初級翻訳・耳無芳一の話 第3話

小泉 八雲

男たちは芳一に駆け寄り、その耳元で叫びました。
「芳一さん! 芳一さん! すぐに私たちと一緒に家へ帰るんだ!」

すると芳一は、叱りつけるような口調で男たちに向かって言いました。
「この高貴なお方々の前で、そんなふうに私の演奏を邪魔するとは、断じて許さんぞ!」

その場に漂う不気味な雰囲気にもかかわらず、これには下男たちも笑わずにはいられませんでした。芳一が何かに取り憑かれているのは間違いありませんでした。一同は芳一を捕まえると、無理やり立たせ、力任せに急いで寺へと連れ帰りました。
寺に着くと、住職の命により、芳一は濡れた着物を脱がされて新しい服に着替えさせられ、温かい食べ物と飲み物を与えられました。

その後、住職は芳一に対し、この驚くべき行動についてすべて詳しく話すよう厳しく迫りました。芳一は長い間ためらっていましたが、ついに自分の行動が、恩ある住職を恐がらせ、怒らせてしまったことを知り、沈黙を破る決心をしました。そして、最初に侍が現れて以来、起こったことのすべてを包み隠さず語りました。

すると住職は言いました……
「可哀想な男よ。」「芳一、お前の身は今、大変に危ういぞ! もっと前にお前がこのことをすっかり私に話さなかったのは、いかにも不幸なことだった! お前の音楽の素晴らしい才能が、まったく不思議な災難にお前を引き込んでしまったのだ。
お前は決して人の家を訪ねていたのではない。墓地の中、平家の墓の間で夜を過ごしていたのだということに、今はもう気づかなければならない――今夜、下男たちが雨の中に座っているお前を見たが、それは安徳天皇の御陵の前だったのだ。
お前が想像していたことは皆、幻影だ――死んだ人たちが訪ねてきたということ以外はな。
一度死んだ人の言うことを聞いてしまった以上、身をその言いなりに任せてしまったということになる。
もしこれまであったことの上に、またもその言うことを聞いてしまったなら、お前はその人たちに八つ裂きにされてしまうだろう。
しかし、いずれにしても早晩、お前は殺されることになる……ところで、今夜私はお前と一緒にいるわけにはいかない。
私はまた別の場所で法会をするように呼ばれているのだ。
だが、行く前にお前の身体を守るために、その身に経文を書いておかねばなるまい」

日没前、住職と寺の納所(なっしょ)の男は芳一を裸にし、筆を使って二人で芳一の胸、背中、頭、顔、首、手足――身体中どこもかしこも、足の裏にさえも――「般若心経」というお経の文句を書きつけました。
それが済むと、住職は芳一にこう言い聞かせました。
「今夜、私が出かけていったらすぐに、お前は縁側に座って待っていなさい。
すると迎えが来るはずだ。
だが、どんなことがあっても、返事をしたり動いてはならぬ。
口をきかず静かに座っていなさい――まるで禅の修行をしているかのように。
もし動いたり、少しでも声を立てたりすると、お前は切り刻まれてしまう。
怖がって助けを呼ぼうと思ってはいけない。
――助けを呼んだところで、助かるような相手ではないからだ。
私が言う通りに間違いなくしておれば、危険は通り過ぎて、もう怖いことはなくなるだろう」

日が暮れてから、住職と納所は出かけていきました。芳一は言いつけられた通りに縁側に座を占めました。
自分の傍らの板の上に琵琶を置き、入禅の姿勢をとって、じっと静かにしていました――気を配り、咳もせず、息の音さえ聞こえないようにして。
何時間もこうして待っていました。
すると道路の方から足音がやってくるのが聞こえました。
足音は門を通り過ぎ、庭を横切り、縁側に近づいて止まりました――ちょうど芳一の正面に。
「芳一!」と底力のある声が呼びました。
しかし盲目の芳一は息を凝らして、動かずに座っていました。
「芳一!」と再び恐ろしい声が呼ばわりました。
続いて三度目――今度は凶猛な声で――
「芳一!」
芳一は石のように静かにしていました――すると、文句を言うような声でこう聞こえました。
「返事がない!――これはいかん!……奴、どこにいるのか見てやらねばなるまい」
縁側に上がる重苦しい足音がしました。
足はしずしずと近づいてきて、芳一の傍らに止まりました。
それからしばらくの間――その間、芳一は全身が心臓の鼓動に合わせて震えるのを感じました――あたりはまったく静まり返っていました。
ついにすぐ傍で、荒々しい声がこう言いました。
「ここに琵琶はある。だが、琵琶師といえば――ただその耳が二つあるばかりだ!……道理で返事をしないはずだ、返事をする口がないのだ――両耳のほか、琵琶師の身体は何も残っていない……よし、殿様へこの耳を持って行こう――できる限り殿様の仰せられた通りにした証拠にな……」

その瞬間、芳一は鉄のような指で両耳を掴まれ、引きちぎられるのを感じました! 痛みは耐えがたいものでしたが、それでも悲鳴を上げることはしませんでした。
重苦しい足踏みは縁側を通って退いていき――庭に下り――道路の方へ向かって消えていきました。
芳一は頭の両側から、濃く温かいものが滴り落ちてくるのを感じました。
が、あえて両手を上げることもできませんでした……

日の出前に住職が帰ってきました。
急いで裏の縁側のところへ行くと、何やらねばねばしたものを踏みつけて滑り、慄然として声を上げました――それは提灯の明かりで、そのねばねばしたものが血であったと気づいたからです。
しかし、住職は芳一がまだ入禅の姿勢でそこに座っているのを認めました――傷からは、なお血をだらだらと流しながら。
「可哀そうに、芳一!」と驚いた住職は声を上げました――「これはどうしたことか……お前、怪我をしたのか」……
住職の声を聞いて、盲目の芳一は安心しました。
芳一は急に泣き出しました。
そして、涙ながらにその夜の事件を物語りました。
「可哀そうに、可哀そうに芳一!」と住職は叫びました――「みな私の手落ちだ!――酷い私の手落ちだ!……お前の身体中くまなく経文を書いたのに――耳だけが残っていた! そこへ経文を書くことは、納所に任せてしまったのだ……」「……ところで、納所が間違いなく経文を書いたかどうか、ちゃんと確かめておかなかったのは、すべて私の手落ちだ!……いや、もう過ぎてしまったことは仕方がない。とにかく、一刻も早くその傷を治すことにしよう。芳一、まあ喜ぶがいい!――危険はこれで完全に去った。もう二度と、あのような恐ろしい客に悩まされることはないのだから」

親切な医者の手当てのおかげで、芳一の傷はほどなくして治りました。
この不思議な出来事はまたたく間に人々の噂となり、芳一はあっという間に有名になりました。
身分の高い人々が大勢、赤間ヶ関を訪れては芳一の琵琶と語りを聞きたがりました。
そうして芳一はたくさんの金品を贈り物として受け取り、裕福な身分となったのです。
しかし、この事件があって以来、彼は「耳無芳一」という名で呼ばれるようになり、その呼び名で広く知られることになったのでした。

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