そして、きまり悪そうな顔をして、こそこそと孔子の室を退いた。
大廟に入りて
子|大廟に入りて、事毎に問う。
或ひと曰く、孰か※人の子礼を知ると謂うか。
大廟に入りて事毎に問うと。
子之を聞きて曰く、是れ礼なりと。
――八※篇――
子曰く、由や、女に之を知るを誨えんか。
之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。
是れ知るなりと。
――為政篇――
魯では、その年、大廟の祭典を行うのに人手が足りなかった。
もっとあからさまに云うと、祭典の儀式に最も明るかった人が病気なので、臨時にその代りをつとめる人が、是非必要だったのである。
大廟には、魯の始祖|周公旦が祭ってある。
その祭典が、国として最も重要な祭典であることは、いうまでもない。
従って、儀式の面倒なことも、この上なしである。
よほど礼に明るい人でないと、下ッぱの役目でも勤まりそうにない。
況んや、もっとも大切な役目を、大廟の奉仕には直接経験のない人に勤めさせようというのだから、その人選がなかなかむずかしい。
あれかこれかと詮議の末、やっと白羽の矢が孔子に立てられた。
孔子は、当時まだ三十六七歳にしかならなかったが、すでに多くの門人もあり、その学徳は国の内外に聞えていた。
ことに、礼についての彼の造詣は、推薦者の言によると、天下にならぶ者がなかった。
それだけに、彼に対する期待も大きかったが、なにぶん、年が若いというので、一部では、彼を危ながっているものもないではなかった。
ことに、永らく大廟に奉仕している人たちの間には、変な猜み心から、いろいろの取沙汰が行われていた。
さて、いよいよ祭典の準備がはじまって、孔子もはじめて大廟に入ることになったが、その日は、彼に好意を持つ者も、持たない者も、たえず彼に視線を注いで、その一挙一動を見まもっていた。
ところで、彼等の驚いたことには、孔子は先ず祭官たちに、祭器の名称や、その用途を訊ねた。
そして、一日じゅう、それからそれへと、その取扱いかたや、儀式の場合の坐作進退のこまごましたことなどを、根掘り葉掘り訊ねるのであった。
「何という見当ちがいでしょう。
これでは、まるで五つ六つの子供を雇い入れたのも同じではありませんか。
」
「評判なんて、あてにならないものですね。
」
「ふん。
どうせ山師でしょう。
仕官も出来ないくせに、門人ばかり集めて、いかにも学者ぶっているところを見ても、ろくな人間でないことは、はじめからわかっていますよ。
」
「ご尤もです。
第一、私共のように、永年こうして奉仕していても、なかなか覚えられないほどの儀式が、あの田舎者の若造に、そうやすやすとのみこめるわけがありませんからね。
そんなことぐらい、その筋でもわかりそうなものですが……。
」
「当局の非常識にも、全く呆れてしまいますね。
」
「いずれ非常識の酬いが来るでしょう。
しかし、今度ばかりはわれわれに責任がありませんから、どんなしくじりがあっても、安心ですよ。
」
「そう云えばそうですね。
しかし、本人の大胆さには驚くではありませんか。
あれでやっぱり本気なんでしょうか。
」
「さあ、それは本人に聞いて見ないとわかりますまい。
しかし、無神経なことはたしかですよ。
あんなつまらんことを一々訊ねて、恥かしそうにもしていませんからね。子|大廟に入りて、事毎に問う。
或ひと曰く、孰か※人の子礼を知ると謂うか。
大廟に入りて事毎に問うと。
子之を聞きて曰く、是れ礼なりと。
――八※篇――
子曰く、由や、女に之を知るを誨えんか。
之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。
是れ知るなりと。
――為政篇――
魯では、その年、大廟の祭典を行うのに人手が足りなかった。
もっとあからさまに云うと、祭典の儀式に最も明るかった人が病気なので、臨時にその代りをつとめる人が、是非必要だったのである。
大廟には、魯の始祖|周公旦が祭ってある。
その祭典が、国として最も重要な祭典であることは、いうまでもない。
従って、儀式の面倒なことも、この上なしである。
よほど礼に明るい人でないと、下ッぱの役目でも勤まりそうにない。
況んや、もっとも大切な役目を、大廟の奉仕には直接経験のない人に勤めさせようというのだから、その人選がなかなかむずかしい。
あれかこれかと詮議の末、やっと白羽の矢が孔子に立てられた。
孔子は、当時まだ三十六七歳にしかならなかったが、すでに多くの門人もあり、その学徳は国の内外に聞えていた。
ことに、礼についての彼の造詣は、推薦者の言によると、天下にならぶ者がなかった。
それだけに、彼に対する期待も大きかったが、なにぶん、年が若いというので、一部では、彼を危ながっているものもないではなかった。
ことに、永らく大廟に奉仕している人たちの間には、変な猜み心から、いろいろの取沙汰が行われていた。
さて、いよいよ祭典の準備がはじまって、孔子もはじめて大廟に入ることになったが、その日は、彼に好意を持つ者も、持たない者も、たえず彼に視線を注いで、その一挙一動を見まもっていた。
ところで、彼等の驚いたことには、孔子は先ず祭官たちに、祭器の名称や、その用途を訊ねた。
そして、一日じゅう、それからそれへと、その取扱いかたや、儀式の場合の坐作進退のこまごましたことなどを、根掘り葉掘り訊ねるのであった。
「何という見当ちがいでしょう。
これでは、まるで五つ六つの子供を雇い入れたのも同じではありませんか。
」
「評判なんて、あてにならないものですね。
」
「ふん。
どうせ山師でしょう。
仕官も出来ないくせに、門人ばかり集めて、いかにも学者ぶっているところを見ても、ろくな人間でないことは、はじめからわかっていますよ。
」
「ご尤もです。
第一、私共のように、永年こうして奉仕していても、なかなか覚えられないほどの儀式が、あの田舎者の若造に、そうやすやすとのみこめるわけがありませんからね。
そんなことぐらい、その筋でもわかりそうなものですが……。
」
「当局の非常識にも、全く呆れてしまいますね。
」
「いずれ非常識の酬いが来るでしょう。
しかし、今度ばかりはわれわれに責任がありませんから、どんなしくじりがあっても、安心ですよ。
」
「そう云えばそうですね。
しかし、本人の大胆さには驚くではありませんか。
あれでやっぱり本気なんでしょうか。
」
「さあ、それは本人に聞いて見ないとわかりますまい。
しかし、無神経なことはたしかですよ。
あんなつまらんことを一々訊ねて、恥かしそうにもしていませんからね。
「恥かしいどころか、それが当りまえだといったような顔をしていますよ。
」
「ああ真面目くさって訊かれたんでは、茶化すわけにも行きませんし、困りましたよ。
」
「何しろ、おたがいもいい面の皮でさあ。
教えてやった揚句に、その下役に使われるなんて。
」
「いや、年はとりたくないものです。
」
「それにしても、あんな青二才を、※の片田舎から引っぱり出して来て、礼の大家だなんて云い出したのは、一たい誰でしょう。
人を馬鹿にするにもほどがあるではありませんか。
」
「今更、そんなことを詮議立てして見たところで始まりますまい。
コメント