初級翻訳・双子の星 第3話

双子の星

「あかいめだまの さそり
 ひろげた鷲の  つばさ
 あおいめだまの 小いぬ、
 ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたい
 つゆとしもとを おとす、
 アンドロメダの くもは
 さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
 五つのばした  ところ。
小熊のひたいの うえは
 そらのめぐりの めあて。」
双子のお星様たちは、笛を吹きはじめました。天の川の西岸に、とっても小さな二つの青い星が見えます。
あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星様。それぞれが水のエッセンスでできた小さなお宮に住んでいます。
二つのお宮は、ちょうどまっすぐに向かい合っています。
夜になると、二人は必ず自分のお宮に帰ってきちんと座り、空の星めぐりの歌に合わせて、一晩中銀の笛を吹くのです。
それが、この双子のお星様たちの大切な役目でした。

ある晩のこと、空の下のほうが真っ黒な雲でいっぱいに埋まり、その雲の下では雨がザアザアと降っていました。
それでも二人は、いつものようにそれぞれのお宮にきちんと座って向かい合い、笛を吹いていました。すると突然、大きな乱暴者の彗星がやってきて、二人のお宮にフッフッと青白い光の霧を吹きかけながら言いました。
「おい、双子の青星。少し旅に出てみないか。
今夜なんか、そんなに真面目に笛を吹かなくてもいいんだ。
いくら難船した船乗りが星を見て方角を決めようとしたって、これだけ雲が出ていれば見えやしない。
天文台の星の係りだって、今日は休みで欠伸(あくび)をしているよ。
いつも星を眺めているあの生意気な小学生も、雨のせいですっかりやる気をなくして、家の中で絵なんか描いているんだ。
お前たちが笛を吹かなくたって、星はみんな勝手にくるくる回っているさ。
どうだ、ちょっと旅に出よう。明日の晩方までには、またここに連れてきてやるぜ」

チュンセ童子が、少し笛を止めて言いました。
「曇っている日は笛を吹かなくてもいいと、王様からお許しは出ているよ。僕らはただ、面白くて吹いていたんだ」
ポウセ童子も笛を止めて言いました。
「けれども、旅に出るなんて、そんなことのお許しは出ていないはずだよ。雲がいつ晴れるかもわからないんだから」

彗星が言いました。
「心配するなよ。王様がこの前、俺にこう言ったぜ。『いつか曇った晩、あの双子を少し旅させてやってくれ』ってな。行こう、行こう。俺と一緒にいると面白いぞ。俺のあだ名は『空のクジラ』と言うんだ。知っているか? 俺はイワシみたいにヒョロヒョロした星や、メダカみたいな黒い隕石なら、みんなパクパク飲み込んでしまうんだ。それから一番痛快なのは、まっすぐ走っていて、そのまま急カーブを切るときだ。まるで体が壊れそうになってミシミシ鳴るんだぜ。光の骨までカチカチ鳴るくらいさ」

ポウセ童子が言いました。
「チュンセさん、行きましょうか。王様がいいと言ってくださったそうだから」
チュンセ童子が言いました。
「けれども、王様がお許しになったなんて、一体本当かなあ」

彗星が言いました。
「へん、嘘だったら俺の頭が裂けてしまえばいいさ。頭と胴体と尾っぽがバラバラになって海へ落ちて、ナマコにでもなるだろうよ。嘘なんか言うもんか」
ポウセ童子が言いました。
「それなら、王様に誓えるかい?」

彗星はわけもなく言いました。
「うん、誓うとも。そら、王様ご照覧あれ! ええ、今日、王様のご命令で双子の青星は旅に出ます。ね、いいだろう?」
二人は声を揃えて言いました。
「うん、いいよ。それなら行こう!」

すると彗星が、急にいやに真面目くさって言いました。
「それじゃあ早く俺の尻尾につかまれ。しっかりとつかまるんだぞ。さあ、いいか!」
二人は彗星の尻尾にしっかりとしがみつきました。
彗星は青白い光を一つフウと吐いて言いました。
「さあ、出発するぞ! ギイギイギイ、フウ。ギイギイ、フウ」

本当に、彗星は空のクジラそのものでした。弱い星たちはあちこちへ逃げ回りました。
もう随分と遠くまでやってきました。二人のお宮もはるか彼方に小さくなってしまい、今は小さな青白い点にしか見えません。
チュンセ童子が言いました。
「もう随分と来たな。天の川の落ち口はまだかな?」

すると、彗星の態度がガラリと変わりました。
「へん、天の川の落ち口より、お前らの落ち口を心配しろ。それ、いち、にの、さん!」
彗星は尾を強く二、三回動かし、おまけに後ろを振り返って青白い霧を激しく吹きかけ、二人を振り落としてしまいました。
二人は青黒い虚空をまっしぐらに落ちていきました。
彗星は「あっはっは、あっはっは! さっきの誓いも何もかも、全部取り消しだ! ギイギイギイ、フウ。ギイギイ、フウ」と叫びながら、向こうへ走り去ってしまいました。

二人は落ちながら、しっかりとお互いの肘をつかみました。この双子のお星様は、どこまででも一緒に落ちようとしたのです。
二人の体が空気の中に入ると、雷のように音が鳴り、赤い火花がパチパチと飛び散って、見ているだけでもめまいがするほどでした。
そして二人は真っ黒な雲の中を突き抜け、暗い波が吠えている海の中に、矢のように落ち込みました。
二人はずんずんと沈んでいきました。けれども不思議なことに、水の中でも自由に息ができたのです。
海の底はやわらかな泥で、大きな黒いものが寝ていたり、もやもやとした藻がゆらゆらと揺れていたりしました。
チュンセ童子が言いました。
「ポウセさん、ここは海の底だろうね」「もう僕たちは、二度と空へは戻れないんだね。これからどんなひどい目に遭うんだろう」

ポウセ童子がそう言いました。
「僕らはあの彗星にだまされたんだ。彗星は、王様に対してさえ嘘をついたんだね。本当に憎たらしいやつだ」

すると、すぐ足元で星の形をした赤い光の小さなヒトデが言いました。
「お前さんたちは、どこの海から来たんだい? お前さんたちは、青いヒトデのしるしをつけているね」

ポウセ童子が答えました。
「僕らはヒトデじゃない。星だよ」

するとヒトデは怒って言いました。
「何だと! 星だって? ヒトデなんて、もとはみんな星さ。お前たちは、今やっとここへ来たんだろう? なんだ、それじゃ新米のヒトデか。ほやほやの悪党だな。悪いことをしてここへ落ちてきたくせに、星だなんて威張るのは、この海の底じゃ流行らないぜ。おいらだって空にいた時は、第一等の軍人だったんだからな」

ポウセ童子が悲しそうに上を見上げました。
もう雨はやんで雲もすっかり消え、海の水はまるでガラスのように静まり返り、空がはっきりと見えました。天の川も、空の井戸も、わし座もこと座も、みんなきれいに見えます。小さく小さく、二人のお宮まで見えています。

「チュンセさん。空がすっかり見えるよ。僕らのお宮だって見える。それなのに、僕らはとうとうヒトデになってしまったんだね」
「ポウセさん。もう仕方がないよ。ここから空の皆さんに別れを告げよう。姿は見えないけれど、王様におわびをするんだ」

「王様、さようなら。僕たちは今日からヒトデになってしまいます」
「王様、さようなら。ばかな僕たちは彗星にだまされました。

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