となりの部屋に明かりをつけて、見てくれないか。
ここに図面がある。
この場所じゃよ」
新田先生は図面を片手に、操縦室よりも先にある部屋のドアを開けた。
(冷却管の故障だ)
と、蟻田博士は言っていた。
新田先生は、「本当にそうかな?」と疑いながらも、図面を片手に機械室の中をのぞきこんだ。
そこは狭いスペースにごちゃごちゃと機械が並んでいて、電線やパイプが、まるで生き物の腸(はらわた)のように壁や天井をいっぱいに這いまわっていた。
新田先生は、冷却管はどこにあるだろうかと、機械の間を見回した。
そのとき、先生は、
「おやっ!」
と、思わず声をあげた。
「だれか寝ているぞ。
人間だ!」
先生は機械のうしろで、背中をまるくして倒れている人間を発見してびっくりした。
いったい誰だろう? 何者なのだろうか?
先生は少ししりごみしたけれど、すぐに勇気を出して、その寝ている男をひきおこしてみた。
「あっ、千二くんじゃないか!」
先生はびっくりして大きな声をあげた。
なんと、予想外にもほどがある!
この思いがけない大空艇の客は、行方不明になっていた教え子の千二くんだったのだ。
千二少年といえば、彼はかつて火星兵団の木のようなロボット(丸木)につかまって、長いついとらわれの身となっていた。
丸木は、少年が逃げ出さないようにと、頭に「電気帽」というものをかぶせておいた。
この電気帽というのは、電気の力で人間の脳のはたらきを縛りつけるものなのだ。
人間の考える力というのは電気の作用なのだと突き止めた、恐ろしい火星人の学者が作り出したものだった。
千二はこれをかぶせられていたために、「丸木のところから逃げ出そう」なんていう考えが一切思い浮かばないように、頭を縛られていたのである。
その千二が、どうして丸木のそばから逃げ出し、こんなところにもぐり込んで眠っているのだろうか?
千二は、一体どうやって丸木のところから逃げ出せたのだろうか?
そのわけは、もう勘の良い読者なら気づいているかもしれないが、ある朝、千二がかぶっていた電気帽のネジがゆるんで、下にポロリと落ちたのが原因だった。
電気帽のネジが落ちたことを、丸木はまったく知らなかったのだ。
もし知っていれば、すぐに千二のそばへやってきて、ネジをギュッと締め直したことだろう。
しかし千二は、電気帽がポロッと落ちたとたん、まるで長い夢からさめたように頭がハッとした!
そうして、すべてのことがパッとわかったのである。
――頭が縛られるような変な帽子が発明されるかもしれないということは、以前、新田先生から教えられたことがあった。
千二はそれから丸木の目を盗んで、思いきって逃げ出したのだ。
ちょうどそのとき、丸木は大騒ぎの警報におどろいて、外へ飛び出していた。
千二は、
(今だ!
逃げるなら今しかない!)
と思って、裏口から一目散に逃げ出したのである。
少年の足はものすごく速い。
どんどん山を下っていくと、ちょうど運のいいことに、一台のオートバイが走ってきた。
千二はそれを見ると「神様のお告げだ!」と思い、大きく手を挙げた。
オートバイは千二の目の前でキュッと止まった。
乗っていたのは、ひとりの陸軍の下士官だった。
千二は手短にわけを話して、その下士官のバイクに乗せてもらったのだ。
そして、全速力で東京までやってきた。
下士官は丸の内の方に急用があったので、千二は芝公園のあたりでバイクを下ろしてもらった。
それから千二は、見覚えのある博士のお屋敷の跡地へやってきて、地底へ入る入口を見つけ、ずんずん進んでいくうちに、とうとうこの大空艇の奥深くまでやってきてしまったのだ。
でも、博士にも新田先生にも会えないまま、あまりの疲れ果てて、冷却管の上にパタンと倒れて眠り込んでしまったというわけだった。
千二はこうして、無事に新田先生のところへもどってきたのである。
「ふうむ、そういうわけだったのか。
先生は、千二くんがどうしているかと、いっつも心配していたんだよ」
新田先生は、千二の手をギュッと握りしめて、ほっと大きなため息をついた。
「先生、ありがとうございます……!」
千二も、胸がいっぱいになってしまった。
「おいおい、新田!
何をしているんだ!
用事がすんだら、さっさとこっちへ来かんか!
何をひとり言をペチャクチャしゃべっとるんだ!」
博士がとなりの部屋からどなった。
新田先生は、千二がもどってきた嬉しさで頭がいっぱいになっていて、博士から言いつけられていたことをすっかり忘れていた。
「これは大変なことをしちゃったぞ!」
「はい、ただいま!
――こ、今すぐ冷却管を調べます!」
「冷却管はもういいんだよ!
何をぼけっとしてるんだ!」
「はあ? 冷却管はもういいのですか?」
「ちゃんと直ったよ。
お前がそこを触ったから、直ったんじゃないか」
「ははあ、そうなんですか!」
先生はまったくちんぷんかんぷんな返事をしながらも、相変わらず冷却管のあたりをのぞきこんでいるのだった。千二がそれを見て、
「先生、冷却管がどうかしたのですか」
「うむ、冷却管に水が通らなくなって大騒ぎしていたのだ。そこに見える冷却管がねえ……」
と、先生は言いかけたが、そのときハッと気がついて、思わず笑い出した。
「あ、わかったぞ。冷却管の上に千二くんが寝ていたんだ。だから、体の重みで冷却管がペチャンコにつぶれて、水が通らなかったんだな。なあんだ、そんなことだったのか」
58 遮蔽網(しゃへいもう)
冷却管はいつの間にかうまくなおっていた。博士はそれでやっと安心した。
今や大空艇は、音高く甲州(こうしゅう)の空めがけて飛んでいく。
「博士、冷却管の故障を見つけにいったら、そこにこの少年がいたのです」
「なんだと、その少年がいたというのか。どこかでで見かけたような子どもだが、いったい誰だったかな」
「千二くんだいすよ」
「千二くん? そうか、そうか、思い出したぞ。天狗岩(てんぐいわ)で火星のボートを見つけたのは、この少年だったな」
「そうです」
「それに、火星人を見たのも、わしを除けばこの千二くんがはじめてじゃ。しかし、なぜこんなところにいたのかね」
そこで先生は、千二にかわって彼のこれまでの身の上を話した。
千二が丸木につかまり、それから電気帽をかぶせられて「じょうしん(情心)」の先生をさせられているうちに、電気帽のネジがゆるんで下に落ちたため、正気にもどり、ここまで逃げ戻ってきたいきさつを話していると、
「もういい、話はそのくらいにしておけ。火星兵団の宇宙艇がむこうに見えてきたぞ」
「えっ、見えましたか!」
「いるぞ、いるぞ。わが突撃隊のいる森の上にとりついている。まるで鳶(とび)がけんかしているように見える。おお、森めがけて何かあやしい光線をあてているぞ。あれは鉄がとける怪力線(かいりょくせん)にちがいない。お前たちも、そこにある望遠鏡をのぞいてみなさい」
新田先生と千二は、博士に言われて望遠鏡に目をあてた。
なるほど、よく見える。博士の言ったとおりだ。
そのとき博士が、困ったような声で言った。
「はて、あの中で、どれが丸木の乗っている宇宙艇かしらん」
「丸木の乗っている宇宙艇ですか。
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