部屋のあちこちで七輪の火が赤々と燃えていて、男の人たちが、ある人はしゃがみ込み、ある人は片ひざをつきながら七輪を取り囲んで、三十人から四十人ほどがぎっしり詰まっています。
みんなでお肉の内臓部分を焼きながら、にごり酒の入った白いお酒の器をまわし合い、歌を歌い合っていました。
部屋の隅っこでは一人の男の人が太鼓をトントンと打ち鳴らし、真ん中ではさっきの親方コブセが立ち上がって踊っている真っ最中でした。
背中のかたまりをゆさゆさ揺らし、両手を広げてひょこひょこ踊るその姿は、本物のいわゆる「コブセ踊り」(朝鮮の有名な庶民の踊りです)そのもので、私にはどうしても笑い出しそうになってしまうものでした。でも、ほかの人たちはさすが親方の踊りだけあって、誰も笑い出すことなく、すっかり夢中になって大きな声で歌い、同じように肩を揺らして踊っていました。
歌は、愛し合う二人が別れる悲しい民謡でした。
別れの火となり
焼くはわが心
涙ぞ雨とならば
火も消さんに
溜息風となり
心一入(ひとしお)燃ゆ
「実は今日、この人たちが南へ出稼ぎに行くんだよ。それで、あの親方が……」と、O君はコブセをあごで指しながら、私の耳にこそっと囁きました。
「盛大な送り出しの宴会をするっていうんで、みんなを引き止めたわけさ。僕も電車を三、四本待ってみても来ないから、あきらめてここに戻ってきたところなんだよ」
「何人くらい行くんだい?」
「あいつの子分だけで、ざっと二十人ほどさ」
「いつか君が話していたのは、あの人のことだろう? さっきタバコ屋さんでケンカしていたんだよ」と私が言うと、O君はふっと笑い出しました。
私はO君から、一度や二度ではなく、彼の話を聞かされていたのです。
あんなに大変なハンデを抱えているのに、少しも心がひねくれていないどころか、ものすごく子分思いの親方で、普通の人が聞いたらびっくりするくらい口も達者で行動力もあり、そのうえ「どんな困難にもぶつかって乗り越えてやる」という気性の持ち主だと、O君は大絶賛していました。
しかも、彼がやると決めてうまくいかなかったことは一つもないと聞いていましたが、私はまさにさっき、それを自分の目でしっかりと確かめてきたところだったのです。
それを思い出すと、こんな面白い話もありました。
この親方は、故郷からある一度結婚して出戻った女性を、写真のお見合いで呼び寄せたのですが、夜になって女性が彼の小屋に来てみて、親方が想像以上に背中が曲がっていることにびっくりし、「死んでもいやだ!」と仲人さんに断りの宣言をしたそうです。
すると、それまで丸い体の中に小さな首をすっぽり埋めてちょこんと座っていた親方は、突然二、三尺(約60〜90センチ)ほどずりずりと這い出して、「ちょっと待った」と手を挙げ、いつものしわがれた低い声で叫んだそうです。
「はるばる俺のために来てくれたんだから、とにかく××××××××、明日冷静にこれからどうするか決めようじゃないか」
そして、とうとうそのまますすんでその夜が明け、朝になって仲人さんがおずおずと首を出し、「おかみさん、やっぱり今日、故郷に帰りますかね?」と尋ねたところ、彼女はブンブンと首を横に振ったそうで、このエピソードだけでも、親方コブセがいかに普通の人間ではないかがよく分かるという話でした。
私はその話を思い出して、一人でにやにやと笑い続けました。
こういった少し品のない話の本当ウソはさておき、さっきのタバコ屋での出来事や、あんな体でありながら夢中になって踊れるところを見れば、彼なら本当にやりかねないことだと感心したからです。
――
「えっ、そうかい? じゃあ、お釣りのことかい? さっきそんな話が出た時、またあわてて店から抜け出していく様子が見えたから、『どうせまたやったんだな』と思ったよ。
あれで実は、あのタバコ屋の娘さんに本気で恋をしているんだよね。
娘の父親は何でも昔、県の課長までしていた人で、今は地域の班長なんだけど、一時は本気で二人のことを心配していたっていう話だよ。
要するに、自分だってみっぱら立派な一人前の男だっていう誇りを持っているからね。
一人前どころか、今やっと二十九歳の若さなのに、しかもあんな体をしていて、子分として自分の手足のように動く土工さんを三百人ほども抱えているんだからね。
……まあ、お酒を飲みなさい。
これもあの親方が手に入れたお手製の密造酒だよ。
おいしいだろう?
さあ、どんどん三杯目だ」と言いながら、にごり酒を注ぎつつ、「オルシグ、ゾータ、ゾーチ!」と、歌の音頭を取りました。
私もすっかり楽しくなって、お酒の器を重ね、久しぶりにありついた美味しいお肉に舌鼓を打ちました。
そのうちに、あちこちから男の人たちが真ん中へ飛び出してきてみんなで踊り出し、歌声はますます悲しげな調子を帯びてきました。
果てしない青い山々をさまよっても
私を迎えに来てくれる人は誰一人いない
翼のある鶴になれるなら
あなたのいる場所へもすぐに飛んでいけるのに
山はどこまでも重なり千の峰を作り
水はどこまでも広がる大海原なのだ
「とにかく、あれはこのX市の仲間たちにとってはなくてはならない男なんだよ。厄介な問題も、あの人が出てくれば大抵うまくいくんだから、全く不思議なものさ」と、O君はまたひそひそ声で話し始めました。
「ところで、あのコブセ親方の笑い方には十二種類もあるそうだよ。
怒った時の三種類と、満足した時の三種類と、悲しい時の三種類と、それから寝る前のと、寝顔でのと、起きてからのとそれぞれ一種類ずつで、合わせて十二種類なんだ。ほら、今踊りながらキングコングみたいに笑っているだろう。
あれは悲しい時の笑い方なのさ」
「僕もさっき一種類見たけどね」
「どんな笑い方だった?」
「へへへへっていう、なんだか背筋がゾッとするような笑い方だったよ」
「ほうほう、それじゃあ今回の作戦もいつものように大成功だったってわけだな。
それは満足した時の笑い方だけど、でもまあ、その中でも下のほうの笑い方だな。
ということは、娘さんと二人きりで会うことはできなかったみたいだな……」
「さすがによく分かっているね。その通りだよ」と私が感心してうなずいていると、突然、誰かに襟首をグイッと掴まれて、ずるずると引っ張り出されてしまいました。
「踊れ!」と、底から響くような太い声が怒鳴りつけました。
振り返ってみると、親方コブセが目に青い炎をちらつかせながら、ぎらりと睨みつけています。
「人様のあったかい小屋に土足で上がり込んだからには、それなりの覚悟ができているんだろうな。
この人たちはな、国の計画に従ってこれから南へ出発するんだぞ。
理由はなんだっていい、別れの記念に踊るんだ……さあ、長鼓(ちょうご:韓国の伝統的な太鼓)を叩け!」
すると、トタントトタンという長鼓の軽快な音とともに、みんなが一斉に「わあーっ!」と大きな声を上げ、小屋の床がぐらぐらと揺れ動き出しました。
O君は頭をポリポリとかきながら、にやにやと笑っています。
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