初級翻訳・酔っぱらい星 第2話

小川 未明

佐吉は、なんだか見覚えのあるおじいさんのような気がしたので、じっとその顔を見上げました。
すると、
「あぁ、寒い、寒い。わしに酒を飲ませておくれ。」
とおじいさんが言いました。
佐吉は、とっくりを隠すようにしながら、
「これはお父さんのところへ持って行かなきゃいけないんだから、おじいさんにあげるわけにはいかないよ。お父さんが家で待っているんだから。」
と答えました。
「たまには、お父さんも我慢すればいいさ。今夜はあまりに寒くて、わしはもうたまらんのだ。毎晩、おまえがぐっすり眠るのを空から見守っているが、あまりの寒さにたまらなくなって降りてきちゃったのさ。」
とおじいさんは言いました。
そう言われてみれば、確かに毎晩寝るときに空に見上げていた、あの小さなお星さまでした。
そして、よくよく見ると、おじいさんは頭にとんがり帽子をかぶっていました。
佐吉がどうしたらいいものかとぽかんと驚いていると、おじいさんは佐吉の手からとっくりを奪い取り、トクトクと音を立てて自分の口にお酒を流し込み、いかにもおいしそうにすっかり飲み干してしまいました。
「あぁ、これでやっといい気持ちになったぞ。もうどんな風が吹いても寒くない。」
とひとり言を言いながら、背の小さなおじいさんは、よちよちと凍った雪の上を歩きはじめました。

佐吉はお父さんに怒られやしないかと心配しながら家へ帰りました。
そして、おじいさんに酒を飲まれてしまったことをお父さんに話すと、やっぱりお父さんは、佐吉をバカだと言って怒りました。
「おまえはキツネにでもだまされたんだ。でなければ、転んで酒をこぼしてしまったにちがいない。」
とお父さんは言って、佐吉の話を信じませんでした。

それからまもなく、佐吉は布団に入りました。
そして、いつもどおり高い窓の破れ目から大空を見上げると、なんと不思議なことに、あのとんがり帽子を頭にかぶったおじいさんが、よちよちと転びそうになりながら、大空を上っていくではありませんか。
今にも霜が降りてきそうなほど、空はピカピカと光っています。
そして星明かりで青黒いガラスのように冴えわたった空は、すみからすみまで綺麗に拭き清められたようで、下のほうにある黒い木立の影まで映るほどでした。
おじいさんは、一寸法師のようにだんだん高く、高く、目に見えない縄をたぐるようにして上っていきましたが、お酒に酔っ払っているので、右にグラリ、左にグラリと転げそうになっていました。
ふと、その拍子に頭に乗せていたとんがり帽子がポロッと落ちました。
帽子は、きらきらと小さな火の粉のようにきらめきながら、下へと落ちていったのでした。はっと思って佐吉は、すぐにふとんから起き上がろうとしましたが、「やっぱり、明日行ってみよう」と思いなおして、そのまま眠ってしまったのでした。
朝が来ると、佐吉はお父さんといっしょに、昨日の夜におじいさんと出会った野原へ行ってみました。
すると、ちょうどおじいさんの帽子が落ちたあたりの、まっ白な雪の上に、銀色にキラキラと光る小さな三角の石が一つ、ぽつんと落ちていたのです。
「これはめずらしい石だなあ」
とお父さんが言いました。
ふたりはその石を拾って家に帰りましたが、しばらくたってから、その石をとても大きなお金を出して買ってくれた人がいたため、貧しかった親子は、それから急に幸せな暮らしを送るようになったということです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました