難しい役をやるのだから、我々は火星兵団の中でも、特別にご褒美をもらっているのだ。
姿だって、人間そっくりの道具をもらっているではないか」
怪人・丸木と、その部下の火星人のあいだに、とんでもない会話が続いています。
それは、地球の人間を捕まえることについてでした。
これを聞いていた新田先生は、顔色を変えました。
丸木はこの前、
(地球が壊れる前に、君たち地球の人間をできるだけたくさん、救ってあげたいと思っているのだ)
と言いましたが、その当時、先生は丸木たちの親切にお礼を言ったものでした。
ところが、今聞いてみると、丸木は、
(人間を集めるのだ。
人間を捕えるのだ!)
と、部下に話をしているのでした。
丸木たちは、人間を捕虜にして、火星へ連れて行くつもりらしいのです。
「けしからん。
地球人類が、火星人の捕虜なんかになってたまるものか」
と、新田先生は物陰でひとり、歯をくいしばりました。
しかし、そうは言っても、地球が壊れる日はもう目の前に迫っています。
そのうえ、この洞穴を見ていてもよくわかるように、知恵にかけては人間よりも火星人の方がずっと進んでいるようです。
たとえば、火星人たちの持っている火星のボートだって、実にすばらしいものです。
人間の力では、とてもあのようなものを作ることはできません。
だから、まともに戦えば、これはどうしても火星人の勝ちで、地球人類の負けになってしまうでしょう。
これは大変なことになったものです。
「では、二十四時間のあとに、お前たちは人間狩りに出発するのだぞ。
それまでは十分に栄養をとったり、人間に見破られないような練習を積んだりしておけ」
丸木は隊長らしく厳かに命令し、そして心こまやかな注意を部下たちに与えたのでした。
先生は、差し迫った事件を前にして悩みました。
35 佐々刑事
こっちは、佐々刑事でした。
彼は丸木のあとを追って暗闇の中を歩いているうちに、とうとう相手の姿を見失ってしまったのです。
実はその時、丸木は隊員たちのところへ行って、例の「二十四時間後に東京へ出発すること」を話すため、洞穴の中へ入っていったのでした。
そうして丸木の話は、新田先生によってすっかり聞かれてしまったのです。
そうとは知らない佐々刑事は、丸木の姿を見失ったことを大変残念に思いつつ、通りかかったのが、一隻の火星のボートのそばだったのです。その火星のボートは、例の通り大きな塔のような巨体を、地面に対して少し傾け気味にしてそびえ立っていましたが、ふと見ると扉が少し開いていました。
「おや、これは……」
火星のボートに出入りするのはとても厳重だったため、これまで佐々刑事はその中を覗こうとしても、一度も成功したことがありませんでした。
ところが今、めずらしく火星のボートの扉が少し開いていて、中からぼんやりとした明かりが見えるのです。
「ふむ、これはまたとない大チャンスだ」
そう言うと、佐々刑事は身をひるがえし、ボートのそばへ近づきました。
扉に手をかけて中を覗いてみると、ちょうどいい具合に誰もいません。
火星人の見張り番か誰かが、扉の鍵をかけ忘れてどこかへ行ってしまったようです。
「こいつはラッキーだ。
それじゃあ、遠慮はなしに入ってみるか」
佐々刑事は、世の中に怖いものなど何一つ知らない男でした。
だから扉が開いていれば、後のことなど大して心配もせず、のこのこと中に入っていくような性格だったのです。
佐々刑事は、丸木と同じような格好をして、火星のボートの入り口から中へと入り込みました。
誰もいません!
「おやおや、誰もいないぞ。
どうしたというのかなあ」
佐々刑事は、あたりをキョロキョロと見回しながら、しばらくそのあたりを歩き回りました。
がらんとした部屋で、何もありせん。
そのうちに、彼はなんとなく扉に手をかけて動かしてみていると、どういう拍子だったのか、扉がぐうっと動き出し、やがてバタンと大きな音を立てて閉まってしまいました。
「あっ、扉が閉まったぞ!」
そう言うと、佐々刑事は扉のところへ駆けつけてハンドルを握り、扉を開けようとしました。
ところがそのハンドルは、どういうわけか右にも左にも回りません。
したがって、扉は閉まったままで、開かないのです。
普通の人間なら、このあたりで顔色を変えて青ざめるところですが、さすがは佐々刑事です。
特に驚く様子もなく、慌てることもなく、
「ははーん、扉にかぎがかかっちゃったんだろうな。
まあ、いいか。
そのうちに誰かが開けに来るだろ」
と、すっかり落ち着き払って、彼は次の部屋へと進んでいきました。
次の部屋は、ものすごく臭いました。
彼がこれまでに一度もかいことがないような、変なにおいがしたのです。
その部屋は、どうやら休憩室のような場所でした。
ここにも誰もいません。
さらに別の扉を開けると、そこは機械室になっていました。
天井が急に高くなり、まるで大きなビルの床を三階分もぶち抜いたかのような高さでした。
そこが確かに機械室なのは間違いありませんでしたが、地球上の工場には、こんな風変わりな機械室を持っているところなどありません。
まるで、化学工場と変電所と大砲の要塞をすべて合体させたような形をしていました。
火星のボートの中を、すみずみまでこんなふうに歩いて見て回ったのは、人間の中では佐々刑事の他にはいないでしょう。
佐々は階段を登り、だんだんと上へ上がっていきました。
そして、ついにいちばんてっぺんまでたどり着いたのです。
すると、どこからか何かしきりに話し合っているような声が聞こえてきました。
「おや、いったい誰だろう?」
佐々は廊下で足を止め、耳を澄ませました。
話し声は、どうやら壁の中から聞こえてくるようです。
「変だな、この壁の中に部屋があるらしいが、いったいどこから出入りするんだろう?」
佐々があたりを見回しても、特別な扉らしきものは見当たりません。
その時、話し声がピタリと止まりました。
「おや?」
佐々は壁の方へ耳をピタリと寄せました。
すると、どこかで「するする」と扉が開くような音がしました。
佐々は素早くふたたびあたりを見回しました。
「あっ!」
ちょうど彼の立っていた後ろの廊下の真ん中に、大きな丸い穴がぽっかりと開き始めたのです。
それは見る見るうちに大きくなり、人間の体がすっぽり入れるくらいの大きさになりました。
これを見た佐々は、素早く身を伏せました。
すると今度は、別の「ぐうぐう」という音がして、穴の中から二つの大きな頭がニョキッと現れました。
あっ、火星人だ! 火星人がそこに隠れていたのです。
二人の火星人は、佐々の姿を見つけてびっくり仰天しました。
一度は穴から飛び出そうとしましたが、また急に引っ込もうとします。
「こら、待て!」
佐々刑事は大きな声で叫ぶと、床を蹴って勢いよく跳び起き、二人の火星人めがけて、
「やあッ!」
と飛びかかりました。
佐々刑事は、二人の火星人に姿を見られた以上、このまま引っ込められては警察の面目にかかわると思い、いきなり二人に飛びついたのです。
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