初級翻訳・軍用鼠 第8話

海野 十三

だからこそ、軍用鼠の鼻の頭には小さな鉄の兜(かぶと)を着せておかなければならないのだ。
実は、老人レッドからひっきりなしにネズミを買い集めていたラチェットという人物は、この軍用鼠の研究家だった。
彼の住む寒い白の国には、ネズミという生き物が全くいなかったのである。
そのため、しかたなく密輸の名人であるレッドをうまく使って、赤い国のネズミを輸入させていたのだった。
真珠の密輸のほうは、生まれながらの密輸好きであるレッドが、ネズミをラチェットに売る片手間に、そのネズミの腹を利用して勝手に企てたものであり、そこで得られたもうけはすべてレッドのものになっていた。
ラチェットのほうは、その真珠の事件とは全く無関係だったのだ。
それなら、赤い国の軍部が税関の本部にこっそり連絡を入れて、ネズミの輸入をこっそり認めさせればよかったのではないかと思うかもしれないが、そこには軍の機密という事情があった。
ネズミを輸入して軍用鼠の研究をしているということが国内の官僚たちに知られてしまうのは、軍の機密保持のうえで好ましくなかったのである。
「計略は密なるをよしとする」だの、「敵を図らんとすればまず味方を図れ」だなんていう格言は、赤い国の軍部といえどもしっかりと心得ていたのであった――というような結末まで、のんびりと本格的な探偵小説として書いていたのでは、いくら原稿用紙の枚数があっても足りなくなってしまう……。
ちょうどその時、編集局のお使いの少年が、颯爽とした姿を玄関に現した。
よし、これまでの話で終わりだ。ああ、ついに書き上げたぞ。
なんともすがすがしい朝だッ!

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