だけどね、もしおまえさんがわしの考えに賛成して、このアルヴァレットの岩原とまわりの崖が、実はチョウの体でできているとすれば、崖の下の土地は一体何でできていると思うね?」
「うん、まったくだ」と、若者はまだ食事を続けながら言いました。「その先をききたいね」
「じゃあ、話そう。エーランド島は何年ものあいだ海の中に横たわっていたんだが、そのあいだに海草や砂、貝殻など、いろんなものが波に運ばれてきて、島のまわりに溜まっていったんだ。それに、東と西の崖からは、石や砂利が転がり落ちてきた。こうしてこの島にもだんだん広い海岸ができて、そこに穀物や花や木が育つようになったというわけさ。チョウの硬い背中にあたるこの上には、羊や牛や子馬がぶらぶらしているだけで、鳥にしてもナベゲリとチドリが住んでいるくらいのものさ。建物といえば、風車と、おれたち羊飼いが雨露をしのぐ石造りの粗末な小屋が二つ三つあるだけだ。ところが海岸のほうへ降りていけば、大きな村もあるし、教会もある。漁村もあれば、立派な町だってあるんだ」
年寄りは、探るような目つきで相手の顔を見ました。若者はちょうど食事を終えたところで、いましも袋の口を縛っているところでした。そして、「あんたは、どこでその話をおしまいにする気かね?」と聞きました。
「いや、わしの知りたいのは、たった一つだけだ」と、羊飼いは言いましたが、声はささやくように小さくなっていました。その小さな瞳でじっと霧の中を見つめる表情は、この世には存在しない何かを探し求めて、ひどく疲れ切っているようでした。「わしの知りたいのは、ただ一つのことさ。つまり、崖の下の農場に住む百姓や、海からニシンをとってくる漁師、ボルイホルムに住んでいる商人、夏になると毎年やってくる海水浴の客、ボルイホルムの古いお城の跡を見物して歩く観光客、秋になるとここへシャコを撃ちに来る狩猟家、そしてこのアルヴァレットの上に座って羊や風車を描く画家。そういう人たちの中に、一人でもこの島がもともと、大きなピカピカ光る羽で大空を飛び回っていたチョウだったということを知っている者がいるかどうか、ということなのさ」
「ああ、いや……」と、若い羊飼いが急に言いました。「夕方、この崖の端に座って、ふもとの森でナイチンゲールが歌うのを聞きながらカルマール海峡を眺めていれば、この島が他の島と同じようにしてできたものではないと、そう感じる者もきっといるはずさ」
「それからね」と、年寄りは話を続けました。「この風車に、天まで届くくらいの大きな羽をつけてやろうという人はいないもんかなあ。この島全体を海から持ち上げて、チョウのように飛ばすことのできる、大きな羽をさ」
「あんたの言うことには、もっともらしいところがあるよ」と若者は言いました。「だって、この島の上に大空が明るく広々と広がっている夏の夜なんかには、なんだかこの島が海から立ち上がって、空へ飛んでいきたいように見えることがあるもの」
年寄りはとうとう若者を話の世界に引きずり込みました。しかし、若者の言葉にはあまり耳を貸さず、さらに声を低くしてこう言いました。
「このアルヴァレットにいると、どうしてそういうあこがれが湧いてくるのか、そのわけを説明できる人はいるかなあ。わしは毎日毎日、そういうあこがれを感じるんだ。いや、ここへ来るものはみんな、そういう気持ちになるようだ。そういうあこがれがわしたちに起こってくるのは、この島全体が一羽のチョウであり、そのチョウが羽を欲しがっているからだということを、わかる人があるだろうかなあ」
13 小カール島
嵐
四月八日 金曜日
ガンたちは、その夜をエーランド島の北の端で過ごしました。そして、これから陸地へ向かおうとしていたのです。強い南風がカルマール海峡の上を吹き荒れていて、ガンたちは北へ北へと押し戻されてしまいました。それでもみんなは速力を上げて、ぐんぐん陸地のほうへ飛んでいきました。けれども、最初の島々に近づこうとしたそのとき、ごうごうというものすごい音が聞こえてきました。
まるで、力強い翼を持つ鳥たちが、群れをなして押し寄せてくるかのようです。
みるみるうちに、海の色は真っ黒に変わってしまいました。
アッカは急いで翼をたたみ、空中でじっと静止しました。
そして、すぐに海面へと舞い降りました。
しかし、ガンたちがまだ水面へ降りきるか降りきらないかのうちに、猛烈な暴風が襲いかかってきました。
暴風は砂煙を巻き上げ、海面の泡を吹き飛ばし、小さな鳥たちを激しく吹き飛ばしました。
ガンたちもその暴風に追いまくられ、とうとう広い海へと押し出されてしまいました。
すさまじい嵐です。
ガンたちは何度も何度も引き返そうと懸命に頑張りましたが、どうすることもできません。
だんだんと、バルト海のほうへと吹き流されていきました。
今やエーランド島さえも過ぎ去り、目に見えるものはただ、どこまでも広がる灰色の海ばかりです。
こうなっては、風に逆らわず、身を任せるしかありません。
アッカは、陸地のほうへ引き返すことは到底無理だと見抜きましたが、かといって、このまま暴風に吹き流され続けるのも危険だと判断しました。
そこで、水の上へ降りることにしたのです。
海の波は刻一刻と高さを増し、激しく泡を散らしています。
まるで波同士がどちらが高くなれるか競い合い、どちらがより高く泡を飛ばせるか遊んでいるかのようです。
けれども、ガンたちは波のうねりを少しも怖がりません。
それどころか、かえってとても楽しんでいるようでした。
みんなは泳ごうとはせず、波の揺れに身を任せて、まるで赤ん坊がハンモックの中で喜ぶかのように、その揺れを楽しんでいました。
しばらくは、こうしてうまくいっていました。
でも、たった一つ心配なのは、みんながはなればなれになってしまうことです。
そのとき、暴風に吹きまくられてそばを飛んでいった陸鳥が言いました。
「泳げるものはいいなあ。危険がないんだもの。」
しかし、ガンたちにしても、まったく危険がないわけではありません。
何しろ、波に揺られているうちに、たまらないほど眠くなってくるのです。
それで、みんなはしょっちゅう首を曲げては、くちばしを羽の下に突っ込み、うとうとしようとしてしまいます。
ですからアッカは、ひっきりなしに叫び続けました。
「眠ってはだめだ!眠ったものははぐれてしまうぞ。はぐれた者は死んでしまうぞ!」
いくら眠らないようにと我慢しても、次から次へと眠り込む者が出てきました。
アッカ自身でさえも、つい、うとうとしかけました。
そのときです。何やら丸くて黒いものが、波頭に浮かび上がりました。
「アザラシだ!アザラシだ!アザラシだ!」
アッカは耳をつんざくような鋭い叫び声を上げながら、激しく羽ばたいて空へ舞い上がりました。
まさに間一髪でした。
最後のガンが水から飛び上がったとき、あやうくアザラシに足をくわえられるところでした。
こうしてガンたちは再び暴風の中へと戻り、ますます沖へと吹き流されていきました。
暴風は一時も休まず、ガンたちも片時もじっとしていることができません。
もはや陸地は影も形も見えず、見渡すかぎり果てしない海が続いています。
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