初級翻訳・木のウィリアム 第1話

木のウィリアム

むかしむかしのことだった、アイルランドの国にひとりの王さまがいた。
王さまにはとてもうつくしいお妃がいたけれど、子どもはたったひとりの女の子がいるだけだった。
あるとき、お妃は重い病気になってしまい、もう長くは生きられないと自分でわかった。
そこで、お妃は王さまにこんな約束をさせた。「わたしが眠るお墓のうえに、足のサイズほどの高さまで草がのびるまでは、絶対にほかのひとと結婚しないでください」これは破れない魔法の命令(ギャサ)だった。
けれど、王さまとのお別れをかなしく思った娘はとても頭がよかったので、まい晩ちいさなハサミを持ってこっそりお墓に行き、生えてくる草を根本からチョキチョキと刈り取ってしまった。
王さまは、どうしてもまたあたらしいお妃を迎えたいと思っていたのに、どうしてお妃のお墓にいつまでたっても草が生えてこないのか、ふしぎでしかたがなかった。
「いったい、だれがわしをだましているんだ?」
王さまはくびをかしげてぶつぶつ言った。
ある晩、王さまがひそかに墓場へ行ってみると、なんと自分の娘がお墓に生えた草を一生けんめい刈っているところだった。
それを見た王さまは、ものすごく腹をたてた。
「もういい! 年よりだろうが若なかろうが、このあと最初に見た女と、わしはかならず結婚してやる!」
そう叫んで王さまが道に出ると、そこにひとりの気味の悪い鬼婆(おばば)が立っていた。
王さまは自分で言った誓いを破りたくなかったので、しかたなくその鬼婆を連れ帰って、あたらしいお妃にした。
鬼婆がお妃になってからというもの、娘は毎日とてつもなくつらい目にあわされた。そのうえ鬼婆は、いま起こったことをけっして王さまに言いつけてはならないし、もしどんなひどいことが起きるのを見ても、まだ洗礼(せんれい)をうけていない三人の子どものほかには、だれにも話しちゃいけないと、娘にむりやり約束させた。
つぎの日の朝、王さまが狩りに出かけた。その留守のあいだに、鬼婆は王さまがいちばんかわいがっていたとびきりの猟犬を殺してしまった。
夕方になって帰ってきた王さまは、びっくりして鬼婆にたずねた。
「いったい、わしの犬を殺したのはだれだ!」
「そんなこと、あなたの娘がやったにきまっていましょう」
「なぜ、あの子はわしの犬を殺したりしたんだ!」
「わたしは見ていませんから理由はわかりません。でも、だれがやったのかなんて、わたしからは言えませんけどね」
それを聞いた王さまはかんかんに怒った。
「なら、言わせてみせる!」
王さまは娘を深い森の中へと連れていき、なんと木に縛りつけて両手と両足を切りおとし、そのままひとりぼっちで死んでしまうように置いてきぼりにした。
王さまが森から出ようとしたとき、足にチクリととげがささった。そこへ、木にぶら下がった娘が言った。
「わたしに両手と両足が生えて、あなたを治すその日まで、あなたの足はけっしてよくならないでしょう!」
王さまが館に戻ると、なんと足からどんどん木が生えてきて、部屋の窓を開けてそこから木の先を出しておかなければならないほどになってしまった。
ある身分の高い男の人が森のそばを通りかかったとき、王さまの娘がたすけを求めて悲鳴をあげている声を耳にした。
あわてて木のところへ行って娘の痛々しい姿を見ると、男の人はあまりにもかわいそうに思い、自分の家に連れて帰った。そして、娘のからだがすっかり元気になると、自分の奥さんにしたのだった。
それから一年の三分の二が過ぎたころ、王さまの娘はなんと一度に三人の男の子を産んだ。そこへ、ふしぎな妖精のグラーニャ・オーイがたずねてきて、娘に両手と両足を生やしてくれた。そして、こう言ったのだ。
「子どもたちがじぶんで歩けるようになるまでは、まだキリスト教の洗礼をうけさせてはいけませんよ。
実はお前のお父さんの足には木が生えて、いくら切り落としてもまた生えてきてしまうけれど、これを完全に治せるのはお前だけなのです。
お前には『まだ洗礼をうけていない三人の者いがいには、継母がしたことを決して話してはならない』という約束の縛りがあったからこそ、神さまはこの三人の子どもたちをお前に授けてくださったのです。
この子たちが一歳になったら、お父さんのもとへ連れて行きなさい。そして、子どもたちの前ですべての出来事を話すのです。そのあとでお父さんの足の根っこをこすってやれば、お父さんは生まれた日とおんなじ健康なからだにもどるでしょう」
自分のお嫁さんに両手と両足が生えているのを見た夫は、目をまるくしてびっくりした。
娘は、グラーニャ・オーイに言われたことを夫にぜんぶ話した。
息子たちがちょうど一歳になると、娘は三人の子を連れて、王さまのいる館へとむかった。
そのころ、エリンじゅうから呼ばれたたくさんの医者たちが王さまにつきそっていたが、だれひとりとして王さまの足をどうすることもできなかった。
娘が部屋に入ってきたけれど、王さまはすっかり弱っていて、それが自分の娘だとは気がつかなかった。
娘は静かに腰をかけ、三人の息子を自分のまわりに座らせた。そして、これまでのいきさつを、はじめからおわりまでひとつ残らず声に出して話して聞かせた。王さまも、ベッドの上でそれをじっと聞いていた。
ぜんぶ話しおわると、娘は王さまの足のうらにそっと手をあてた。すると、ふしぎなことに、足に生えていた木がポロリとはがれ落ちたのだ。
つぎの日、王さまは自分をだまし、娘をいじめた鬼婆をしばり首にして処刑し、自分の広いたくさんの土地を、娘とその夫にゆずったのだった。

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