初級翻訳・神童 第4話

実吉 捷郎

すると演奏壇の前には、神童を囲む輪と、大公夫人を囲む輪という二つの大きな人だかりが出来上がり、どちらが主役でどちらが謁見を許されているのか、よくわからない状態になった。
しかし、侍女は命令を受けてビビイのもとへ向かうと、彼の絹の上着を軽くつまんで整え、参内の資格を与えたうえで、自分の腕に彼の手をかけさせ、大公夫人の前まで連れていった。そして、妃殿下の御手に接吻するようにと、厳かに合図をした。

「そなたは、どうしてあのように上手に弾けるのかえ?」
と大公夫人が尋ねる。
「あそこに座ると、自然と心に浮かんでくるのですか?」
「はい、その通りでございます」
ビビイはそう答える。しかし心の中では、「なんだい、ばかな婆さんだなあ……」と思っている。
やがて彼は、恥ずかしそうに、かつ無作法にくるりと背を向けると、再び自分の家族のもとへと戻っていった。

外のクロークでは、黒山のような人だかりができている。
人々は番号札を高く掲げ、両腕を広げて、カウンター越しに毛皮のコートや襟巻き、オーバーシューズを受け取っている。
どこかで例のピアノの女教師が、知人たちに囲まれて批評を試みている。
「どうも直截(ちょくせつ)なところが足りませんわね」
彼女はそう言って、あたりを見回す……。

大きな壁鏡の前で、上品な若い淑女が、兄弟である二人の少尉に、夜の外套や毛皮の靴を着せてもらっている。
青黒い瞳と、純血種のような清明な顔立ちをした佳人だ。正真正銘の貴族の令嬢である。
支度が済むと、令嬢は兄弟たちを待った。
「そんなにいつまでも鏡の前に立っているものじゃないことよ、アドルフ」
彼女は、鏡に映る自分の素朴で美しい顔から離れられずにいる兄弟の一人に、小声でたしなめるように言った。
へえ、これはご挨拶ですね。失礼ながら、アドルフ少尉だって鏡の前で外套のボタンくらい留めていてもいいではありませんか。
やがて彼らは立ち去った。

アーク灯が雪の煙にぼんやりとかすむ往来に出ると、アドルフ少尉は歩きながら、足を軽く蹴るように動かし、襟を立てて、両手を外套のポケットに突っ込んだまま、固く凍りついた雪の上で、ちょっとした黒ん坊踊りを演じはじめた。あまりの寒さゆえである。
「子供ね」
両腕をだらりと下げて、一人の陰気な青年と連れ立って歩く、髪を散らした少女が思う。
「かわいらしい子供ね。あの中にいたのは、崇拝してもいいような……」
それから少女は、大きな単調な声で言った。
「あたしたちはみんな神童なのだわ。あたしたち創造する者はね」
「これは、これは」
例の『選侯領の三人猟師』より上には出られなかった老紳士が考える。こぶはもうシルクハットで隠れている。
「いったい何を言っているのだろう。まあ、デルフィの巫女というところかな」
しかし陰気な青年は、少女の言葉を真に受けて、ゆっくりとうなずく。
そのまま二人は黙り込んだ。そして髪を散らした少女は、貴族の姉弟たちを見送る。
少女は彼らを軽蔑している。しかし見送るのだ――彼らの姿が角を曲がって見えなくなるまで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました