あいつは臆病だから、とてもこっちへは来そうにありません。けれど、もう一度叫んでみましょうか。」
そこで三人はまた叫びました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、鹿の子ぁ嫁ほしい、ほしい。」
すると今度は、ずっと遠くで風の音なのか笛の声なのか、あるいは鹿の子の歌なのか、こんな風に聞こえてきました。
「北風ぴいぴい、かんこかんこ
西風どうどう、どっこどっこ。」
狐がまたひげをひねって言いました。
「雪が柔らかくなるといけませんから、もうお帰りなさい。今度、月夜に雪が凍ったら、きっとおいでください。さっきの幻燈をやりますから。」
そこで四郎とかん子とは、
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
と歌いながら銀の雪を渡って、おうちへ帰りました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
雪渡り その二(狐小学校の幻燈会)
青白い大きな十五夜のお月様が、静かに氷の山から登りました。
雪はチカチカと青く光り、そして今日も寒水石のように堅く凍っています。四郎は狐の紺三郎との約束を思い出して、妹のかん子にそっと言いました。
「今夜は狐の幻燈会なんだね。行こうか。」
するとかん子は、
「行きましょう!行きましょう!狐こんこん狐の子、こんこん狐の紺三郎!」
とはね上がって高く叫んでしまいました。すると二番目の兄さんの二郎が、
「お前たちは狐のところへ遊びに行くのかい。僕も行きたいな。」
と言いました。四郎は困ってしまって肩をすくめて言いました。
「大兄さん、だって狐の幻燈会は十一歳までだよ。入場券に書いてあるんだもの。」
二郎が言いました。
「どれ、ちょっと見せてごらん。ははあ、『学校生徒の父兄にあらずして十二歳以上の来賓は入場をお断わり申し候』、狐なんてなかなかうまくやってるね。僕はいけないんだね。仕方ないや。お前たち行くんなら、お餅を持って行ってあげなよ。ほら、この鏡餅がいいだろう。」
四郎とかん子はそこで小さな雪沓をはいて、お餅をかついで外に出ました。兄弟の一郎、二郎、三郎は戸口に並んで立って、
「行っておいで!大人の狐に会ったら急いで目をつぶるんだよ。ほら、僕ら囃してやろうか。堅雪かんこ、凍み雪しんこ、狐の子ぁ嫁ほしい、ほしい!」
と叫びました。
お月様は空に高く登り、森は青白いけむりに包まれています。二人はもうその森の入り口に来ました。すると胸にどんぐりの記章(バッジ)をつけた白い小さな狐の子が立っていて言いました。
「今晩は。お早うございます。入場券はお持ちですか?」
「持っています。」二人はそれを出しました。
「さあ、どうぞあちらへ。」
狐の子がもっともらしく体を曲げて目をパチパチさせながら、林の奥を手で指し示しました。林の中には、月の光が青い棒を何本も斜めに投げ込んだように射し込んでいました。二人は林の中の広場にやってきました。
見ると、もう狐の学校の生徒たちがたくさん集まって、栗の皮をぶつけ合ったり、相撲をとったりしています。とくにおかしいのは、ネズミくらいの小さな小さな子狐が、大きな子狐の肩車に乗っかって、お星さまをつかまえようとしている姿です。
みんなの前にある木の枝には、白いシーツが一枚ぶら下がっていました。
すると不意に後ろから、
「今晩は。よくおいでくださいました。先日は失礼いたしました」
という声がしました。四郎とかん子がびっくりして振り向くと、そこには紺三郎が立っていました。
紺三郎はまるで立派な燕尾服(えんびふく)を着て、胸には水仙の花を飾り、真っ白なハンカチで何度もその尖った口元を拭いています。
四郎は軽くお辞儀をして言いました。
「この間は失礼。それから今晩はありがとう。このお餅をみんなで食べてください」
狐の学校の生徒たちは、みんなこちらを見ています。
紺三郎は胸を大きく張って、すました顔でお餅を受け取りました。
「これはどうもお土産をいただき、すみません。どうかごゆっくりなさってください。もうすぐ幻燈(げんとう)も始まります。私は少し失礼いたします」
紺三郎はお餅を持って向こうへ行きました。
狐の学校の生徒たちは、声をそろえて叫びました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。硬いお餅はかったらこ、白いお餅はべったらこ」
幕の横には、「寄贈、お餅たくさん、人の四郎氏、人のかん子氏」と書かれた大きな札が出されました。
狐の生徒たちは大喜びで手をパチパチと叩きました。
その時、ピーッと笛が鳴りました。
紺三郎が「エヘン、エヘン」と咳払いをして幕の横から出てくると、丁寧にお辞儀をしました。みんなはシーンと静まり返りました。
「今夜は素晴らしい天気です。お月さまはまるで真珠のお皿のよう。お星さまは、野原の露がキラキラと固まったみたいです。さて、これより幻燈会を始めます。みなさんは瞬きもせず、くしゃみもせず、目をまんまるに開いて見ていてください。それから、今夜は大切なお客さまが二人いらしていますから、どなたも静かにしないといけません。決してそちらの方へ栗の皮を投げたりしてはなりません。では、開会の言葉です」
みんなは嬉しそうにパチパチと手を叩きました。
すると四郎がかん子にそっと言いました。
「紺三郎さんは(司会が)うまいんだね」
笛がピーッと鳴りました。
「お酒をのむべからず」と大きな字が幕に映し出されました。
それが消えると、今度は写真が映りました。お酒に酔った人間のおじいさんが、何かおかしな丸いものをつかんでいる景色です。
みんなは足踏みをして歌い出しました。
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
「凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のまんじゅうはポッポッポ。
酔ってひょろひょろ太右衛門が、
去年、三十八(個)、たべた。」
キック、キック、キック、キック、トントントン。
写真が消えました。
四郎はそっとかん子に言いました。
「あの歌は紺三郎さんの歌だよ」
続いて別の写真が映りました。お酒に酔った一人の若い者が、ほおの木の葉で作ったお椀のようなものに顔を突っ込んで何かを食べています。紺三郎が白い袴(はかま)をはいて、向こう側からそれを見ている景色です。
みんなは足踏みをして歌いました。
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
「凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
野原のおそばはポッポッポ。
酔ってひょろひょろ清作が、
去年、十三ばい(杯)たべた。」
キック、キック、キック、キック、トントントン。
写真が消えて、少し休憩になりました。
可愛らしい狐の女の子が、きび団子をのせたお皿を二つ持ってきました。
四郎はすっかり困ってしまいました。だって、たった今、太右衛門と清作が「悪いもの」とは知らずに食べているのを見たばかりなのですから。
それに、狐の学校の生徒たちがみんなこちらを向いて、「食べるだろうか。ねえ、食べるだろうか」なんてひそひそ話をしているのです。
かん子は恥ずかしくて、お皿を手に持ったまま真っ赤になってしまいました。
すると、四郎が決心して言いました。
「ねえ、食べよう。食べようよ。僕は紺三郎さんが僕らを騙すなんて思わないよ」
そして二人はきび団子を全部食べました。そのおいしいことといったら、頬っぺたが落ちそうなくらいでした。
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