お前は無罪だ! あとでごちそうに呼んでやろう」
ここでキツネが口を出しました。
「大王様! こいつはウソつきです。立ち聞きをしていたんです! 寝ていたなんてウソに決まっています。ごちそうようなんてとんでもありません!」
タヌキはカッとなって腹鼓をポンポンと叩き、キツネを責め立てました。
「なんだよ、人を中傷するのか! お前はいつもそうだな」
するとキツネもいよいよ本気です。
「中傷っていうのはな、ありもしないことで人を悪く言うことだ! お前が実際に立ち聞きをしていたんだから、それをそのまま正直に言うのは中傷じゃない、裁判っていうもんだ!」
ライオンがちょっとステッキを突き出して言いました。
「こら、裁判というのはいかん。裁判というものは、もっとえらい人間がやるものだ」
キツネが慌てて言いました。
「間違えました! 裁判ではありません、評判です!」
ライオンはまるで赤く熟した栗のイガのような顔をして、ひっくり返って笑い出しました。
「アッハッハ! 評判では何にもならないぞ。アッハッハ! お前たちには本当に呆れてしまう。アッハッハ!」
そしてやっと笑うのをやめると、こう言いました。
「よしよし、タヌキは許してやろう。行け!」
「そうかなあ。では、さようなら」
タヌキはまた藪の中に這い込んでいきました。
カサカサカサカサと、音がだんだん遠くなっていきます。どうやらよほど遠くの方まで歩いていくらしいのです。
ライオンはそれをじっと見送りながら言いました。
「キツネ。どうだ、これからは反省する気があるのか、ないのか? 反省するなら今度だけは許してやろう」
「へいへい! それはもう、反省でもなんでもきっといたします!」
「反省でもなんでも、とは何だ。一体どんなふうにするのだ」
「へいへい、その、反省やなんかで、いろいろいいことをみんなしますので……」
「ああ、やっぱりお前はまだダメだな。まったく困ったやつだ。仕方ない、今度こそ罰しなければならないな」
「大王様! 反省だけはちゃんとやりますから!」
「いやいや、朝までここにいろ。夜明けまでに(お前の)毛をむしる係りをよこすからな。もし逃げたら承知しないぞ」
「今月の、毛をむしる係りはどなたでございますか?」
「サルだ」
「サル……ひえっ! どうかそれだけはご勘弁を願います! あいつとはこの間から仲が悪いので、どんなひどいことをされるかわかりません」
「なぜ仲が悪いのだ。お前、何かサルをだましたのか?」
「いいえ、そうではありません」
「それならどうしたというのだ」
「サルが、私の仕掛けた草のわなを壊したのです」
「そうか。そのわなは何をとるためだ?」
「ニワトリです」
「ああ、呆れたやつだ。まったく困ったもんだ」
ライオンは大きくため息をつきました。
キツネもおいおいと泣き出しました。
すると向こうから、シロクマが一目散に走ってきます。
ライオンは道にステッキを突き出して呼び止めました。
「止まれ、シロクマ、止まれ! どうしたのだ、ひどくあわてているではないか」
「はい……」象が、ぼくの鼻を伸ばそうとして、あまりにも強く引っ張るんです。」
「ふん、そうか。
ケガはないのか?」
「鼻血をたくさん出しました。
そして気を失って倒れました。」
「ふん。
そうか。
それくらいなら、まあいいだろう。
しかしお前は、象の弟子になろうと言ったのか?」
「はい。」
「そうか。
あんな風に鼻が伸びるには、やっぱり天才でなくてはダメだ。
引っ張るくらいでどうにかなるもんじゃない。」
「はい。
全くその通りでございます。
あ、追いかけてきました!
どうかよろしくお願いいたします。」
白熊は、ライオンの影に隠れました。
象が地面をみしみしと言わせながら走ってきたので、ライオンはまたステッキを突き出して叫びました。
「止まれ、象。
止まれ。
白熊はここにいる。
お前は誰を探しているんだ?」
「白熊です。
私の弟子になろうと言うんです。」
「ふむ。
そうか。
しかし白熊はすごくおとなしいから、お前の弟子にならなくてもいいだろう。
白熊は実に無邪気な紳士だ。
それよりも、このキツネを少し教育してやってくれないか。
せめてウソをつかないくらいにな。」
「そうですか。
いやあ、承知いたしました。」
「いま毛をみんなむしり取ろうと思ったんだが、あまりにかわいそうでな。
授業料はわしが出そう。
一ヶ月八百円にまけてくれ。
今月分だけは先に払っておこう。」
ライオンはベストのポケットから大きなお財布を出して、せんべいみたいな大きさの金貨を八枚取り出すと、象に渡しました。
象は鼻でそれを受け取って、自分の耳の中にしまいました。
「さあ行け。
キツネ。
言うことをよく聞くんだぞ。
それから。
象。
キツネはおれから預けたんだから、鼻をむやみに引っ張らないでくれ。
よし。
さあみんな行け。」
白熊も、象も、キツネも、みんな立ち上がりました。
キツネとうとうと首を垂れながらも、きょろきょろとあたりを盗み見つつ象の後についていき、白熊は自分の鼻を押さえながら家の方へと急ぎました。
ライオンヌは葉巻をくわえ、マッチをすって、黒い山へと沈んでいく十日の月をじっと眺めました。
そこで、みんなは目を覚ましました。
十日の月は、ちょうど今まさに山へ入り込むところでした。
キツネもたくさんくしゃみをして起き上がり、うろうろとうろうろと檻の中を歩きながら、向こうのライオンの檻の中にいるまっくろで大きなけものを、暗闇を見つめながらちらりと見ました。
初級翻訳・月夜のけだもの 第2話
宮沢 賢治
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