もっとも本人は、ヘルマン・ウオルフ殺しだけは否定していますが、その理由がまたとんでもないものです。
このミンデン市から来た十六歳の少年は、自分の興味をそそるには少し醜く、あまりに不潔だったからだ、と言うのです。
またハンス・カイムスもグランスが殺したのだと主張しましたが、グランスはその時刑務所に入っていたので、このハアルマンの言い訳は通用しませんでした。
二十三歳になるヘルマン・ボックを殺害した後は、ハアルマンがしばらくボックの服を着ていたほどです。
それは後に、ボックの父親やハアルマンの近所の人が、その着物を見て証言したことでした。
ボックの場合だけでなく、殺された少年たちの服や所持品は、それぞれ一つずつくらいはノイエストラッセの家で二人に使われていたことが発見されました。
名簿に載っている最後のアドルフ・ハナペルのような場合は、グランスが彼のズボンを欲しがったために、誘拐されたその日の晩にすぐに殺され、翌朝からは「肉」となって店頭に並んでいたのです。ここで少し変わっているのは、ハンス・カイムス殺しと、フリイドリッヒ・アベリンク殺しという二つのケースです。
後者の事件において、これまで実に用心深かったハアルマンが、非常に不注意な動きを見せているのです。
この事件は最後から四番目に起きたものなので、長期にわたる殺人生活に慣れきってしまい、感覚的に神経が鈍くなっていたに違いありません。
一九二四年五月二十五日、その十歳の少年が「お菓子をあげるからついてきな」と言われてノイエストラッセの殺人現場へ連れ去られてから、月が変わった六月十七日のことでした。
フリイドリッヒ・アベリンクは、当時兄と姉と一緒にラレンドルフ町からハノウヴァの伯父さんの家へ来ていて、ウイルヘルム街三一二番に住んでいました。その十七日の夕方、フリイドリッヒの姉でアリスという十四歳の少女が、家の前の通りで近所の子供たちと遊んでいると、突然見知らぬ男が声をかけてきました。「自分はお前の伯父さんの知り合いだ。今お前のところへきれいなカードを持ってきてあげたのだが、お前が留守だったので伯母さんに預けてきたよ」と言うのです。アリスが慌てて家に駆け戻ってみましたが、そんな人が訪ねてきた事実はなく、もちろんカードなども残されていませんでした。
後に証拠を固める際、この少女アリスとその時一緒に遊んでいた子供たちを呼び出してハアルマンを見せると、彼らは一斉に「あの時の見知らぬ男に間違いない」と証言しました。
ハアルマンがなぜそんなことをしたのか、理由はよく分かりません。
男性の少年ばかりを好み、女性には興味がないはずのハアルマンですから、別に声をかけてどうこうしようという気はなかったのでしょう。
ただ、アリスが遊んでいるところへ通りかかったので、ちょっとからかっただけなのかもしれません。しかし、彼はアリスがフリイドリッヒの姉であることや、彼らの家庭の事情を、殺した少年から聞いてある程度まで知っていたはずなのです。
どういうつもりか、おそらく肉を売りに行く途中にでもあったのでしょう、その時彼はフリイドリッヒ少年の雨外套(レインコート)を抱えていました。
それはフリイドリッヒが行方不明になった時に着ていたもので、アリスにはもちろん見覚えがありました。
しかし、きれいなカードという言葉に気を取られて、その時はこの外套を見たことを言うのを忘れていましたが、後日このアリスの証言は、ハアルマンを絞首台へ追い上げる重大な効果を持ったのです。
カイムス殺しの場合は、さらに不可解なものです。
捜索願が出されたことで、ハノウヴァの警察は市内全域にわたってこの十七歳の少年の行方を捜していました。
すると、捜査が開始された数日後のことです。
何となく警察の手が自分に迫っているのを感じたのか、ハアルマンは奇怪な行動に出ました。例の「非公式警官」という民間スパイの肩書きを使い、自分からドレスデンへ出かけていってハンス・カイムスの生家を訪問したのです。
そして、悲しみに暮れている両親から少年の写真を譲り受け、「必ず三日以内に見つけ出して連れて帰ってくる」と約束しました。
さらに奇妙なのは、その足ですぐにハノウヴァ市へ引き返して警察へ出頭し、「愛妻」であるはずのハンス・グランスをカイムス少年殺しの犯人として訴え出たことです。
ところがグランスは、ちょうどその事件の前後で別の罪により刑務所に入っており、彼が犯人であるはずがありません。第一、そのグランスがカイムス失踪の前からずっと収監中であることは、ハアルマン自身が一番よく知っているはずなのです。
なぜこんな無茶な行動をしたのか判断に苦しみますが、それよりもこの事件の特異な点は、遺体が発見された唯一のケースだということです。
カイムスだけは、ハアルマンの肉屋で「商品」として売られることはありませんでした。
二か月後、ハノウヴァ市を貫いてライン川に合流している運河の工事で、偶然発見されたのです。
まるで羊のように、手足が一つに縛られていました。
いかにも肉屋がやりそうな縛り方です。
死因は首を絞められたことによる窒息死でした。
5
いくら大戦直後の混乱期とはいえ、ハノウヴァ市でこれほど大規模な人間(の殺害と販売)が、十六か月もの間、警察の耳目に触れることなく過ぎたというのは少し信じがたいことかもしれません。しかし、これには当時の無政府的な状態に加え、少なくとも二つの特殊な事情が重なり、この稀代の「人鬼」フリッツ・ハアルマンの犯罪の発覚を遅らせたと言えるでしょう。
その一つは、彼の職業が肉屋であり、自宅で肉を切ったり骨を捨てたりすることは日常茶飯事だったため、血だらけのテーブルや床があっても誰も気に留めなかったこと。そしてもう一つは、あのわいせつ罪で九か月間ウンストルフ刑務所に投獄されたにもかかわらず、ハアルマンは出獄後も警察のスパイの身分を解かれず、常に警察組織と密接な関係を保ち、刑事や巡査たちと友人関係にあったからなのです。とはいえ、過去に何度も前科があることや、これほど頻繁に少年が姿を消すようになると、どこからともなく噂も流れてきます。ハアルマンの怪しい行動も目立ち始め、何より彼が刑務所に収監されている間は、少年の行方不明事件がゼロではないにせよ、明らかに少なかったのです。そうした状況から、警察もようやくハアルマンに目を向けるようになりました。実際、何度も計画的にハアルマンの家宅捜索を行ったこともありましたが、何しろ相手は同僚のようなハアルマンです。快活なお人好しとして通っている「町の肉屋」ですから、結局は形式的で適当な訪問に終わってしまいました。そもそも、何か重要な目的を意識した上での家宅捜索ではなかったのです。
それでも、その間ハアルマンは何度かヒヤリとする目に遭っています。
一つは、あのフリイデル・ロッテを殺した直後に警察が踏み込んできた時です。また、ウンストルフの刑務所から出所して間もない頃、二人の売春婦が彼の留守中にノイエストラッセの店へ肉を買いに来たことがありました。その時、彼女たちは売台の下に突っ込んであった大きな肉の塊を見て、直感的にゾッとするような恐怖を感じ、その一片を警察へ届け出たのです。
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