかりました。
その瞬間、ネコは今までのネコとは思えないほど、すっかり変わってしまいました。
毛を逆立て、背中を丸め、足を伸ばしました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました