待ちきれなくなった大納言は、自分でも遠い海へ漕ぎ出しました。「龍を見つけ次第、矢先にかけて射落としてやる」と意気込んでいたのですが、船は九州の方へ吹き流されてしまいました。激しい雷雨に打たれ、その後、明石の浜に打ち上げられた大納言は、波風に揉まれて死人のような姿で磯端に倒れていました。
ようやくのことで、国の役人の世話により手輿(てごし)に乗せられて家に戻りました。
そこへ家来たちが駆けつけてお見舞いを申し上げると、大納言は杏のように赤く腫れた目を開いて言いました。
「龍は雷のようなものだった。あれを殺そうなどとしたら、この命はなかっただろう。お前たちが龍を捕らえずに戻ってきてくれたおかげだ。よくやってくれた」
そう言って家来を褒め、わずかに残っていた家財を褒美として与えました。
もちろん、姫の難題にはすっかり怖じ気づき、「赫映姫め、とんでもない女だ」と叫んで、二度と近寄ろうとはしませんでした。
五番目の石上中納言は、燕の子安貝を獲るために大変な苦労をしました。人々に相談した末、ある下役の男の助言に従うことにしました。
自分で籠に乗り、綱で高い屋根の棟の上まで引き上げてもらいます。燕が卵を産む様子を伺っていると、ふと平たいものに手が触れました。嬉しくなった中納言は、籠を降ろす合図を送りました。ところが、下にいた者が綱を引くのに失敗し、綱はぷっつりと切れてしまいました。運悪く、その下にあった鼎(かなえ)の上に真っ逆さまに落ち、中納言は気絶してしまいました。
水を飲まされてようやく正気に戻った時、彼は言いました。
「腰は痛いが、子安貝は手に入れたぞ。これを見てくれ」
皆がそれを見ると、それは子安貝ではなく、燕の古糞でした。
中納言はそれきり腰が立たなくなり、心の病も重なって、ついに死んでしまいました。五人の中で、金銭的な出費は少なかったものの、知恵も足りず、一番悲惨な目に遭ったのがこの人でした。
そんな中、赫映姫がこの世のものとは思えないほど美しいという噂を、時の帝がお聞きになりました。帝は一人の女官を呼び、こう命じられました。
「姫の姿がどのようなものか、見てまいれ」
女官はすぐに竹取の翁の家へ向かい、帝の命令を伝え、ぜひ姫に会いたいと願い出ました。翁は恐縮しながらそれを姫に取り次ぎました。
ところが姫は、
「大した器量でもありませんから、お使いの方に会うことはお断りいたします」
と拗ねてしまい、どう説得しても、叱りつけても、決して会おうとはしませんでした。女官は面目なさそうに宮中へ戻り、その旨を報告しました。
帝はさらに翁へ命令を下しました。「もし姫を宮仕えに出すならば、翁に位を授けよう。どうにかして姫を説得し、納得させてくれ」と。親の身として、それくらいのことができないはずはない、と帝は仰せになりました。
翁はその言葉を姫に伝え、ぜひとも帝のお言葉に従って、自分の願いをかなえてほしいと頼みました。すると姫は、
「無理に宮仕えをしろと仰せられるのなら、私の体はこの世から消えてしまいましょう。あなた様がお位を授かって喜ぶ姿を見ることなど、私には死ぬことと同じでございます」
と答えました。これを聞いた翁はびっくりして、
「お位を頂いても、そなたに死なれてしまっては元も子もない。だが、宮仕えをしたからといって、死ななければならない道理などないだろう」
と言って嘆きましたが、姫はますます拒むばかりで、少しも聞き入れる様子がありません。翁もどうすることもできず、どうしても宮中へは上がれない旨を帝にお伝えして、
「この子は私が生んだ子ではありません。昔、山で見つけて育ててきた子ですので、考え方も世間一般の人間とは違っております。残念ではございますが……」
と、恐れ入りながら申し添えました。
帝はこれを聞き入れられ、それならば翁の家にほど近い山辺へ、狩りの行幸をするふりをして姫を見に行こうと考え、そのことを翁に承知させて、決めた日に姫の家へとお出ましになりました。
すると、そこにはまばゆいばかりに照り輝く女性がいました。
これこそが赫映姫に違いないとお思いになり、お近づきになると、その女性は奥へと逃げていきます。
帝がその袖をお取りになると、姫は顔を隠しましたが、最初にちらりとご覧になった時、聞いていたよりもずっと美しい方だと思われ、
「逃げても許さぬ。宮中へ連れて行くぞ」
と仰せられました。
「私がこの国で生まれた人間であるならば、お宮仕えもいたしましょう。ですが、そうではございませんので、お連れになることはかないますまい」
と姫は申し上げました。
「いや、そんなはずはない。どうあっても連れて行く」
帝がかねて用意させていた輿に乗せようとなさると、姫の姿は影のように消えてしまいました。
帝も驚かれて、
「それではもう無理には連れて行くまい。せめて元の姿に戻って見せておくれ。それを見て帰ることにするから」
と仰せになると、姫はやがて元の姿に戻りました。
帝も仕方がありませんから、その日はお帰りになりましたが、それからというもの、これまでずいぶん美しいと思っていた人たちも、姫とは比べものにならないとお思いになるようになりました。
それで、時折お手紙やお歌をお送りになると、姫は一つひとつ丁寧にお返事を差し上げますので、帝はそれによってようやくお心を慰めておいでになりました。
そうこうするうちに三年ほどが過ぎました。
その年の春先から、赫映姫はどうしたわけか、月のきれいな晩になると、その月を眺めては悲しむようになりました。
それがだんだんとひどくなり、七月の十五夜などには泣いてばかりいました。
翁たちが心配して、月を見るのをやめるようにと諭しましたが、
「月を見ずにはいられませぬ」
と言って、やはり月が出る時分になると、わざわざ縁先などへ出ては嘆くのです。
翁にはそれが不思議でもあり、気がかりでもありましたので、ある時そのわけを聞くと、姫はこう答えました。
「今まで度々お話ししようと思いましたが、ご心配をかけるのもどうかと思って、打ち明けることができませんでした。実を申しますと、私はこの国の人間ではありません。月の都の者でございます。ある因縁があってこの世界に来ておりますが、今は帰らねばならない時が来ました。この八月の十五夜に迎えの人たちが来れば、お別れして私は天上へ帰ります。その時はさぞお嘆きになることであろうと、前々から悲しんでいたのでございます」
姫がそう言って泣き入ると、それを聞いた翁も気が狂ったように泣き出しました。
「竹の中から拾ってこの年月、大事に育てたわが子を、誰が迎えに来ようとも渡すものか。もし連れて行かれようものなら、わしこそ死んでしまおう」
「月の都の父母は、少しの間だと言って私をこの国へよこされたのですが、もう長い年月が経ちました。生みの親のことも忘れて、ここのお二人に慣れ親しみましたので、私はお側を離れて行くのが、本当に悲しゅうございます」
二人は大泣きに泣きました。家の者たちも、顔かたちが美しいだけでなく、上品で心立ての優しい姫と、今さら永遠のお別れをするのが悲しくて、食事も喉を通らないほどでした。
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