それならぼくがよく知っていますよ」
千二がポンと前へ進み出た。
「知っているのか。知っているなら教えてくれ」
「望遠鏡でよく見るとわかるんです。丸木の宇宙艇には、背中のところに赤い三角の旗が立っているんですよ。それが司令艇(しれいてい)です」
「ほう、赤い三角の旗が立っているか。うむ、見えた。あれじゃな。わかった、わかった」
「丸木の宇宙艇をまっさきをやっつけるのですか?」
と、千二少年はちょっと気の毒になって博士にたずねた。
「悪いやつは遠慮なく、どしどしやっつけなければならん!」
すると千二が、
「博士、丸木は悪いやつかもしれませんが、ぼくは丸木に『じょうしん』をおこすことを教えたので、ぼくはいわば丸木の先生です。そうなりますよねえ」
「それはそうだ」
「ぼくは丸木を、いい火星人になおしてやりたいのです」
「だめだよ。火星の生物は植物が進化したやつなんだから、生まれつき残虐(ざんこく)だ。どんなむごたらしいことでもやってのける。少しくらい情(なさけ)の心を教えても、たぶんそれは無駄だよ」
「でも、ぼくはきっとそれができると思うのです。しかし、丸木はあばれん坊です。ですから博士、丸木とうまく捕虜(ほりょ)にすることはできませんか? そうしたらぼくが……」
と、千二が熱心に博士を説いているうちに、博士はハッとした顔になった。
「ああ、とうとう火星兵団はわたしたちを見つけたようじゃ。おお、方向をかえてこっちへ向かって来るぞ! おい新田、ガス砲の発射準備だ! その席についてねらいを定めるのだ!」
丸木を兵団長とする火星の宇宙艇は、ついに蟻田博士の大空艇の姿を見つけたようである。
さかんに大江山ガス砲隊陣地を怪力線で攻撃していた宇宙艇隊の中から、五箇艇(ごかてい)ばかりが艇の首をこちらへ向きかえた。
「来るぞ! 新田、いよいよ来たぞ!」
博士は叫んだ。老人とも見えない元気をみせる博士であった。
新田先生はガス砲の引き金に指をかけ、敵影(てきえい)めがけてねらいをさだめた。
「博士、大丈夫です。用意はできました」
「そうか。まっさきに飛んでくるやつから打ち落とそう」
博士は落ち着きをみせた。
千二少年は望遠鏡にぴたりと目をあて、敵の様子がどうなるかと、汗をかきながら見つめている。
「博士、いま前からこっちへ向かってくる艇の中には、丸木の乗っている宇宙艇はまじっていないですよ」
「そうかね。お前はそこで、そうして丸木の乗っている艇を見つけてくれ」わかったら、すぐ知らせるのだよ」
「博士、さっき、ぼくがおねがいしたことは、どうなるのですか」
「ああ、丸木を捕虜にすることか。
まあ、考えておく。
――そら、来たぞ」
「博士、敵は、なんだか、あやしい光線を出しました。
あれは、怪力線じゃないのですか」
と、新田先生がさけぶ。
「そうだ、あれは怪力線だ」
「では、わたしたちが今のっている大空艇は、やっつけられるのではありませんか。
つまり、鉄のかべが、怪力線のため、どろどろととけてしまって、墜落するのではありませんか」
「なあに、大丈夫じゃ。
わしは、そんなことは、ちゃんと、かんがえてあるのじゃ」
そうしているうちに、火星兵団の怪力線は、ものすごく、大空艇にあつまってきた。
火星の宇宙艇がはなつ怪力線は、きみのわるい光をあげて、蟻田博士たちののっている大空艇に、あつまってきた。
さあ、たいへん。
怪力線は、大空艇にあたって、金属でできた胴を、とろとろと、とかしてしまうであろう。
そうなったら、たいへんではないか。
しかし、博士は、大丈夫だという。
「ほんとうに、大丈夫ですか」
「まあ、見ておれ」
