初級翻訳・肉屋に化けた人鬼 第4話

牧 逸馬

もちろん、滑稽な悪口に過ぎないのだが、野犬か何かを撲殺して、その肉を詰め込んだのがこのフランクフルト腸詰だ、だから犬なのだというわけである。
この根も葉もない噂から、次のような笑い話が生まれた。

ある子供が、長いこと肉屋の前を行ったり来たりして、しきりに店の奥をのぞき込んでいるので、肉屋の主人がうるさがって、ついに怒り出した。
「おい、小僧、何だってそんな所に立って見ているんだ」
すると子供はすました顔で言った。
「僕の犬がいなくなっちゃったんだ」
「なに? お前の犬がいなくなったからって、何も俺の知ったことじゃないじゃないか」
「そうかもしれないけど、でも、変だなあ。僕がここで口笛を吹くと、あの向こうにぶら下がっている腸詰がひらひら動くよ」
……というのだが、これは犬の肉だという前提があるからこその笑い話で済まされる。

一九一九年の九月にウンストルフ刑務所を出所したフリッツ・ハアルマンは、その足でハノーファーへ帰ったが、ツェラー通りの古巣には戻らなかった。
すぐ近所の横町であるノイエストラッセ一〇三番地に新居を構え、以前と同じように肉屋を始めた。
ハアルマンが本格的な活動に入り、四十八人の少年を襲い虐殺したその大部分の犯行は、実にこのノイエストラッセ一〇三番地の家と、後に移転したロッテ・ライルにある古いユダヤ人街の住居において行われたものである。

この四十八人という数は、裁判の公判でハアルマン自身が豪語した数字であり、裁判記録には、以下の二十八名だけが犠牲者表として記載されている。

一、フリイデル・ロッテ(十二歳、ウィイツェル在住)
二、フリッツ・フランケ(十七歳、ベルリン)
三、ヴィルヘルム・シュルツェ(十一歳、ベルリン)
四、ローランド・フッフ(十五歳、オスナブルック市)
五、ハンス・ゼンネンフェルト(二十歳、ベルリン)
六、エルンスト・エーレンベルク(十三歳、ミュンスター)
七、ハインリヒ・シュルース(年齢・住所不詳)
八、パウル・ブロニシェフスキ(十五歳、ボーフム在住)
九、リヒャルト・グラーフ(十七歳、ハノーファー市)
十、ヴィルヘルム・エルトナー(十七歳)
十一、ヘルマン・ヴォルフ(十六歳、ミンデン町)
十二、ハインツ・ブリンクマン(十三歳、ハノーファー)
十三、アドルフ・ヘニエス(十七歳、ポツダム)
十四、ハンス・カイメス(十七歳、ドレスデン)
十五、エルンスト・シュピーッカー(十七歳、ベルリン)
十六、ハインリヒ・コッホ(十八歳、住所不詳)
十七、ヴィリー・ゼンガー(二十歳、ヘルツベルヒ在住)
十八、ヘルマン・シュパイヒャート(十五歳、ミンデン近郊)
十九、アルフレート・ホーグレーフェ(十七歳、ベルリン)
二十、ロベルト・ヴィッツェル(十七歳、ベルリン)
二十一、ヘルマン・ボック(二十三歳、ミュンスター)
二十二、ヴィルヘルム・アーペル(十六歳、ヒルデスハイム)
二十三、ハインツ・マルティン(十六歳、ハノーファー)
二十四、フリッツ・ヴィッティヒ(十七歳、ハノーファー)
二十五、フリードリヒ・アーベリング(十歳、ラレンドルフ町)
二十六、フリードリヒ・コッホ(十六歳、住所不詳)
二十七、フリッツ・デ・ヴリース(十七歳、ハノーファー)
二十八、アドルフ・ハンナッペル(年齢・住所不詳)

