初級翻訳・怪星ガン 第31話

怪星ガン

我々はもっと楽しいことばかり考えるのが一番ですよ」
そう言うところを見ると、ハイロ自身も動力室の見学はあまり愉快ではないようです。
「ハイロ君の言うとおりだ。早くここを出て、もっと楽しいところを見物させてくれ」
「さあ、楽しいところというと、どこにしましょうか。映画鑑賞か、それとも音楽会に行ってみますか?」
「いやいや、そんなところはいつでも入れる。今日は、めったに見られない場所を見物したいんだよ」
「それでは、どこがいいでしょうね」
「そうだ。ずんずん上へ上がって、この国の一番外側へ出てみたいね。さあ、そこへ連れて行ってくれ」
「うーん。それは……それはちょっと厄介だなあ」ハイロは困ったような顔をしました。
しかし三根夫としては、怪星ガンの一番外側へ出て、そこがどうなっているのかを確認することが、作戦の予定に入っていました。なんとしても、それを知る必要があるのです。
「だって、ぼくはぜひ見物したいんだもの。ねえ、ハイロ君。ぜひ連れて行ってよ。最初の約束で、どこへでも案内してくれるはずだっただろう?」
「でも、あそこへ行けば必ず捕まって、取り調べを受けるに決まっているんですから。そうすると化けの皮がはがれて、大変なことになりますよ」
「ここに南京ねずみが十匹分、そっくりそのまま残っているから、これを使えばいいさ。さあ、連れて行ってくれよ」
「天蓋(てんがい)見物は、やめておいたほうが安全なんですがねえ」
「テンガイだって? それはどこのことだ?」
「つまり、天蓋のことですよ。空よりもずっと上にあって、この国を包み込んでいるものです。その内側には空気がありますが、外側には空気がないんですよ。つまり天蓋が、境界線になっているんです」
「見たいね。そういう話を聞くと、余計に見たくなる。さあハイロ君。天蓋見物にすぐ出かけようよ、ね」
三根夫の熱意に負けて、ハイロはついに承知しました。ふたりは、もとのにぎやかな町へ戻りました。
その町をどんどん通り過ぎて、町はずれのあたりへ出ると、一つの妙な建物がありました。
それは、かさが開いた松茸のような形の建物でした。もっとも、屋上は平らになっていました。
その屋上へ出ると、そこにはかわいいヘリコプターがありました。
まるで腰かけに、小型のヘリコプターをくっつけたような乗り物でした。これに腰をかけ、肘かけのところにあるいくつかの操縦ボタンを押せば、空中を自由自在に飛び回れるのです。
ハイロは、ヘリコプターを二台借りました。
もちろんその一台には三根夫を座らせ、バンドでしっかりと固定しました。ハイロは自分の体にも、もう一台のほうをベルトでしばりつけ、簡単な操縦法を教えました。
「こうすれば、立って乗ることもできるんですよ」
座席をはずすと、そのまま立っていられました。着陸のときは、こうして立ったまま降りると具合がいいそうです。
「さあ、のぼりましょう。ちょっと高いですから、目を回さないように、わたしについてきてください」
そう言ってハイロが飛び立ちました。そこで三根夫も続いて操縦ボタンを押しました。
「あ、これは愉快だ」
体が急に軽くなりました。すーっと空中へ飛び上がっていきます。頭の上と座席の後ろにプロペラが回っていますが、あまり大きな音はしません。ぐんぐんとのぼっていきました。
三根夫の感覚で五千メートルぐらいのぼったとき、ハイロが横へやってきて、上を指さしました。
「ほら、天蓋(てんがい)が見えるでしょう。格子の目のようになっていて、その上に何かがのっているのが見えませんか」
「ああ、見える。なるほど、あれが天蓋か」
とうとう問題の天蓋のそばまで来ました。天蓋の構造がわかっていなければ、脱出計画は成功しません。三根夫は緊張のあまり、体がぶるぶると震えだしました。

巨大なる天蓋

三根夫の胸は激しく高鳴りました。
見える! 頭上、手の届きそうなところに、謎の構造をした天蓋の裏側が見えるのです。
はるか下の町から見上げたときは、天蓋は灰色や青色の布を張ったように見えていましたが、こうして近くで観察すると、そんな安っぽいものではありませんでした。
それはすこぶる大きな軽金属製、あるいは樹脂製と見える広大な天井が、果てしなく広がり続けているのでした。
それはとても頑丈そうに見えました。その天井の下には、同じ色の吊り橋が網の目のように縦横に取り付けられ、どこまでも伸びていました。
吊り橋は天井から十メートルほど下にあり、パイプを組み立てたような構造でしたが、なかなかの壮観でした。天井の巨大さに比べると、吊り橋はまるで講堂の天井に、小さな蜘蛛の巣がかかっているようにしか見えませんでした。
「三根夫さん。もうちょっと向こうへ行ったところで、あの吊り橋へ降りましょう。ゆっくり飛んで、ついてきてください」
案内役のハイロが、一人乗りの豆ヘリコプターを三根夫のそばへ近づけて言いました。
「ハイロ君。あの天蓋を外へ抜けられないのかね。ぼくは、天蓋の外へ出てみたいんだがね」
それは三根夫が自分の使命を果たすために、どうしてもやらなければならないことでした。
「それは、吊り橋へ着いてからあとのことにしてください。誰にも知られないで、あの吊り橋へ上がるのは一苦労なんですからね。とにかく、わしのやること通りに、すべて進めてください」
「さあ、速度を落として……」
そう言ってハイロは、きりきりと上へとのぼっていきました。いよいよ天井は近くなりました。吊り橋にヘリコプターのプロペラがぶつかりそうです。ハイロは巧妙に飛んでいます。
三根夫は、そのとき一つの発見をしました。
「ははあ、あれが桟橋だな」
それは二、三十メートル前方に見えてきた、環状(輪っか)になっている吊り橋でした。そこには、四方から伸びてきた吊り橋が、丸い環状の吊り橋を支えていました。
どうもその環状になった穴のところへ、下からヘリコプターがのぼって入るのではないかと思いました。
まさにその通りでした。ハイロは後ろを振り返って三根夫に合図をすると、ずうっとその環の中へ入ってのぼっていきました。
三根夫が見ていると、ハイロのヘリコプターはうまく吊り橋に取り付いたようでした。そこで彼も真似をして、そちらへ近づいていきました。
環状の吊り橋はかなり大きなもので、こんな豆ヘリコプターなら、同時に四、五十台は入れそうでした。それをくぐってのぼっていくと、吊り橋の内側が、こうしたヘリコプターがちょこんと乗るのに都合の良い桟橋になっていました。
ハイロの指図により、三根夫はハイロのヘリコプターのすぐ隣に着橋しました。そしてハイロに手伝ってもらって、ヘリコプターに縛りつけていたベルトを解き、身体の自由を取り戻すと、はじめて吊り橋の上に立ちました。
三根夫は、うっかり下を見てしまいました。
「うわッ。目がくらむ」
ふらふらとして、手すりにしがみつきました。
「あ、注意してくださいよ。下へ落ちると死んでしまいます。そうすると、ぼくの正体もばれて、陰謀に加担した罪で罰せられてしまいますからね。さあ、手をとってあげます。下を見ないで、上のほうばかり見ているのです。こっちへいらっしゃい」
と、ハイロは三根夫の手をひっぱりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました