初級翻訳・神さんが降りてきた。 第2話

植松 真人

でな、住吉大社のスターの神さんも、ちょっと天狗になってはってやな。
わしらがまわりでいろいろとお世話してたんや。
けどなあ、わし、あんまり神さん同士のつきあいはうまないんよ。
どっちか言うたら人間の方に、親近感ちゅうかなあ、そういうあたたかいもんを感じるんや。
それで、ついつい、『あいつはええ奴やから、ちゃんと願い事叶えてあげてください』って、上の人に頼んでしもたんよ。
そしたら、めっちゃ怒られてなあ。
『お前に何が分かるんや』って言われてしもてさ。
そない言われたら、わしだってもう……。
イヤな思いまでして、偉い神さんのご機嫌取りや段取りなんてやってられへんわ。
わしだって、昔は町内の小さな神社で、近所の人らにえらい可愛がられて、お供えものとかもらったことあるしな。
神さん言うても、人間臭いところはけっこうあるもんやねんで。
それで、『もうええわい!』ってなって、わし、スターの神さんの横面(ほっぺた)を張ってしもてな。
そうなると、今度は仲間の神さんたちが黙ってへんがな。
『はよ謝りや』『このままだと貧乏神に降格させられるで』って、みんな心配して気をつこて(気を使って)くれるんや。
けど、そういうこと言い出した時は、たいがい『ここから出ていってくれ』っていう無言の合図なんよ。
そらそうやわな。
みんな機嫌よくやっているのに、わしみたいなはみ出し者がおったら、全体の調子が狂うからな。
それで、わし、大阪を飛び出して東京に流れてきたんや」

――どうだい?
おもしろい話だろ。
それでね、この神さんが自動販売機の中に入ることになった経緯(いきさつ)というのが、これまたなかなかユニークなんだ。
神さんは最初、東京の巣鴨あたりにいたらしいんだよ。
おじいちゃんやおばあちゃんがたくさん集まる、あの街さ。
大阪で言うたらどの辺になるんやろ、石切さん(石切神社)の参道とか、あの辺りかなあ。
よくわからんけどさ。
それでね、巣鴨あたりでぼんやりと穏やかな余生を過ごそうと思ってたらしいんだ。
もともとこの神さんは、大阪の平野あたりの小さな集落にいたって言ってたな。
そこには神社とも言えないような、地蔵盆の時にみんなが集まる小さな場所があって、そこで細々と神さんをやっていたらしいねん。
そやから、巣鴨のおじいちゃんやおばあちゃんたちを見て、故郷を思い出して懐かしかったんだろうな。
けどね、さっきも言うたように、この神さんは超・お客様第一主義のいい奴やろ?だから、人に頼まれたら全部の願いを聞いてしまうらしいねん。
人から言われた願い事をぜんぶ叶えていたら、どんなに元気な神さんだって体がもつわけないよね。
しかも、この神さんは、大阪でトップスタアになれなかった「その他大勢」の神さんだからさ。
それほどものすごい超・霊験あらたかな力があるわけじゃないんだ。
それで、ついにはストレスでノイローゼになってしもたらしいんや。

「わしもいろいろ考えたんやで。
近所の同業者の神さんに相談してみたりしてな。
そしたら、『お前、もっと街の中心街へ行ったらどうや?』って言ってくれる人があってな。
なんでも、都会の真ん中へ行くと、一人ひとりの信仰心は薄いけど、お金と引き換えになら、真剣に拝んでくれる奴がいくらだいる言うてな。
最初はわしも、『お金と引き換えに神頼みを受けるなんてなあ……』って思ったんやけどさ。
よくよく考えてみたら、でっかい神社の神さんたちだって、結局はお賽銭(お金)で生活してるわけやしな。
わしみたいな力の弱い神さんにしてみたら、お金を払ってくれたその人のためにだけ一生懸命仕事をした方が、ええ仕事ができるような気がしたんや」

神さん、そんな可愛いことを言いはるんだよ。
それでね、いよいよ東京の真ん中に出てきたらしいんだけど、そんなもん、神さんがいくら駅前で大きな声を張り上げて「わしを信心してくれ!」なんて叫んだところで、誰もそんな怪しいやつの言うことなんて聞くわけないよね。
そんな胡散臭い話、誰も相手にするわけがないんだ。
そうやって途方に暮れながらあちこち歩き回っているうちに、神さんは新橋の駅前にある古い機関車(SL広場の展示車両)のところまで辿り着いたらしいんだ。
その時はもう、飲むず食うずで、行き倒れ寸前だったらしいで。
命からがら機関車の中に入ってみたら、なんだかいい匂いがしてさ。
ふと見ると、なんと自分と同じような小さな神さんが二人、干物を網で焼いて、ワンカップで一杯やっている最中だったんだってさ。「あんまり旨そうな匂いがするから、わしふらふら二人の方へ寄って行ったんや。
そしたら、こっちこい、これくえ、これ飲め、言うてな。
お前も関西から流れてきたんか、わしらもや、言うて、えらいようしてくれて。
それが、同じ自動販売機に入ってた恋愛の神さんと勝負の神さんや。
別に、わしもそうやけど、専門分野に長けた神さんという意味やないんやで。
たまたま、落ちてた雑誌の占いコーナー見てたら、世の中の人間はこういうことにやっぱり興味があるんやろうなあってことになってな。
それやったら、担当決めて、夜の街で商売した方がええんとちゃうかって、三人できめたんや」

勝負の神さんも、恋愛の神さんもどっちも男らしいわ。
その日暮らしでええんやったら、まあ、三人くらい食えるで、いうことになったらしいねん。
そうこうしてる内に半年くらいあっと言う間やってんて。
ある日、勝負の神さんが「今が勝負のチャンスや」言うて叫んだらしい。
「なんのチャンスやねんて、わしが聞いたらな、勝負の神さんが言いよんねん。
『なんか新しい商売始めたら絶対うまいこといく』言うてな。
それやったら、仕事のことやから、わしの専門やんか。
そのわしがそんなこと考えへんかったんやから、まあ、ええ加減なもんなんやろ。
けど、毎日、夜の酔っぱらいばっかり相手にしてるのもなあっちゅうことで、商売始めたわけよ。
それがあの自動販売機やねん」

そない言うても、神さんが自分で自動販売機作れるわけないしな。
結局、古めのジュースの自動販売機見つけてきて、自分らで勝手にペンキで字書いたらしいわ。
素人が勝手に書いた字やから、おれが見た時には消えかけてたんやな。
古い自動販売機やから、メンテナンスの兄ちゃんもええ加減なチェックしかせえへんし、神さんらの商売には打ってつけやったらしい。
「けどなあ、なんぼ自動販売機でもジュースより安い値段で売られるとは思わんかった。
安すぎる言うて文句言うてんけどな。
勝負の神さんが『お賽銭見てみ?たいがい五円玉一枚やで。
それに比べたら割のええ仕事やんけ』て言うしな。
わしもだんだんそんな気になってきたわけや。
けど、ちょっと考えたら、一日の実入りで言うと神社とは偉いちがいやねんけどな。
その時は、まあええか、てなもんやわな」

そんなこんなで、自動販売機に入って、時々、なんかの弾みでボタン押してくれる人を待って生活してたらしいねん。
おれもだんだん神さんの話聞いてる内に、この神さんのファンになってたからなあ。
さっき、なんで契約辞めとけ言わはったんですか、言うて聞いてみたんや。
そしたら、何言うたと思う。

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