ハアルマンは前科者であり、一九一八年に出獄してツェラー通り二十七番地に落ち着いた。それから最後に捕縛されるまで、本人は四十八人の少年を、誘拐、監禁、暴行、殺害し、人肉を売り、腸詰を製造するという順序で「処分」したと誇らしげに語っている。人間一人の命がどちらへ転ぼうと大した問題にもならないような、世の中が混乱しきった最中の出来事だから、正確な数はもちろん判っていない。
しかし、フリイデル・ロッテ事件から数えて、大体二週間に一人の割合で殺していた計算になる。

これらの少年たちは皆、戦争が生んだ浮浪児で、あてもなく家出してきてはハノーファーの停車場の内外で乞食同然の生活をしていた者たちだ。
闇に飲み込まれるように消息が絶たれ、発見される見込みもなく、警察に届け出ても真剣に動いてはくれないため、両親たちはどうすることもできなかった。
常に何十人もの、時には百人を超えるような家出少年の群れが、特に夜になるとハノーファーの街中から停車場に集まってきて、明日の食料を確保するあてもなく、待合室の腰掛けに重なり合って眠っていた。
そこへ、刑事を装ったフリッツ・ハアルマンが毎夜のように現れては、少年たちを次々と起こして回るのだった。こうして彼は、自分の変な好みを満足させるために、美しい少年たちを物色しました。
疲れ果てて生きる気力も失い、何もかもどうでもよくなっている子供たちにとって、警察をにおわせるハアルマンの脅しは、間違いなく効果てきめんでした。
眠り込んでいる少年たちの顔をひとりひとり覗き込み、これだと思った子を見つけると、彼は威張った態度で叩き起こすのです。
「こら、どうしてこんなところで寝ているんだ!」
その声は、起こされた少年たちにとって、まさに運命の分かれ道でした。というより、死刑宣告にも等しい言葉だったのです。
目を覚ますと、警察官のような格好をした顔の赤い男が、叱りつけるように睨みつけて立っています。
しかし、その少年がとても可愛らしい顔立ちをしていれば、ハアルマンはすぐにニヤニヤし始め、少しだけ声のトーンを優しくするのです。
「お前、家はないのか?」
そして、少年の様子や返答に合わせて、「警察署に連れて行ってやる」と言ったり、「温かい飯を食べさせてゆっくり休ませてやる」と誘ったりして、難なく停車場から連れ出し、ツェラー通り、後にはノイエストラッセの肉屋の二階へと連れ去りました。
駅の硬くて冷たいベンチで寝るよりは警察のほうがいいと考える子供もいたでしょうし、とにかく食事ができるならと、みんな喜んでハアルマンについて停車場を去っていきました。
そして、一度出ると二度と戻ってくることはありませんでした。
その中に、再び生きて姿を見せた者は一人もいませんでした。
それでも、フリッツ・ハアルマンは相変わらず、愛想のいい「街の肉屋」として振る舞っていました。
朝早くから元気に仕事に取りかかり、せっせと肉を切ります。
「血だらけの前掛け」をして、鼻歌まじりに肉を叩き、大きな骨から肉を切り離していくのです。
骨は、足元のブリキ缶へ山のように投げ込まれます。
肉は肉で、血が滴ったまま、背後の壁の釘に刺して吊るしておきます。
それは新鮮な子牛の肉でした。
少し古くなると、腸詰(ソーセージ)に加工します。
フリッツ・ハアルマンの店は、いつ行っても品揃えが豊富でした。
冷蔵庫には、小さく切った肉片が、段ごとにきちんと並べられていたのです。
血と肉と骨は、肉屋にとって日常の光景です。
近所の人たちは少しも不思議に思うことはなく、店主のハアルマンは日ごとに血色が良くなり、陽気で、のんきで、少し太ってきて、町内の人気者になっていきました。
若い衆が入れ替わり立ち替わり店に入ってきては、バカ話をしていきます。
店の前を通る町内の人たちに、ハアルマンは肉を片手に大声で挨拶を交わします。
月日は流れました。

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