応接室の中は、しーんと、しずまりかえっています。
野村さんは、ふしぎに思って、おずおずとドアに近づき、そっと、ドアを開いてみました。
すると、正面のいすに、中村警部らしい、背広の人が、こしかけているのが見えました。
ほかには、だれもいません。
「中村さんですか、わたし野村です」
と、まず、あいさつをしておいて、
「いま、ここへ、あいつが、とびこんできたはずですが……」
「あいつとは、だれですか」
「人形の顔をもって、まっかな服をきたやつです。
くれないの宝冠を、もらいにきたといいました」
「人形怪人ですか」
「そうです。
じぶんで、そう名のりました」
「おかしいですね。
ここへはだれも、はいってきませんでしたよ」
にせの中村警部は、なにくわぬ顔で、答えました。
そのときです。
とつぜん、へやのどこかから、きみのわるい笑い声がひびいてきました。
「うふふふ……、おれはここにいるよ」魔法をつかっているから、きみたちの目には、見えないのだ。
くれないの宝冠は、きっと、ちょうだいするからね」
天井から、聞こえてくるようでもあります。
床の下からひびいてくるようでもあります。
ちっとも方角がわかりませんが、部屋の中にいることは間違いありません。
しかし、怪人の姿は、どこにも見あたらないのです。
「その宝冠というお宝は、どこにおいてあるのですか」
にせの中村警部が、たずねました。
「わたしの書斎の金庫の中です」
「そこへ行ってみましょう。
あいつは魔法つかいみたいなやつですから、金庫なんか、わけなくあけてしまうでしょう。
ひょっとしたら、もう盗まれているかもしれませんよ」
中村警部の言葉に、野村さんは青ざめてしまいました。
すぐさま警部を案内して、書斎へ行ってみました。
金庫の中
書斎には、だれもいません。
金庫も、開いた様子はありません。
両開きの、でっかい金庫です。
その扉がピタリと閉まっています。
「しかし、油断は禁物です。
いちど金庫を開けて、中を調べてみるほうがいいでしょう」
にせの中村警部が言いました。
野村さんに金庫を開けさせて、宝冠をうばいとるつもりングにちがいありません。
そのとき、警部はうっかり、ズボンのポケットに手をいれました。
その拍子に上着がめくれて、まっかな裏地が、ちらっと見えたのです。
野村さんはそれに気がつき、ふっと、おそろしいことを思いつきました。
「腹話術……」と、ひとりごとのようにつぶやきます。
「えっ、なんですって?」
警部がびっくりして、野村さんの顔を見つめました。
「さっきの怪人の声は、腹話術じゃなかったでしょうか」
野村さんが、みょうな笑いをうかべて言いました。
「えっ、腹話術ですって? いったいその腹話術をだれがやったというのです」
「むろん、わたしではありません」
「すると、ぼくが……」
警部が、あきれたような顔をしてみせました。
「そうです。
あなたです。
あなたのほかには、だれもいなかったのです。
中村さん、なぜわたしがこんなことを言うか、おわかりですか。
あなたの上着の裏ですよ。
ボタンをはずして、上着をひろげて見せてくれませんか」
それを聞くと、警部の手が、ぱっとズボンのポケットからあがりました。
その手には、ピストルがぎゅっとにぎられていました。
「手を上げろ。
そして、その椅子にかけるんだ。
すこしでも動いたら、ピストルの弾がとびだすぞ。
さあ、金庫のダイヤルの暗号を言うんだ」
にせ警部は、ついに正体をあらわしました。
そしてピストルの先で野村さんの胸をコツコツとたたきながら、ダイヤルの暗号を言うようにおどすのです。
野村さんはしかたがないので、暗号の文字を答えました。
それはミチコという名前でした。
かわいいみち子ちゃんの名をいただいたものです。
にせ警部は、ピストルをいつでもとりだせるように上着のポケットにいれたまま、金庫の前にしゃがみこみ、ゆっくりとダイヤルをまわしはじめました。
まわすたびに、カチッ、カチッと手ごたえがあって、金庫の錠がはずれます。
おもい鉄の扉が音もなく開いていきます。
五センチ、十センチ、二十センチと開きながら、にせ警部は金庫の中をのぞきこみました。
中は扉の影になっているので、はじめはよくわかりませんでしたが、やがて、そのへんてこなものがはっきり見えてきました。
にせ警部はそれを見ると、「あっ」とさけんで立ちあがり、タジタジとあとじさりをしました。
さすがの怪人も、これにはたまげた様子で、肝をきり抜かれたのです。
ピストルの名人
「き、きさま、いったい何者だっ」
怪人ががなりつけました。
その金庫から出てきた大きなものは、まぎれもない人間だったからです。
金庫の中から、小林少年のニコニコ顔があらわれました。
「ぼくは明智探偵の助手の小林だよ。
きみのあとをしっかりつけたのさ。
葬儀車の中で変装したことも、ちゃんと知っているよ。
そこで、先回りをして金庫の中にかくれて、きみを待っていたのさ。
きみは中村警部なんかじゃない。
人形怪人だ。
もうこの部屋から逃げだすことはできないぞ」
「ウーン、またしても、こしゃくは、ぼくのじゃまをしやがったなッ」
中村警部にばけた怪人は、顔をまっかにしてくやしがりました。
そして、手ばやくポケットからピストルをとりだすと、ピタリと小林くんの胸にねらいをつけました。
「手を上げるんだ。
へんなまねをすると、ぶっぱなすぞっ。
そのままじっとしているんだ。
きょうはひとまずひきあげてやる。
じゃまするやつは、だれであろうと容赦はしない。
ピストルの弾をおみまいしてやるからな。
いいか」
怪人はピストルをかまえながら、ジリッ、ジリッとあとじさりをはじめました。
そのときです。
入口のドアがサッと開きました。
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