初級翻訳・耳無芳一の話 第2話

小泉 八雲

絹の着物がこすれる音が、森の木の葉が揺れる音のように響いています。
それからまた、何やらガヤガヤと大勢の声が聞こえてきました――低音で話す声です。
そして、その言葉は宮中で使われるような高貴な言葉でした。
芳一は「気楽に座るように」と言われ、自分のために座布団が用意されていることに気づきました。
そこで芳一はその上に座り、琵琶の調子を合わせると、ある女の声が――芳一はその女を、お屋敷の用事を取り仕切る「老女(ろうじょ)」だと判断しました――芳一に向かってこう言いました。
『今から、琵琶に合わせて平家の物語を語っていただきたいという御所望でございます』

さて、物語をすべて語るには何晩もかかります。そのため、芳一は進んでこう尋ねました。
『物語の全部を語ることはすぐにはできませんが、どの場面を語るのが殿様のご希望でございましょうか?』
女の声が答えました。
『壇ノ浦の戦いの話をお語りなされ――その場面が一番哀れで、心に深く残る場所でございますから』

芳一は声を張り上げ、激しい海戦の歌をうたいました。――琵琶を使って、あるいは櫓(ろ)を漕いで船を進める音を出したり、ヒュッと飛ぶ矢の音、人々の叫び声、足踏みの音、兜(かぶと)に当たる刃の響き、海に落ちる人々の音などを、驚くばかりに再現してみせました。
演奏の合間合間に、芳一は自分の左右から称賛する囁き声を聞きました。――「なんと巧みな琵琶師だろう!」――「自分たちの田舎では、こんな素晴らしい琵琶を聴いたことがない!」――「国中に芳一のような謡い手は、二度と現れまい!」
すると、いっそう勇気が湧いてきて、芳一はますます見事に弾き、うたいました。
そのあまりの迫力に、周囲は静まり返り、息を呑んで聞き入っていました。
しかし、最後に平家が負けてしまう運命――婦人や子供たちの哀れな最期――そして、幼い皇帝を抱きかかえた二位の尼が入水(じゅすい)する場面を語ったときには――聴衆は皆一様に、長く、震えるような苦悶の声を上げ、それからは皆、声を上げて取り乱し、泣き悲しんだので、芳一は自分の語りがこれほどまでに悲しみを引き起こしたことに驚いたほどでした。

しばらくの間、すすり泣く声が続きました。
しかし、やがてその泣き声も消えていき、再び訪れた静寂の中で、芳一は先ほどの老女と思われる女の声を聞きました。
その女はこう言いました。
『私どもは、あなたが琵琶の名人であり、また謡うことにおいても並ぶ者のない方だと聞き及んでおりましたが、今晩お聴かせいただいたような素晴らしい腕前をお持ちだとは思いもしませんでした。
殿様には大変お気に召し、あなたに十分な御礼を差し上げたいとお考えです。
ただ、これから先、六日の間、毎晩一度ずつ殿様の前で演奏を披露してほしいとのご意向でございます――その後、殿様はたぶんお帰りの旅に立たれることと存じます。
ですから、明晩も同じ時刻にここへお越しください。
今夜、あなたを案内したあの家来が、またお迎えに参りましょう……それから、もう一つ、あなたに伝えておくようにと申しつけられたことがございます。』「それは殿様がこの赤間ヶ関に滞在中、貴方がこの御殿へおいでになることを、誰にも決して話さぬようというご希望でございます。殿様は身分を隠してのご旅行ゆえ、このようなことは一切口外せぬようにという厳命でございますので。……では、ただ今よりご自由に、お寺へお帰りください」

芳一は心からの感謝を伝えると、女に手を取られて屋敷の入り口までやってきました。そこには、以前自分を案内してくれたあの家来が待っており、そのまま寺まで送り届けられました。

家来は寺の裏の縁側まで芳一を連れてくると、そこで別れを告げて姿を消しました。芳一が戻ったのはちょうど夜明け前でしたが、寺を留守にしていたことには誰一人として気づきませんでした。住職は、芳一がいつも遅くまで帰ってこないものだと思い込んでいたからです。

日中、芳一は少し休むことができましたが、あの不思議な出来事については、誰にも一言も漏らしませんでした。
翌日の夜中、例の侍が再び芳一を迎えに来て、あのお屋敷へ連れて行きました。芳一はそこでまた琵琶を弾き、前夜と同じように大成功を収めました。

しかし、この二度目の外出の際、芳一が寺を空けていることが偶然にも見つかってしまいました。朝になって寺へ戻ると、芳一はすぐに住職の前に呼び出されました。
住職は、諭すような、それでいて少し叱りつけるような口調で言いました。
「芳一、わしらはお前の身の上を大変心配しておったのだ。目が見えないのに、一人でそんなに遅い時間に出歩くのは危険すぎる。なぜ、わしらに断りもなく出かけたのだ。そうすれば、下男を供につけてやれただろうに。それから、一体どこへ行っていたのかね?」

芳一は言い訳をするように答えました。
「和尚様、どうかお許しください! 少々私用がございまして、ほかの時間にはどうしても片付けることができなかったものでして」

芳一が詳しいことを言おうとしないため、住職は心配というよりも、むしろ大きな不安を感じました。何か不自然なことが起きているのではないか、あるいは、何か悪いことに巻き込まれているのではないかと思ったのです。
住職は、この目の見えない少年が、ひょっとすると悪魔に取り憑かれたか、あるいは何者かに騙されているのではないかと案じました。それ以上は問い詰めませんでしたが、ひそかに寺の下男たちに言い含め、芳一の行動に注意し、暗くなってからまた寺を出るようなことがあれば、その後を尾行するように命じました。

すぐその翌晩、芳一が寺を抜け出すのを見た下男たちは、ただちに提灯に火をともし、後を追いかけました。しかし、その夜は雨が激しく、あたりは非常に暗かったため、下男たちが道に出たときには、すでに芳一の姿は消え失せていました。
芳一は驚くほど早足で歩いていました。目が不自由であることを考えると、道も悪かっただけに、それは不思議なことでした。

男たちは急いで町を通り抜け、芳一がいつも出入りしている家を訪ねて回りましたが、芳一のことなど知っている者は誰もいませんでした。
最後に、男たちは浜辺の方の道から寺へ帰る途中、阿彌陀寺の墓地の方から、盛んに琵琶を奏でる音が聞こえてくることに気づき、一同は驚きました。
暗い夜にはよく見かける、二つ三つの鬼火のほかは、そこは真っ暗闇でした。

しかし、男たちはすぐに墓地へと駆けつけました。提灯の明かりをかざすと、一同はそこに芳一を見つけました。雨の中、安徳天皇の御陵の前にたった一人で座り込み、琵琶をかき鳴らしながら、壇ノ浦の合戦の曲を大声で謡っていたのです。
その背後や周囲、そしていたるところの墓の上で、死者の霊火がまるで蝋燭のように燃え盛っていました。これほど多くの鬼火を、人はこれまで見たことがありませんでした。

「芳一さん! 芳一さん!」下男たちは声をかけました。「貴方は何かに取り憑かれているんだ!……芳一さん!」
しかし、盲目の芳一には聞こえていないようでした。芳一は力を込めて琵琶を「ジャーン、ジャーン」と鳴らし、ますます激しく合戦の曲を謡い続けています。

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