初級翻訳・怪塔王 第10話

怪塔王

これは潜水艦の潜望鏡みたいなもので、光の入り口は怪塔の近くにあるケヤキの木の高い梢の上にありました。
それから下は筒になっていて、ケヤキの木の幹の中を通り地中に入ります。
すると、そこから横に曲がり怪塔の方へ伸びていますが、その曲がり角に反射鏡がありました。
怪塔が地上にのぼっても、またいまのように地下にもぐっても、怪塔の中からうまく地上の風景がのぞけるようになっています。
まったく怪塔王はおそろしい発明家です。
まだまだいくらでもおそろしい機械を持っています。
それをのぞいた怪塔王は、怪塔がどこに行ったろうと、陸戦隊が地上をうろうろ探し回っているのが見えたものですから、もう駄目だと思いました。
「仕方がない。
惜しいけれど、逃げることにしようや」
 そう言って、怪塔王は、傍にある配電盤の上の大きなスイッチを一つ一つ入れていきました。
そして最後に大きなハンドルを回しますと、地底からおどろおどろと怪しい響きが伝わってきました。
そしてその響きはだんだん大きくなり、やがては耳が聞こえなくなるくらい激しくなりました。

飛ぶ塔

1

 とつぜん怪塔の地階におこったものすごい物音!
 いったいそれは、なんであったでしょうか。
ラッ、タッタッタッ、
 ラッ、タッタッタッ、
 とにかく、それは怪塔王が起こしているものに違いありません。一階にいた帆村探偵も一彦少年も、このものすごい物音に肝をつぶしてしまいました。
まわりの壁は、まるで金槌で叩いているかのように、ガンガンと激しく鳴っています。足の下の床も、ビリビリと気味悪く振動しています。

「おじさん、これは何の音だろうね」
「さあ、よくわからないけれど、なんだか地面の中で、しきりに何かが爆発しているようだね」
「地震じゃないかしら」
「うん、地震とは違うさ。怪塔王は、軍艦から砲撃されると聞いて、逃げだすつもりらしいのだ。してみれば、この怪塔をなんとか動かすつもりなのだろう」
「どんな風に動かすの?」
「さあ、それは――」

そう言っているところへ、床が壁もろともいきなりググーッと持ち上がりました。かと思ううちに、またドーンと下へ落ちました。二人はとてもそこに立っていられないので、腹ばいになりました。
ドドーン、ドドーンと部屋は四度、五度と上がったり下がったりしているうちに、一段と高い音を立てるとともに、ヒューッと上の方へ飛び出しました。

「あっ、飛び出した!」
「うむ、やったな――」

帆村と一彦は、言い合わせたように飛び起きると、傍らの小さな窓の鉄枠につかまって、一生懸命に窓の外を覗きました。
さあ、そのとき二人の目に、どんな光景が映ったことでしょうか。

2

ゴーゴーと、ものすごい音を立てて震える怪塔の中!
その窓枠にとりすがって、外を覗いた帆村探偵と一彦少年!

「ああっ、これは――」

と、激しい驚きの声が、二人の口から一緒に飛び出しました。
窓の外の、まったく思いがけない光景――ああ、こんなことがあってよいものでしょうか。
そこに見えたものは、あの赤土の壁でもありませんでした。また、二人が見慣れた白い砂浜と、青い海原に取り囲まれた森の中の風景でもありませんでした。
それは何もない空でした。
いや、何もないわけではありません。白い雲が、あっちこっちにポッカリと浮かんでいます。たったそれだけです。大地や海原は、どこへ行ってしまったのでしょうか。

二人は、大地と海原を見つけるのに、大骨を折りました。なぜといって、二人が窓枠に顔をギュッと押しつけて、無理をして遥か下を眺めたときに、やっとその大地と海面とが、まるで模様か何かのように足下に小さく見えているのを見つけたのです。
驚いたことに、怪塔はいつの間にか大地を遥か離れていました。そして天に向かって、ものすごい速さでビュービューと飛んでいくのでありました。

「一彦君、これは大変だ。僕たちはいま、空中を飛んでいるのだよ」
「えっ、空中を飛んでいるの? やっぱりそうだったの。僕は頭がなんだかぼんやりしてしまった」

と言ったのも道理です。二人の閉じ込められた怪塔は、いま空中を弾丸のように飛んでいくのでありました。今まで塔だとばかり信じていたのは、普通の塔ではなかったのです。空中を飛行機よりも早く走るといわれる、あのロケット機であったことがわかったのです。

3

いま帆村探偵と一彦とは、怪塔ロケットに閉じ込められたまま、思いがけない空中旅行をしています。
怪塔ロケットを操縦しているのは、言うまでもなく怪塔王です。一体、怪塔王の本当の名前は何というのでしょう。まだ誰もそれを知りません。

このロケットというのは、大体、砲弾に尾翼を生やしたような形をした飛行機の一種です。飛行機と違うところは、飛行機にはプロペラがあるのに、ロケットにはそれがありません。したがって、ロケットにはエンジンもありません。

では、どうしてこのロケットが空中を走るかと申しますと、それはロケットのお尻の方に穴が開いていて、その穴からはげしくガスが吹き出すのです。その勢いでロケットは前へ進むのであります。
ガスはロケットの中に蓄えられています。怪塔王の使っているガスは、「QQガス」という世界のどこにも知られていない強力なガスです。これはうんと冷やして固め、石膏のようにして缶詰にしてあります。使うときは、その缶詰の栓を開くと、その穴からQQガスがガス状になって激しくシュウシュウと吹き出すのです。

冷やして固めてあるわけは、そもそもロケットのようにガスがたくさん要る乗り物では、ガス状のままでロケット内に蓄えていては、場所が狭くていくらも蓄えられないからです。そこで冷やして固めて石膏のようにしておけば、大変容積が小さくなります。
たとえば部屋一杯のガスも、これを冷やして固めると、耳かき一杯分くらいの粉末になります。ですから、相当の分量を積んでも大した場所ふさぎにもなりません。
怪塔ロケットには、いつの間にか屋根のようなものが出て、形を流線型にしています。また、尾翼もいつの間にか胴体の中からひょいと引き出されました。
古びた怪塔は、すっかりその姿を最新のロケット機へと変えてしまったのです。
なんという恐るべき怪塔でしょう。

4

行方不明だった怪塔が、いきなりロケット機に早変わりして天空へと飛び出したのですから、これには誰もが腰を抜かすほど驚きました。
中でも一番びっくりしたのは、ちょうどその時、現場近くの砂地を一生懸命に調べていた軍艦「淡路」の陸戦隊員たちでした。
それまでは平らな砂浜にしか見えなかった地面から、ゴーゴーと激しい音を立て、いきなり塔に翼が生えたようなロケットが飛び出したのですから、たとえ戦場で手柄を立てるような勇敢な軍人であっても、驚かないわけがありません。
隊長の塩田大尉でさえ、
「おおっ、あれは何だ!」
と叫んだきり、しばらくは空へと昇っていく怪塔ロケットを、ただ呆然と見送ることしかできませんでした。
「撃て! 構え!」
大尉はやっと我に返って号令を下しました。
ですが、今さら後ろから撃ってみてもどうにもならないと気づき、結局、射撃開始の命令は出しませんでした。

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