初級翻訳・クねずみ 第2話

クねずみ

「そこで、その、世界文明のシンポハッタツ、カイリョウカイゼンがテイタイすると、政治はもちろんケイザイ、ノウギョウ、ジツギョウ、コウギョウ、キョウイク、ビジュツそれからチョウコク、カイガ、それからブンガク、シバイ、ええと、エンゲキ、ゲイジュツ、ゴラク、そのほかタイイクなどが、ハッハッハ、たいへんそのどうもわるくなるね」テねずみは難しいことをあまりたくさん言ったので、もう愉快でたまらないようでした。
クねずみはそれがまたむやみにしゃくにさわって、「エン、エン」と聞こえないように、そしてできるだけ高くせきばらいをやって、握りこぶしを固めました。
相手のねずみはやはり「へい」と言っております。
テねずみはまた始めました。
「そこでそのケイザイやゴラクが悪くなるというと、不平を生じてブンレツを起こすというケッカにホウチャクするね。
そうなるのは実にそのわれわれのシンガイでフホンイであるから、やはりその、ものごとは共同一致団結和睦のセイシンでやらんといかんね」

クねずみはあんまりテねずみの言葉やりっぱで、議論がうまくできているのがしゃくにさわって、とうとうあらんかぎり、
「エヘン、エヘン!」とやってしまいました。
するとテねずみはぶるるっとふるえて、目を閉じて、小さく小さく縮まりましたが、だんだんそろりそろりと伸びて、そっと目を開いてから、大声で叫びました。
「こいつは、ブンレツだぞ!
ブンレツ者だ!
しばれ、しばれ!」と叫びました。
すると相手のねずみは、まるで飛ぶ石のようにクねずみに飛びかかってねずみの捕り縄を取り出し、クルクルとしばり上げてしまいました。
クねずみはくやしくてくやしくて涙が出ましたが、どうにも勝てそうにありませんでしたから、しばらくじっとしておりました。
するとテねずみは紙切れを取り出してするするするっと何か書いて、捕り手のねずみに渡しました。
捕り手のねずみは、しばられてゴロゴロ転がっているクねずみの前に来て、ものすごくおごそかな声でそれを読み始めました。
「クねずみはブンレツ者によりて、みんなの前にて暗殺すべし」
クねずみは声をあげてチュウチュウ泣きました。
「さあ、ブンレツ者。
あるけ、早く!」と、捕り手のねずみは言いました。
さあ、そこでクねずみはすっかり恐れ入って、しおしおと立ち上がりました。
あっちからもこっちからもねずみがわらわらと集まってきて、
「どうもいい気味だね。
いつでもエヘンエヘンと言ってばかりいたやつなんだ」
「やっぱり分裂していたんだ」
「あいつが死んだらほんとうにせいせいするだろうね」
というような声ばかりが飛び交うのでした。捕り手のねずみは、いよいよ白いタスキをかけて、暗殺のしたくを始めました。
その時、みんなの後ろの方で「フウフウ」と言うものすごい音が聞こえ、二つの目玉が火のようにピカッと光りながら近づいて来ました。
それは、あの有名な猫大将でした。
「ワーッ!」
とねずみたちはびっくりして、四方八方にちりぢりになって逃げ出しました。
「逃がすもんか! コラッ!」
と猫大将はそのうちの一匹を追いかけましたが、ねずみはもう狭いすきまのずっと奥の方へもぐり込んでしまったので、いくら猫大将が手を思いっきり伸ばしても届きませんでした。
猫大将は「チェッ」と舌打ちをして戻って来ましたが、クねずみがたった一匹だけ縛られたまま残されているのを見て、びっくりしてこう言いました。
「お前は一体、何者だ?」
クねずみはもう観念したのか、すっかり落ち着いて答えました。
「クと申します」
「フッ、フッ、そうか。なぜそんなふうに縛られているんだ?」
「今から暗殺されるためです」
「フッ、フッ、フッ! そうか、それはかわいそうにな。よしよし、おれが引き受けてやろう。おれの家に来い。ちょうどおれの家では、子どもが四人生まれて、家庭教師がいなくて困っていたところなんだ。さあ、来い」
猫大将はのそのそと歩き出しました。
クねずみはブルブルと震えながら、こわごわその後をつれだってついて行きました。
猫の家というのは、それはもう立派なものでした。
紫色の竹で編んで作られていて、中はワラや布きれでホカホカとあたたかそうでした。おまけに、ちゃーんとご飯を入れる道具まで置いてあったのです。
そしてその中には、猫大将の子どもたちが四人、やっと目が開いたばかりの状態で、「ニャー、ニャー」とかわいらしく鳴いていました。
猫大将は子どもたちを一人ずつ優しくなでてやってから言いました。
「お前たちももう、しっかり学問をしないといかんぞ。ここへ先生をお呼びして来たからな。しっかり教わるんだぞ。絶対に、先生を食べてしまったりなんかしてはダメだぞ」
子どもたちは大喜びでにやにやと笑いながら、口々にこう言いました。
「おとうさん、ありがとう! きっとお勉強するよ。先生を食べてしまったりしないから安心して!」
クねずみは、聞いていて思わず足がブルブルと震えてしまいました。
猫大将が言いました。
「先生、うちの子たちに教えてやってくれ。おもに算術(さんじゅつ)をな」
「へい……しょ、しょう、承知いたしました!」
とクねずみは答えました。
猫大将はごきげんよく「ニャー」と鳴いて、するりと向こうへ行ってしまいました。
すると子どもたちが元気よく叫びました。
「先生! 早く算術を教えてよ! 先生、早く早く!」
クねずみは、「さあ、こうなったらもう本当に何か教えなくては大変だ」と思い、早口で言いました。
「一に一をたすと、二です!」
「そんなの知ってるよ!」と子どもたちが言いました。
「一から一を引くと、なーんにもなくなります!」
「わかってるよ!」
子どもたちが叫びました。
「一に一をかけると、一です!」
「当たり前でしょ!」と、猫の子どもたちは目をキリッと見開いたまま答えました。
「一を一で割ると、一です!」
「それも合ってるよ!」と猫の子どもたちは大喜びで叫びました。
そこでクねずみは、すっかり調子にのってしまいました。
「一に二をたすと、三です!」
「合ってるよ!」
「一から二を引くと……」と言おうとしたところで、クねずみはハッと口をつぐんでしまいました。
すると猫の子どもたちは一斉に叫びました。
「一から二は引けないよ!」
クねずみは、猫の子どもたちが自分よりあまりにも賢いので、すっかりムシャクシャしてきて、また早口で言いました。
それもそのはず、クねずみなんて、いちばん最初の一に一をたして二を覚えるまでに、なんと半年もかかったのですから。
「一に二をかけると、二です!」
「そうともさ!」
「一を二で割ると……」
クねずみはまたしても言葉につまってしまいました。
すると猫の子どもたちはまた一度に声をそろえて、
「一割る二なら、半分だよ!」と叫びました。
クねずみは、猫の子どもたちの賢さがどうしてもしゃくにさわって、思わず、
「エヘン! エヘン! エイッ! エイッ!」
とやってしまいました。

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