このことが帝のお耳に達しましたので、使いを遣わしてお見舞いがありました。翁は委細を語り、
「この八月の十五日には天から迎えの者が来ると申しております。その時には人数を遣わして、月の都の人々を捕らえてくださいませ」
と、泣く泣くお願いしました。
使いが帰りついてその通りを申し上げると、帝は翁に同情され、いよいよ十五日が来ると、高野の少将という人を勅使として、武士二千人を遣わして竹取の翁の家を警護させました。さて、屋根の上には千人、家のまわりの土手の上にも千人というふうに手分けをして、天から降りてくる人々を撃退する手はずを整えました。
この他にも、家に仕えている者たちが大勢、武器を構えて今か今かと待ち構えています。
家の中は女たちが番をし、おばあさんは姫を抱えて土蔵の中へと入り、翁は土蔵の戸をしっかりと閉めて、戸口に控えています。
その時、姫は言いました。
「そんなことをなさっても、何の役にも立ちません。
あの国の人たちが来れば、どこの戸もみなひとりでに開いてしまいますし、戦おうとする人たちも、まるで力が抜けて萎えてしまい、戦う気力も失せてしまうでしょう」
「いやいや、そんなことはない。迎えの奴らがやってきたら、ひどい目にあわせて追い返してやる!」
と翁は意気込んでいました。
姫も、年老いたお二人のこれからを見届けることもなく別れるのかと思うと、老いも悲しみもないというあの国へ帰ることも、少しも嬉しくはないと言って、また嘆き悲しみます。
そうこうしているうちに夜も半ばになったかと思うと、家のあたりが急に明るくなりました。その明るさは満月の十倍ほどもあり、人々の毛穴まで見えるほどです。
その時、空から雲に乗った人々が降りてきて、地面から五尺(約1.5メートル)ほどの空中にずらりと並び立ちました。
「それ、来たぞ!」と、武士たちが武器を手に取って立ち向かおうとしましたが、誰も彼もが何かに魅入られたように戦う気力も失せ、力も入らず、ただぼんやりとして目をぱちくりさせているばかりです。
そこへ月の使者たちは、空を飛ぶ車を一つ持ってきました。
その中から頭らしき一人が翁を呼び出して言いました。
「お前よ、翁よ。お前が少しばかり良い行いをしたので、それを助けるために短い間だけ姫を預け、たくさんの黄金を儲けさせてやったのだ。今や姫の罪も消えたので迎えに来た。早く姫を返すのだ」
と叫びます。
翁が少ししぶっていると、そんなことには構わずに、
「さあさあ、姫。こんな汚い場所にいつまでもいるものではありません」
と言って、例の車を差し寄せると、不思議なことにあれほど堅く閉ざしていた格子戸や土蔵の扉が自然と開き、姫の体はするすると外へ出てしまいました。
翁が引き留めようともがくのを、姫は静かにおさえました。そして、形見の手紙を書いて翁に渡し、また帝へ差し上げる別の手紙を書いて、そこに月の人々が持ってきた「不死の薬」一壺を添えて勅使に託しました。姫は天の羽衣を身にまとい、あの車に乗ると、百人ほどの天人たちに取り囲まれて、空高くへと昇っていきました。
これを見送って、翁夫婦はまたひとしきり声を上げて泣きましたが、どうすることもできませんでした。
一方、勅使は宮中に参上して、その夜の一部始終を報告し、姫からの手紙と薬を帝に差し上げました。
帝は、天に一番近い山は駿河の国にあるとお聞きになり、使役の役人をその山へと登らせて、不死の薬を山頂で焚かせました。
それからはこの山を「不死の山(ふじのやま)」と呼ぶようになり、その薬の煙は今でも雲の中へと立ち昇っているということです。
初級翻訳・竹取物語 第3話
和田 万吉
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