初級翻訳・今昔物語 第1話

今昔物語

むかし、式部大輔(しきぶのたいふ)の大江匡衡(おおえのまさひら)という人がいました。
まだ大学の学生だったころのお話です。

この人はとても頭が良くて天才でしたが、見た目が少し変わっていて、背が高く、肩が突き出していて見苦しかったので、まわりの人たちによく笑われていました。

ある時、宮中(きゅうちゅう)にいる女官(じょかん――宮中で働く女性たち)たちが、この匡衡をからかってやろうとたくらんで、和琴(わごん――日本古来の琴)を差し出して、
「あなたは、どんなことでも知っているということですので、この琴もお弾きになるでしょう。
さあ、一つ弾いて聞かせてください」
と言いました。

匡衡は、それには何も言い返さず、

逢坂(おうさか)の関(せき)のあなたもまだ見ねば
    東(あずま)のことも知られざりけり
(逢坂の関の向こう側をまだ見たことがないので、東国(あずま)の事情も知ることができないのです――つまり、「私をバカにする前に、あなたたちも自分の無知を知りなさい」という意味を込めた歌です)

という歌を詠みました。

女官たちは、これに対する見事な返歌(へんか)をつくることができなかったので、笑って嫌がらせをすることもできなくなり、一人立ち、二人立ちして、みんな奥の方へ逃げていってしまいました。

この匡衡は、漢文や漢詩のほうはものすごい名人でしたが、そのうえ和歌もこのように見事に詠んだと、人から人へ語り伝えられたということです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました