ガンたちは思い切って、もう一度海の上へ降りました。
けれども、しばらく波に揺られているうちに、また眠くなってきました。
そして、本当にうとうとし始めたそのとき、またもやアザラシがやってきたのです。
もしもそのとき、アッカがすばやく目を覚まさなかったら、一羽も助からなかったことでしょう。
暴風は一日じゅう休みなく荒れ狂いました。
そして、この季節に渡ってくるたくさんの小鳥の群れを、さんざんな目に遭わせました。
小鳥たちの中には、道に迷って遠い国まで吹き流され、そこで飢え死にしたものもいますし、疲れ果てて海に落ち、溺れ死んだものもいます。
また、絶壁に叩きつけられて無残な死に方をしたものもいれば、アザラシの餌食になったものもいました。
とうとう、さすがのアッカも、いよいよ自分たちの群れもこれまでかと思うようになりました。
今はもう、すっかり疲れ切ってしまいました。
しかも、どこを見回しても、休めるような場所はどこにもありません。
夕方になりますと、海の上へ降りるわけにもいかなくなりました。
というのは、突然、大きな氷の塊があっちにもこっちにも現れてきて、互いにぶつかり合っているのです。
ですから、海の上へ降りたが最後、その氷の間に挟まれて、こなごなにされてしまうでしょう。
そこで、ガンたちは二度ばかり、氷の塊の上へ降り立とうと試みました。ところが、一度は暴風に吹きまくられて水の中に落ちてしまいましたし、もう一度は、むごたらしいアザラシがその氷の塊の上にまで這い上がってきたのです。お日さまの沈むころ、ガンたちはもう一度空に舞い上がりました。みんなは夜が来るのを恐れながら飛び続けました。危険な今夜にかぎって、なんだか早く暗くなるような気がしてなりません。
しかも、恐ろしいことに、陸地はまだ見えないではありませんか。一晩じゅう、海の上にいなければならないとしたら、いったいどうなることでしょう? おそらく、氷の塊のあいだに挟まれて押しつぶされてしまうでしょう。でなければ、アザラシに食われるか、暴風のために離れ離れになってしまうよりほかありません。
空は一面に雲で覆われて、月は姿を隠しています。たちまちのうちに、真っ暗闇になりました。と、同時に、あらゆるものが恐ろしさに満ち満ちて、どんな勇気のある人でも思わずひるんでしまうほどでした。弱り果てた渡り鳥たちの助けを求める叫び声が、一日じゅうむなしく海の上に響いていました。しかし、その声の主の姿さえ見えなくなった今となっては、必死の叫び声がいっそう悲しく、恐ろしく響きました。海の上では、氷の塊がすさまじい音を立てながらぶつかり合っています。アザラシたちは荒々しい狩りの歌を歌っています。まるで天と地とが、今にも崩れようとしているかのようです。
羊
ニールスは、しばらく海を見下ろしていました。と、突然、海が前よりも激しいうなり声を上げているような気がしました。はっとして目を上げてみますと、自分の真正面に、しかもたった二メートルの鼻先に、ものすごい絶壁が切り立っているではありませんか。その足元には、波が真っ白な泡を飛ばして砕け散っています。ガンたちはその崖めがけて、まっしぐらに飛んでいくのです。
ニールスは、今にもその崖にぶつかってこなごなになってしまうのではないかとハラハラしました。けれども、ガンたちはあっという間にその崖を飛び越えてしまいました。すると、前のほうにほら穴に通じる半円形の入り口が見えました。ガンたちはその中に飛び込んで、ようやく安全になりました。
みんなは自分の身の安全を喜ぶ前に、まず考えたことは、仲間のものが無事に着いたかどうかということでした。見ると、たしかにアッカをはじめ、ユクシ、コルメ、ネリエー、ヴィシ、クウシ、それから六羽の若いガン、それにガチョウとダンフィンとオヤユビくんがいます。でも、左の列の先頭を飛ぶカクシの姿が見えません。しかも、だれひとりカクシがどうなったかを知っているものはないのです。
ガンたちは、仲間からはぐれたのがカクシひとりだと知りますと、たいして気にしませんでした。だって、カクシは年もとっていて、利口なガンです。それに、道もよく知り尽くしていますし、仲間の習慣などもよく知っているのです。ですから、カクシならきっといつかは戻ってくるでしょう。
それから、ガンたちはほら穴の中を見回しました。入り口から差し込んでくる光のおかげで、そのほら穴が深くて広いことがわかりました。みんなは、こんな立派な夜の宿が見つかったことを心から喜びました。と、そのとき、仲間のひとりが暗いすみっこのほうに、キラキラした緑の点がいくつも光っているのを見つけました。
「あれは目だ!」とアッカが叫びました。「このほら穴の中には、大きな動物がいるぞ!」
みんなはあわてて入り口のほうへ飛び出しました。けれども、闇の中でもよく見えるオヤユビくんが叫びました。
「逃げなくても大丈夫だよ! 羊が二、三びき、壁のそばに寝ているだけだから!」
ガンたちは、ほら穴の中のほのかな光に目が慣れてくるにつれて、羊たちがはっきり見えてきました。大人の羊たちは、ガンたちと同じくらいいるようです。なおそのほかに、子羊が二、三びきいます。長い、曲がった角のある年とった牡羊が、その群れの頭のように見えます。ガンたちは何度も、お辞儀をしながらその前に進み出ました。そして、「いいところで、お目にかかりました!」と挨拶しましたが、大きな牡羊は寝転んだまま、ひとことも歓迎の挨拶をしてはくれませんでした。
ガンたちは、羊のほら穴の中に自分たちが入り込んだので、きっと羊たちが機嫌を悪くしているのだろうと思いました。
「わたしどもが、ここへ入ってまいりまして、さぞご不快でしょうが、」とアッカが言いました。「なにしろ、暴風に吹き流されて、もうどうしようもなかったのです。
一日じゅう、吹きまくられてしまいました。
今夜一晩だけ泊めていただければ、まことにしあわせなのですが」
しばらくしてから、羊の中の一ぴきがなにか答えましたが、そのとき、そばにいる二、三びきの仲間たちが、深いため息をつきました。
アッカは、以前から羊というものは内気でかわった動物だということは知っていましたが、この羊たちはそうではなく、どうしたらいいのか困っている様子です。
とうとう、悲しげな、長い顔をした年よりの牝羊が、あわれっぽい声で言いました。
「だれひとり、あなたがたをお泊めするのをいやがったりするものはございません。
けれども、ごらんのとおりのあばら家ですから、以前のように、お客さまをおむかえするわけにいかないのです」
「どうぞ、そんなことは気になさらないでください」と、アッカはいそいで言いました。
「きょうは一日じゅうひどい目にあっているものですから、ただ安心して眠れる場所さえあれば、うれしいのです」
アッカがこう言いますと、その牝羊はからだを起こして言いました。
「いえ、ここへお泊まりになるよりは、嵐の中を飛びまわっているほうが、まだましでしょうよ。
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