すると、ロボが他の仲間を牛の死体に近づけないよう見張っているあいだに、やや小さい一匹のおおかみが、少し離れている例の首のほうへ歩み寄り、そこのわなに引っかかったらしい跡があるのです。
「しめた!」と思いました。
その足跡をつけていくと、二キロも行かないところで、案の定、白のメスおおかみブランカが、わなにかかった足をひきずりながら、牝牛の首をくわえて駆けていくのを見つけました。
牛の首は六、七キロもあろうというのに、ブランカの走る速さは人間の足では追いつけないほどでした。
しかし、行く先には岩場がたくさんあったので、とうとう牛の角が岩に引っかかり、ブランカは動けなくなってしまいました。
私たちが近づくと、ブランカはきりりと立ち上がり、ものすごい長ぼえをしました。
すると、はるか木陰から、同じ調子の、それよりも一層高いほえ声が響いてきました。
それは間違いなく、ロボの声でした。私たちはすぐさま獲物を振り上げて近寄ると、ブランカをなぐりつけました。ブランカは力が尽き、最後の悲鳴をあげてぐったりと横に倒れました。私は投げ縄をその首にかけ、端を馬につないで一むち当てると、馬は家の方へ駆け出しました。その間、ロボは遠くでしきりに吠えていましたが、鉄砲を怖がっているのか、私たちのそばへは寄ってきません。
この日、夕方までロボの遠吠えが聞こえていましたが、日が暮れると、その声はだんだんと近づき、次第に悲しい調子を帯びて聞こえてきました。荒々しい声ではなく、長く引いた苦しげなうめきのように聞こえます。「ブランカ、ブランカ!」と呼んでいるかのようです。夜がふけると、その声は一層近くなり、私たちが昼間ブランカを殺した辺りにまで来ました。そこにはブランカの血がたくさん滴っていたので、ロボはそこで起きた出来事を悟ったのでしょう。羊飼いたちも、「これまで、こんなにおおかみの悲しげな声は聞いたことがありません」と言いました。
**百三十個のわな**
この夜、ロボがたった一匹で来たことは、その足跡で分かりました。そしていつもと違って、とても無防備に駆け回ったようです。かれは妻のブランカを殺されたために、心が乱れているのでしょう。かれはブランカの死体を探しに来ましたが、それを見つけられなかったうらみに、戸外の五十メートル先で番犬を噛み殺して去っていきました。
私は、ロボが狂乱していることを知ったので、いよいよわなを要所要所にかけておきました。一度はたしかにその一つに引っかかりましたが、ロボはそれをねじ切って逃げました。その力の強さには、いまさらながら驚かされました。ロボはブランカの死体を見つけるまでは、その辺りを去らないつもりのようです。私はこの機会にかれを退治してやろうと心を砕きました。「惜しいことをした。ブランカを殺さずに、生け捕りにしておとりにしたら、翌日の晩にはきっとロボを捕まえることができたであろう」と悔やまれます。
私は、ありったけのわなを百三十個集め、それを残らず仕掛けて土に埋めました。そのときは毛布を地面に広げた上に座って作業し、人間の臭いが残らないようにしました。そして、あたり一帯にブランカの死体を引きずり回して、土にその臭いを移しました。それからブランカの足を使って、わなとわなの間に足跡をつけました。こうしてできるだけ用心をして作戦を立て、さてその結果はどうかと待ちました。その夜中、一度私はロボの遠吠えを聞いたように思いましたが、確かめることはしませんでした。
翌日、私は早く見回りにでかけました。しかし百三十個ものわなを見て回るため、北の谷間を残したまま日が暮れてしまいました。何の収穫もなく、私たちは家に引き揚げました。すると夕飯の席で、一人の羊飼いがこう語りました。「今朝、北の谷で牛の群れがなんだか騒いでいたようです。何かあったのではないでしょうか」
**青く燃えた目**
私は翌朝早く、胸を躍らせて北の谷へと出かけました。わなを仕掛けておいた場所へ来ると、突然、大きな灰色の姿がむくりと立ち上がり、逃げ出そうともがきました。私は驚きと恐れ、そして喜びに、瞬間的に立ち尽くしてしまいました。私はこのとき、初めてカランポーの谷のおおかみの王、ロボの姿をはっきりと見たのです。
かれは二昼夜の間、わなを抜けようと苦しんだので、今は疲れ果てています。それでも私が近づくと、首の毛を逆立ててものすごくうなり声を出し、たちまち深く低い遠吠えをしてカランポーの谷を震わせました。その叫び声の中には、仲間に救いを求める合図が含まれていたことでしょう。しかし、他のおおかみはついに姿を見せません。
ロボは必死に身をもだえ、私へ飛びかかろうとしますが、わなが四つ連結しているので、重さは百二十キロもあります。いくらもがいても丸太と鉄鎖が一層もつれるばかりで、さすがのロボも今はどうしようもありません。それでも、雪のように白い大きな牙をむき出しにして、鉄鎖を噛み切ろうとします。そのすごさは身の毛がよだつほどです。私が銃床をその鼻先へ差し出すと、激しく噛みついて見事な歯形を深く刻みつけました(私は今もその銃を記念として大事にしています)。
両目は憎しみと怒りに青く燃え、私を睨んで低いうなりを発したとき、私の乗馬は震えて後ずさりしました。しかし、もうロボも飢えと苦闘に疲れ果てているので、やがてぐったりと地面に横になってしまいました。私は投げ縄を手にしましたが、ふとかわいそうだという気持ちがして、「こら悪魔、悪業の数々は今報われるときがきたぞ。さあ、観念しろ」と言いながら、ぱっと縄をその首へ投げかけました。ところがさすがは狼王、ふっと身をかわして縄をくわえ取り、その結び目を噛み切ってずたずたにしてしまったのです。いざとなれば銃弾一発で仕留められるとはいえ、私はその立派な毛皮を傷つけたくなかったので、別の縄を取り出し、まずは木の枝をロボの方へ投げると、かれはそれを歯で受け止めた。
そこで、私はさっと輪を投げてかれの首にかけ、締め上げた。
そのままぐっと引き絞って息の根を止めようとする仲間の手をおしとどめ、私は「待て、殺さずに生かしたまま連れて帰ろう」と言わずにはいられなかった。
ロボにはもう向かってくる力も残っていなかったので、私たちはその口に棒をかませ、太い綱であごを縛り上げた。
いま、かれは完全に観念したような目で私たちを見つめている。
「年貢の納め時が来たのだ。どうにでもしてくれ」
そう言っているかのようだ。
やがて、かれは私たちに見向きさえしなくなった。
そこでみんなでロボの足を縛り、馬に結びつけた。
ロボはうなりも叫びもせず、黙ってなすがままに身を任せた。
その目は光っているが、私たちの方には向けられていない。
遠くの草原をじっと見つめている。
そこには、長い年月かれが君臨した広々とした領地があるのだ。
かれの部下たちは王を失い、今はもう谷間の奥深くへと逃げ去ったことだろう。
私たちは家に帰り着くと、ロボに首輪をかけ、丈夫な鉄鎖でつなぎ、手足を自由にしてから、輪縄を外して家の前の杭に結びつけた。
そこで初めて、私は安心してロボの体を細かく調べることができた。
コメント