彼はその言葉を聞くと、慌てて答えました。
「いや……ありがとうございます」
このやり取りを聞いていた者たちは、一斉に吹き出しました。
「いや……ありがとうございます」――こう言って、五位の返事を真似る者までいます。
橙(だいだい)や黄色い橘を盛った器の周りで、たくさんの烏帽子(えぼし)をかぶった侍たちが、笑い声と共に波のように揺れ動きました。
中でも一番大きな声で、上機嫌に笑ったのは利仁自身です。
「では、そのうち誘うことにしよう」そう言いながら、彼は少し顔をしかめました。
こみ上げてくる笑いと、今飲んだお酒が喉で混ざり合ったからです。
「……本当によろしいのですか」
「ありがとうございます」
五位は顔を真っ赤にして、どもりながらまた同じ返事を繰り返しました。
一同が今回も笑ったのは言うまでもありません。
それを言わせたくて念を押した当の利仁に至っては、前よりも一層おかしいのか、広い肩を揺すって大笑いしました。
この北の果ての野蛮な男は、人生の楽しみ方を二つしか知りません。一つはお酒を飲むこと、もう一つは笑うことです。
しかし幸いなことに、会話の中心はすぐにこの二人から離れていきました。
もしかすると、他の連中は、たとえ嘲笑であっても自分たちの注目がこの赤鼻の五位に集中するのが不快だったのかもしれません。
とにかく話題は次々と移り、お酒も料理も残り少なくなった頃には、ある侍学生(さむらいがくしょう)が、ズボンのような行縢(むかばき)の片方の足に両足を入れて馬に乗ろうとしたという話が、みんなの興味を集めていました。
しかし五位だけは、他の話が全く耳に入っていないようでした。
おそらく「芋粥」という二文字が、彼の思考のすべてを支配しているからでしょう。
目の前にキジの炙り焼きがあっても箸をつけず、黒酒の杯があっても口をつけません。
彼はただ両手を膝の上に置いて、お見合いをする娘のように、霜にやられかけた耳のあたりまで初々しく赤らめながら、空になった黒塗りのお椀をいつまでもじっと見つめ、ただ無邪気に微笑んでいるのでした。
……
―――――――――――――――――
それから四、五日経った日の午前、加茂川の河原に沿って粟田口(あわたぐち)へ通じる道を、静かに馬を進めていく二人の男がいました。一人は、濃い藍色の狩衣(かりぎぬ)に同じ色の袴を身につけ、立派な太刀を腰に差した、「髭が黒々と茂り、鬢(びん)の毛並みも美しい」堂々とした男です。
もう一人は、みすぼらしい青鈍色(あおにびいろ)の水干(すいかん)に、薄手の綿入れを二枚ばかり重ねて着た、四十歳くらいの侍です。帯の結び方はだらしなく、赤鼻で、おまけに鼻の頭がいつも鼻水で濡れているという、どこからどう見てもひどくみすぼらしい男でした。
もっとも、二人が乗っている馬は、前を行くのが月毛、後ろを行くのが蘆毛(あしげ)の三歳駒で、通りすがりの物売りや侍たちが思わず振り返るほどの駿足でした。
そのあとから、馬の歩みに遅れまいと二人の男がついて行きますが、道具持ちと従者であることは間違いありません。
――これが、利仁(としひと)と五位(ごい)の一行であることは、わざわざここで説明するまでもないでしょう。
冬とはいえ、穏やかに晴れた日で、白っぽい河原の石の間や、さらさらと流れる水のほとりに立枯れている蓬(よもぎ)の葉を揺らすような風さえありません。
川沿いに立つ背の低い柳は、葉のない枝に飴のように滑らかな日の光を浴びて、梢に止まっている鶺鴒(せきれい)が尾を振る姿さえ鮮明に映し出し、その影を街道に落としています。
東山の暗い緑の上に、霜に焼けてまるでビロードのように丸々とした肩を出しているのは、おそらく比叡の山でしょう。
二人はその中で、鞍(くら)の螺鈿(らでん)を眩しく日にきらめかせながら、鞭を打つこともなく悠々と粟田口(あわたぐち)を目指して進んでいきます。
「どちらまで連れて行ってくださるおつもりで……?」
五位は慣れない手つきで手綱をさばきながら尋ねました。
「すぐそこだ。心配するほど遠くはない」
「とすると、粟田口のあたりでございますかな」
「まあ、そう思っておけばよい」
利仁は今朝、五位を誘い出す際に「東山の近くに温泉が湧いているから、そこへ行こう」と言って連れ出したのです。
赤鼻の五位は、それを真に受けました。長い間お風呂に入っていなかったので、体中がむず痒くてたまりません。芋粥を馳走してもらえる上に、お風呂にも入れるなんて、これ以上の幸せはありません。そう思って、利仁があらかじめ用意させていた蘆毛の馬に跨ったのです。
ところが、馬を並べてここまで来てみると、どうも利仁はこの近所に行くつもりではないようです。現に、そうこうしているうちに粟田口は通り過ぎてしまいました。
「粟田口では、ございませぬな」
「ああ、もう少し先だ」
利仁は微笑を浮かべ、わざと五位の顔を見ないようにして、静かに馬を歩ませています。
両側の人家は次第にまばらになり、今は広々とした冬田の上で餌をついばむカラスが見えるばかり。山の陰には雪が残り、その色がほのかに青く煙っています。晴れてはいますが、トゲトゲした櫨(はぜ)の梢が目に痛いほど空を突き刺しており、それだけでも何となく肌寒さを感じます。
「では、山科(やましな)あたりでございますかな」
「山科はここだ。もっと先だよ」
なるほど、そうこうするうちに山科も通り過ぎてしまいました。それどころか、関山(せきやま)も後にして、あれこれとしているうちに昼を少し過ぎた頃、ついに三井寺(みいでら)の前までやって来ました。
三井寺には、利仁の親しい僧がいます。二人はその僧を訪ねて、昼食を馳走になりました。それが済むと、また馬に乗って道を急ぎます。
行く先は、今まで来た道に比べるとはるかに人通りが少なくなっています。特に当時は盗賊が各地で横行している物騒な時代です。
――五位は猫背をいっそう低くし、利仁の顔を見上げるようにして尋ねました。
「まだ、先でございますか……」
利仁は微笑みました。悪戯をして、それがバレそうになった子供が、年長者に対して見せるような微笑です。鼻の先に寄せた皺と、目尻に浮かんだ筋肉のたるみが、笑ってしまおうか、それとも堪えようかと迷っているようです。そして、ついにこう言いました。
「実はな、敦賀(つるが)まで連れて行こうと思ってな」
笑いながら、利仁は鞭を挙げて遠くの空を指差しました。その鞭の先には、目標物のように、午後の日差しを受けた近江の湖が光っています。
五位は狼狽しました。
「敦賀と申すと、あの越前の敦賀でございますか。あの越前の――」
利仁が敦賀の人、藤原有仁の娘婿になってからは、主に敦賀に住んでいるということは、日頃から聞いて知っていました。しかし、まさかその敦賀まで自分を連れて行くつもりだとは、今までこれっぽっちも思っていなかったのです。
第一、いくつもの山や川を隔てた越前の国へ、たった二人の供を連れただけで、どうして無事に行けるでしょうか。ましてこの頃は、旅人が盗賊に殺されたという噂が諸方から聞こえてきます。
――五位は嘆願するように利仁の顔を見ました。
「それはまた、滅相もございません。
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