初級翻訳・若草物語 第40話

オルコット ルイーザ・メイ

メグは、机の引き出しにいつでも電報が打てるよう、用紙を用意しました。
12月1日は、冬らしい寒い日で、風が吹き荒れて雪が降っていました。
その朝、バンクス先生は診察を終えるとこう言いました。
「もし、奥様がご主人のそばを離れられるようなら、呼んだほうがいいでしょう」

ハンナは静かにうなずきました。メグはショックで椅子にぐったりと倒れ込みました。
真っ青になったジョーは、電報の用紙をひったくると、吹雪の中へ飛び出していきました。
まもなくジョーが帰ってくると、ローリーがやって来ました。お父様がまた良くなってきたという手紙を持ってきてくれたのです。
けれど、ジョーの顔があまりに悲しみにあふれていたので、ローリーは言いました。
「どうしたの? ベスの具合が悪いの?」

「ええ、お母様に電報を打ってきたわ。もう私たちの顔もわからないのよ。お父様もお母様もいないし、神様も遠くへ行ってしまわれたみたい!」
ジョーの目から、涙が滝のようにあふれ出しました。
ジョーがふらふらと倒れそうになったので、ローリーはその手をつかみました。何か慰めの言葉をかけようとしましたが、言葉が見つからず、ただジョーの顔を優しくなでてあげました。
ジョーはその無言の優しさを心に感じて、やっと落ち着きを取り戻すと、感謝の気持ちを込めて顔を上げました。

「ありがとう。もう大丈夫よ。もし万が一のことがあっても、耐えてみせるわ」
「僕は、ベスが死ぬなんて思わないよ。あんなにいい子だし、僕たちがこんなに可愛がっているんだもの。神様が連れていってしまうはずがないよ」「やさしい、かわいい子は、いつでも先に亡くなってしまうのね」

「きみ、疲れているんだね。そんな心細いことを言うなんて、きみらしくないよ。ちょっと待ってて」

ローリーは階段を駆け上がると、すぐにワインをいっぱいに注いだグラスを持って戻ってきました。ジョーはにっこり笑って、「ベスの健康のために飲むわ」と言ってそれを飲み干しました。

「あなた、いいお医者さんね。それに、本当に気持ちのいいお友だちだわ。どうやってお返ししたらいいのかしら」
「そのうち勘定書を送るよ。それから、今夜はワインよりもずっときみの心をあたためるものをあげる」
「なんなの?」
「昨日、電報を打っておいたんだ。そうしたらブルック先生から、すぐに向かうという返電が来たよ。だから、お母様は今晩お帰りになる。そうすれば、万事好都合だろう? ぼくのしたこと、気に入らない?」

ジョーは狂喜して叫びました。
「ああ、ローリー! お母様が! うれしい!」

ジョーはローリーにしがみつき、彼をびっくりさせてしまいました。けれど、ローリーは落ち着いてジョーの背中をさすり、彼女が少し落ち着くのを見届けてから、二三度恥ずかしそうにキスをしました。それでジョーは急に我に返り、優しく彼を押し返しながら、息を弾ませて言いました。

「だめよ、あたしそんなつもりじゃなかったの。いけなかったわ。でも、ハンナがあんなに反対していたのに、電報を打ってくださったと思うと、うれしくて飛びつかずにいられなかったの。きっとワインのせいだわ」

ローリーは笑いながらネクタイを直しました。
「かまわないさ。ぼくもおじいさんも、とても心配していたんだ。もしもベスに万一のことがあれば、申し訳ないと思ってね。ハンナはぼくが電報を打つと言ったら怒鳴りつけたけれど、かえって決心がついて打ってしまったんだ。終列車は午前二時に着くから、ぼくが迎えに行くよ」
「ローリー、あなた天使だわ。どんなにお礼を言えばいいかわからないわ」
「じゃあ、もう一度飛びつきたまえ」と、ローリーがいたずらっぽい顔をして言いました。
「いいえ、もうたくさん。おじい様がいらしたら、その時に飛びついてあげるわ。さあ、あなたはお迎えに行ってくださるのだから、早く帰ってお休みになって」

ジョーはそのまま台所へ駆け込み、そこにいた猫にまで、うれしい知らせを言って聞かせました。ハンナは、「おせっかいな小僧さんだが、勘弁してあげましょ。奥様が早くお帰りになるんだから」と言いました。

まるで新しい空気がさっと流れ込んできたような喜びでした。あらゆるものが希望に満ちてきました。姉妹たちは顔を合わせるごとに、「お母様が帰っていらっしゃるのよ」と、励まし合うようにささやきました。ベスだけは見るも痛ましく、重苦しい昏睡状態に陥っていましたが、それでも姉妹たちは神様とお母様を信頼していたので、今までほど心は苦しくありませんでした。

吹雪の一日が暮れて、とうとう夜が来ました。バンクス先生が来て、回復するのか悪化するのか、いずれにしても真夜中ごろに変化が起きるだろうから、そのころまた来ると言って帰っていきました。ハンナは疲れきって、ソファに横になって眠ってしまいました。ローレンス氏は客間をあちこち歩き回っていました。ローリーはストーブの前に横たわって、じっと火を見つめていました。姉妹たちは少しも眠くなくて、一生忘れることのないような、引き締まった気持ちでベスのそばにいました。

「もし神様がベスをお助けくださったら、あたしもう二度と不平を言わないわ」
メグが熱心にささやくと、ジョーも「あたしは一生、神様にお仕えする」と答えました。

やがて十二時が鳴りました。二人はベスのやつれた顔に、何か変化が起きたような気がしたので、われ知らず病人の顔を見守りました。家の中は死のように静まり返り、むせび泣くような風の音だけが聞こえました。一時間が過ぎましたが、ローリーが停車場へ迎えに出かけたほか、何ごとも起きませんでした。

さらに一時間が過ぎました。吹雪のために汽車が遅れているのでしょうか、それとも、お父様に大きな悲しみでも起きたのでしょうか。あわれな姉妹たちは、また心を悩ませはじめました。二時までジョーは窓のそばへ行って外を見ていましたが、ふと振り返ると、メグがひざまずいています。

「ああ、ベスが死んだんだわ。メグは怖くてあたしに言えないのね」

そう考えると、さっと冷たい恐怖が全身を通り抜けました。ジョーはすぐにベスのそばへ行きました。苦しそうな様子は消えて、いかにも安らかな顔です。ジョーは泣く気にも悲しむ気にもなれず、かわいいベスの上に身をかがめて、その湿った額に唇をあてました。「さよなら、ベス。さよなら……!」
 その気配でハンナが目をさまし、いそいでベッドのそばへやってきました。ベスの手にさわったり、唇に耳をよせて息をたしかめたりしていましたが、
「ありがたいわ、熱が下がりましたよ。すやすやと眠っていらっしゃる。肌もしっとりしているし、呼吸も楽になられたわ」と、言いました。
 姉妹たちが、このうれしい変化を信じられずにいるうちに、バンクス先生がやってきて太鼓判を押してくれました。
「もう危険は去ったよ。ゆっくり眠らせてあげなさい」
 その言葉を聞いたとき、お医者さんの顔がまるで神様のように神々しく見えました。
 先生が帰ったあと、メグとジョー、それにハンナは、大きな安心につつまれて、抱き合ったり手をにぎり合ったりして、喜びの中で夢のような時間を過ごしました。
 冬の夜が、ようやく明け始めました。

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