博士は、大空艇を操縦して、おそれげもなく、火星の宇宙艇のまっただ中にとびこんでいく。
敵の方では、おどろいた。
ぱっと、四方に、とびのいて、みちをあけた。
博士は、操縦桿をひいて、飛行機のように、あざやかに、宙がえりをうった。
「新田、撃て!」
博士は、つよく、命令した。
「は」
新田は、ねらいの中に、ちょうどはいってきた宇宙艇を、これさいわいと、うでに力を入れて、引金をひいた。
ごうん、ごうん。
機関砲からは、ガス弾が、うなりをあげて、とびだしていく。
たちまち、火星の宇宙艇の胴中に、ミシンで穴をあけたような穴があいた。
そうして、その穴からは、黄いろい煙が、すうっとでてきた。
それが、その宇宙艇の致命傷であった。
宇宙艇の巨体は、まもなく、胴のまん中から、ぱくりと二つにわれた。
そうして、あわてふためき、空中にほうりだされる火星人が、黒豆を、ふりまいたように見えた。
こんな痛快なことはない。
「撃て、撃て! 新田!」
博士は、はげました。
「やります!」
と、さけんで、先生は、ねらいを次へうつした。
「撃て、撃て!」
博士は、叫ぶ。
「やりますっ!」
新田先生は、敵の二番艇にねらいをつけて、引金をひいた。
ごうん、ごうん、ごうん。
ガス弾は、大空艇のへさきから、たてつづけに、撃ちだされる。
敵の二番艇は、たちまち、黄いろいけむりにつつまれてしまった。
「ああ、先生、あぶない。
うしろから、やってくるのがいますよ」
千二少年が、叫んだ。
「なに、うしろから?」
先生は、博士の方を見る。
「うしろは、ほうっておけ。
うしろから来てもかまわん」
「大丈夫ですか、博士」
「大丈夫だ」
と、言っているとき、大空艇は、突然烈しい震動をはじめた。
がらがらがら、がたがたがた――と、今にも、大空艇が、ばらばらになってしまいそうに、烈しく震動する。
「博士、あの音は……」
「あの音か。
あれは、うしろから来た火星の宇宙艇が、怪力線を、わが大空艇に、あびせかけたのだ」
「えっ、この艇に、怪力線が命中したのですか。
そいつは、たいへんだ。
艇はこわれてしまうのではありませんか」
「大丈夫だと、いくども言っているではないか」
「しかし博士、怪力線という奴は……」
「心配するな。
そんなこともあろうかと、わしは、わが大空艇の外に、怪力線よけの遮蔽網をはっておいた。
あの音は、その遮蔽網が怪力線を吸いとる時に出る音だ」
「ああ、そうですか。
それは、よかった」
「おい、撃て、新田。
あと三台の敵艇を、はやいところ、片づけろ」
今、かれとわれとの戦闘は、火のように熱している。
二台はうちおとされ、のこる三台の火星の宇宙艇は、にげるかと思いのほか、さらにはげしく蟻田艇におそいかかった。
怪力線は、まるで大雷雨の中の電光のように、蟻田艇をつつんだ。
艇を、やいてしまおうと、火星人はやっきとなっている。
しかし、博士が、あらかじめこのことを考えて、艇をつつんでおいた遮蔽網は、よく怪力線をもちこたえている。
時に怪力線は、はげしく艇の外を金づちで乱打するようにきこえる。
そうして今にもこわれそうに、ものすごく震動する。
そのたびに、
(もう、いけないのじゃないか)
と、新田先生は気が気でない。
だが、いつも、蟻田博士の用意しておいた遮蔽網は、怪力線をくいとめる。
「新田、どうした、早く撃てというのに……」
博士のさいそくだ。
先生は、
「ただ今……」
と、こたえる。
が、引金を引くいい時が、なかなかやってこない。
初級翻訳・火星兵団 第94話
海野 十三
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