初級翻訳・豆潜水艇の行方 第7話

海野 十三

自分ひとりだけならいいが、水上少年と一しょですから、あまりひどいことをされてはこまると思いました。
またその外人も、いいだしたら、あとへひきそうもない様子ですから、ここはしばらく相手のいうとおりになって、あとですきをみて、なんとか、にげだす方法を考えることにしようと決心しました。
そこで青木学士は、二三歩、怪外人の前へあるいていって、
「おい君。
君がそんなにいうのは、あの豆潜水艇の中をしらべてみたが、どうしたら動いたり、浮いたり、沈んだりするのか、それがわからないので、僕たちをせめるのだろう。どうだ、あたったろう」
 白いスーツをきた怪しい外国人は、そうきかされてうーとうなり、さらに顔をまっかにして、まわりの下士官たちのほうをチラリとふりかえりました。
 そこで青木学士は、「ここがチャンスだ!」と思い、
「だからさ、わからないならわからないって、素直に僕たちに教えてもらいなよ。
ちゃんと礼儀をつくしてくれたなら、僕だって教えてあげないわけじゃないんだからさ。
自分の弱いところを隠そうとして、そんなふうにいばりちらすなんて、ちっともカッコよくないぞ」
 そうピシャリと言われて、さすがの怪しい外国人も、すっかり困った様子になってしまいました。
 それからというもの、彼は急に態度をガラリと変えて、言葉づかいをすっかりやわらかくしたのです。
「いやぁ、わしだって、なにもめんどくさいトラブルを起こしたいわけじゃないんだ。
きみが隠さずになんでも教えてくれるというのなら、ちゃんとうやまう気持ちをもって、その説明を聞かせてもらってもいいと思っているよ」
 なにが「うやまう気持ち」でしょう。
自分たちの都合がよくなると、平気でどんな白々しいことでも口にする、彼らはそういう人たちなのでした。
「じゃあ、説明をしてあげましょう。
だけどその前に一つだけ、すごく気になってしかたがないことがあるんですが、僕の質問に答えてくれますかね?」
 と、青木学士が言いました。
「ははぁ、条件をひとつききにする、いわゆる『交換条件』ってやつだな」
「まあ、そうですね。
これはアメリカでもよくやるやり方でしょう。
これ、承知してくれますよね?」
 そう言われると、怪しい外国人はしばらく考え込んでいましたが、やがて大きくうなずいて、
「よろしい。
質問はひとつだけなら、きみの問いに答えてやってもいいぞ。
ただし、ひとつだけだからな」
 さて、青木学士は一体なにを聞き出すつもりなのでしょうか?

とつぜんのさわぎ

「これはぜひとも知っておきたいことなんですが――どうせ僕たちの命なんてないものだと思っていますから、せめてもの死に土産に教えてほしいんです。
一体ここはどこなんですか?
島なんですか? それとも地下の街? あるいはどこかの船の中なんですか?」
「ふーん、そんなことを知りたいって言うのか。
そいつはまた、答えるに困る質問だな」
「さあ、答えてくださいよ。
約束です!」
「うむ、約束は約束だが……」
 と、その怪しい外国人はまたしばらく考え込んでいましたが、やがて下士官をよびよせて小声で何やら相談をしてから、
「よろしい。
では、その話をしてやろう」
「それはどうもありがとう」
「ここは、我がアメリカが秘密に作りあげた、なんと『動く島』なのだ!」
「えっ、動く島ですって!?」
 と、学士は、わざとびっくりしたような顔を作ってみせました。
すると、その怪しい外国人はすっかり調子にのってしまい、ますますいい気になってペラペラと話しだしました。
「うふふん、どうだ、おどろいたろう!
つまりこれは、海に浮かべる『浮きドック』からヒントを得て思いついたものでね、ふだんは海のなかにすっかり隠れていて、強力なエンジンを使えば、自分の行きたい方向へ自由自在に動かせるのだ。
これから太平洋のうえで――まあ太平洋にかぎった話ではないが、とにかく何か重大な事態がおこったときには、この動く島がそのまま潜水艦や飛行機の母艦になるというわけさ。
燃料の油だって山ほどつみこんである。
船をなおすための修繕工場だっていまやおゆりだ。
おいしい食料だって山盛りにあるぞ。
じつはこの動く島は、いまテストをかねて、こうして――」
 と、ここまでペラペラとしゃべったところで、その怪しい外国人は急に口をピタリとつぐみました。
なぜなら、後ろに控えていた下士官が、あわてて彼の服のすそをグイッとひっぱったからです。
調子にのりすぎて、とんでもない軍事機密までぺらぺらとしゃべりそうになったので、あわててストップをかけたのでした。
「いや、むにゃむにゃむにゃ……。
もうこのへんで話はおしまいにしておこう」
「どうもありがとう!」
 青木学士は、にっこり笑って礼を言いました。
そして、心の中でこうつぶやいたのです。
「どうせそうだろうとは思っていたが、やっぱりそのとおりだった。
これはまた、いかにもアメリカがやりそうな、スケールの大きいけれどバカバカしい仕掛けだぞ。
こうした『動く島』を、これから何個もたくさん作って、太平洋のあちこちに浮かばせておくつもりなんだろう。
もちろんそれは、将来太平洋で戦争がおこったときに大いに役立たせるため、まちがいない。
今回は『試験的なものだ』と言っているところを見ると、アメリカではまだこの動く島をそんなにたくさんは作り上げていないとみえるぞ。
とにかく、これはとんでもない大スクープ、いい話がきけたぞ!」
 それを知った瞬間、青木学士は急に自分の命がとても惜しくなりました。
「命が惜しい」といっても、青木学士が突然きょうふに負けて臆病な人間になったわけでは決してありません。
そのわけは、だれもまだ知らないこれほど重大なアメリカの軍事機密を知ってしまったからには、なんとしてもこの情報を、愛する祖国・日本へと知らせたいと強く願ったからなのです。
これさえ知らせれば、みなさんもきっと大満足に思ってくれるにちがいない――。
そうなのです。
まったく、そのとおりの重大な秘密だったのでありました。

大手柄

さて、みなさん!
これから青木学士が、水上少年としっかりと力をあわせて、いったいどんな方法を使って、このアメリカ製の「動く島」から見事に逃げ出すことができたと思いますか?
もちろん、二人はアメリカ人たちの手から見事に逃れて、無事に脱出してしまいましたとも!
そのかわり、二人は自分の命を投げ出す覚悟をし、「日本人の誇りをけっして傷つけはしない」と強くちかって、じつに大胆不敵なウルトラ作戦で、この動く島から抜け出したのです。
その手に汗にぎるいさましい大冒険の物語を、ここですみずみまでくわしく書き記したなら、きっとみなさんも大喜びしてくださると思うのですが、残念ながらいまの私には、それをはじめから終わりまで詳しくお話ししている時間がありません。
ですから、そのワクワクする大まかなあらすじを、ギュッとひとまとめにして、ここでお話ししておくことにしましょう。あの怪しい外国人が、豆潜水艇の動かし方が分からないという報告を部下たちから受けて大変悔しがり、青木学士を厳しく問い詰めたことは前にお話ししましたよね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました