初級翻訳・シグナルとシグナレス 第4話

シグナルとシグナレス

何か働かないといけないから」
「ええ」
「ああ、お星さま、遠くの青いお星さま、どうか私どもを連れていってください。ああ慈悲深いサンタ・マリアさま、また恵み深いジョージ・スチブンソンさま、どうか私どものかなしい祈りを聞いてください」
「ええ」
「さあ、いっしょに祈りましょう」
「ええ」
「あわれみ深いサンタ・マリアさま、透き通る夜の底、冷たい雪の地面の上で、かなしく祈るわたくしたちを見守ってください。恵み深いジョージ・スチブンソンさま、あなたのしもべの、またそのしもべである、かなしいこの魂のまことの祈りを聞いてください。ああ、サンタ・マリアさま」
「ああ」
星は静かにめぐっていきました。
そこで、あの赤い目のさそり座が、せわしなくまたたきながら東から昇ってきました。そしてサンタ・マリアさまのお月さまが、慈愛に満ちた尊い黄金のまなざしでじっと二人を見つめながら、西のまっくろな山へとお隠れになった時、信号機くんとシグナレスの二人は、祈り疲れてもう眠っていました。

今度は昼間です。
なぜなら、夜と昼はどうしても交代でやってくるからです。
ギラギラと輝くお日さまが、東の山を登ってきました。
信号機くんとシグナレスは、パッと桃色に照らされました。
いきなり、大きな幅広い声がそこらじゅうに響き渡りました。
「おい。本線の信号機についている電信柱よ、おまえの叔父さんの鉄道長に早くそう伝えて、あの二人をいっしょにしてやったほうがいいぜ」
見ると、それは先日の晩にいた倉庫の屋根でした。
倉庫の屋根は、赤い釉薬(うわぐすり)をかけた瓦を、まるで鎧のようにキラキラと着込んで、ジロリとあたりを見回しているのでした。
本線の信号機がついている電信柱は、ガタガタッと震えて、それからピシッと固くなって言い返しました。
「ふん、なんだと。お前はどんな縁があって、こんなことに口を出すんだ」
「おいおい、そんなに威張るなよ。ええ、おい。おれは縁があると言えば大縁故さ。縁がないと言えば、ちっとも縁もゆかりもないぜ。だがね、こういうことには、てめえのような変なやつは、あんまり手を出さないほうが結局てめえのためだろうぜ」
「なんだと。おれは信号機の後見人だぞ。鉄道長の甥だぞ」
「そうか。おい立派なもんだなあ。信号機さまの後見人で、鉄道長の甥かい。けれどもそれなら、おれなんてどうだい。おれさまはな、ええ、めくらとんびの後見人、風邪引きの脈の甥だぞ。どうだ、どっちが偉い?」
「何をっ、コリッ、コリコリッ、カリッ!」
「まあまあ、そう怒るなよ。これは冗談さ。悪く思わないでくれ。な、あの二人さ、かわいそうだよ。いいかげんにまとめてやれよ。大人らしくもないじゃないか。あんまり器の小さいことは言うなよ。あんな立派な後見人を持って、信号機も本当に幸せだと言われるぜ。まとめてやれ、まとめてやれ」
本線の信号機がついている電信柱は、何か言い返そうとしましたが、もう気が立ってしまって、パチパチパチパチと音を立てるばかりでした。倉庫の屋根も、信号機くんがあまりに怒り出したので、「そんなはずじゃなかったのになあ」と少しあきれ顔で、黙ってその様子を眺めていました。

お日さまはずいぶん高く昇り、信号機くんとシグナレスは、また「ホッ」とため息をついてお互いの顔を見合わせました。
シグナレスは少し目を伏せ、信号機くんの白い胸に青々と映り込んだ、自分のめがねの影をチラッと見ました。それから急に目をそらし、自分の足元を見つめて、いろいろと考えてしまいました。

その日の夜は、とても暖かでした。
霧が深ーく、深ーく立ち込めていました。
その霧を通り抜けて、月の光が水色に静かに降り注ぎ、電信柱も枕木も、みんなぐっすりと眠りにつきました。
信号機くんは、まるで待っていたかのように「ホッ」と息を吐きました。
シグナレスも胸いっぱいの想いを込めて、小さく「ホッ」とため息をつきました。
そのとき、信号機くんとシグナレスは、霧の中からあの倉庫の屋根の、落ち着いた親切そうな声が響いてくるのを聞きました。

「お前たちは、本当に気の毒だなあ。わたしは今朝、うまく二人をくっつけてやろうと思ったんだが、かえって邪魔なことをしてしまった。
本当に申し訳ないことをしたよ。
だがね、わたしにはまた別の考えがあるから、そんなに心配しなくてもいいぞ。
お前たちは霧のせいで、お互いの顔も見えなくて寂しいんだろう?」
「ええ」
「ええ」
「そうか、それならおれが見えるようにしてやろう。
いいか、おれのあとについて、二人いっしょに真似をするんだぞ」
「ええ」
「よし、いくぞ。
アルファー」
「アルファー」
「ビーター」
「ビーター」
「ガムマー」
「ガムマーアー」
「デルター」
「デールータァーアアア」

実に不思議なことが起こりました。
気づけば、信号機くんとシグナレスの二人は、真っ黒な夜の中に肩を並べて立っていたのです。
「おや、どうしたんだろう。
あたり一面、真っ黒なビロードのような夜だね」
「まあ、不思議ですわね。
本当に真っ暗だわ」
「いや、頭の上を見てごらん。星でいっぱいだ。
おや、なんて大きくて強い星なんだろう。
それに、見たこともない空の模様じゃないか。いったいあの十三個も並んだ青い星は、どこにあったんだろう。こんな星、見たことも聞いたこともないね。僕たち、いったいどこへ来たんだろう?」
「あら、空がものすごい速さで回っていますわ」
「ええ、ああ、あの大きなオレンジ色の星が、地平線から今昇ってきます。
おや、地平線じゃない。
水平線かな。
そうか、ここは夜の海の渚なんですよ」
「まあ、きれいだわね。あの波の青い光」
「ええ、あれは磯波の波頭ですね。すばらしいなあ。行ってみましょう」
「まあ、本当にお月さまの光みたいな水だわ」
「ねえ、水の底に赤いヒトデがいますよ。
銀色に光るナマコもいます。
ゆっくり、ゆっくり這っていますねえ。それから、あのユラユラと青く光るトゲを動かしているのはウニですよ。
波が寄せてきます。少し遠ざかりましょう」
「ええ」
「もう、何度空が回ったことでしょう。
たいへん寒くなりましたね。
海がなんだか凍りついたみたいです。
波ももう、打ち寄せなくなりました」
「波がやんだせいでしょうかしら。
何か音がしていますわ」
「どんな音?」
「ほら、夢の中で水車が回るような、そんな音」
「ああ、そうだ。
あの音だ。
ピタゴラスが言った、天球が回る時の美しい調べですよ」
「あら、なんだか周りがぼんやり青白くなってきましたわ」
「夜が明けるのでしょうか。
いや、どうだろう。
おお、すばらしい。
あなたの顔がはっきり見える」
「あなたもよ」
「ええ、とうとう僕たち二人きりになれたね」
「まあ、青白い火が燃えていますわ。
地面も海も。
でも、ちっとも熱くないわ」
「ここは空の世界ですよ。
これは星の中の『霧の火』なんです。
僕たちの願いが叶ったんだ。
ああ、サンタ・マリアさま」
「ああ」
「地球は遠いですね」
「ええ」
「地球はどっちの方角だろう。
あたり一面が星ばかりで、どこがどこだかもうわからない。
あの僕の『ブッキリコ(電信柱)』はどうしているかな。

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