クという名前のねずみがいました。
とてもプライが高いうえに、人のことがうらやましくてしかたがない性格で、自分のことをねずみ仲間で一番の学者だと思い込んでいました。
ほかのねずみがちょっとでも生意気なことを言うと、「エヘン、エヘン」とわざとらしくせきをするのがクセでした。
ある日、クねずみの家に、友だちのタねずみが遊びにやって来ました。
タねずみはクねずみに言いました。
「こんにちは、クさん。
いいお天気ですね」
「いいお天気ですね。
何かいいものを見つけましたか?」
「いいえ、なんだか最近は不景気ですねえ。
これからどうなるんでしょう、景気は」
「さあ、あなたはどう思います?」
「そうですねえ。
でも、だんだんよくなっていくんじゃないでしょうか。
ヨーロッパのほうの金融は、しだいに引き締まった状態になっているそうですし……」
「エヘン、エヘン!」
突然、クねずみがいきなり大きなせきばらいをしたので、タねずみはびっくりして飛びあがりました。
クねずみは横を向いたまま、ヒゲを一本ぴんとひねり、それから口の中で、
「へえ、それから?」と言いました。
タねずみはやっと安心して、またおひざに手を置いて座りました。
クねずみもやっとまっすぐ前を向いて言いました。
「この前の地震には驚きましたね」
「全くですね」
「あんなに大きいのは私もはじめてですよ」
「ええ、ひどい揺れでしたねえ。
震源地はなんでも、東経四十二度二分、南緯……」
「エヘン、エヘン!」
クねずみはまた大声を張り上げました。
タねずみはまたまた面食らいましたが、さっきほどではありませんでした。
クねずみはやっと気分を直して言いました。
「天気もよくなりましたね。
あなたは何か、うまくいくような企みでもしておきましたか?」
「いいえ、なんにもしていません。
だけど、今度こんなお天気が長くつづいたら、私はちょっと畑のほうへ行ってみようかと思っているんです」
「畑には何かいいことでもあるのですか?」
「秋ですから、とにかく何か落ちていたりするだろうと思って。
天気さえよければいいんですけどねえ」
「どうでしょうね、天気はこのまいいでしょうか?」
「そうですねえ、新聞に出ていたんですが、沖縄諸島で発生した低気圧が、しだいに北西のほうへ進こう……」
「エヘン、エヘン!」
クねずみはまたいやなせきばらいをしたので、タねずみは今度という今度すっかりびっくりして、半分立ちあがり、ブルブルふるえて目をパチパチさせながら、すっかり黙りこんでしまいました。
クねずみは横を向き、ヒゲを引っ張りながら横目でタねずみの顔を見ていましたが、ずっとしばらくたってから、出せる限りの低い声で、
「へえ。
そして?」と言いました。
ところがタねずみは、もうすっかりこわくなってしまってもう物が言えなかったので、あわててていねいにおじぎをしました。
そして、か細い消えそうな声で、
「さようなら」と言って、クねずみの家から帰っていきました。
クねずみはそこであおむけに寝ころび、「ねずみ競争新聞」という新聞を手にとってひろげながら、
「へっ、タのやつめ、全然ダメだな」とひとりごとを言いました。
さて、この「ねずみ競争新聞」というのは、実に面白い新聞です。
これを読むと、ねずみ仲間の競争のことは何でもわかってしまうのです。
ペねずみがトウモロコシの粒をたくさん盗みためて、大金持ちのパねずみと意地の張り合いをしていることや、ハねずみ、ヒねずみ、フねずみの三匹の女の子のねずみが学問で競い合い、算数の「比例」の問題まで進んだとき、ついに三匹とも頭がパーンと割れてしまったことなど、何でもかんでもすっかり載っているのでした。
さあ、さあ、みなさん。
ちょっと失礼して、クねずみがきょうの新聞を読むのを、ちょっと聞いてごらんなさい。
「ええと、カマジン国の飛行機が、プハラを襲ったとな。
なるほど、やるもんだねえ。
こいつは大変だ。
まあしかし、ここまで来るわけじゃないから大丈夫だな。
ええと、ツェねずみが行方不明、と。
ツェねずみっていうのは、あの意地悪なやつだな。
こいつは面白くなってきたぞ。
『天井裏街一番地、ツェ氏は昨夜行方不明となりたり。
本社のすばやい調査によると、ツェ氏は数日前より、はりがね製のねずみとり氏とつきあいがあったもようだが、一昨夜になって両氏の間にちょっとしたトラブルがあったらしい。
台所街四番地ネ氏の話によれば、昨夜もツェ氏ははりがね製のねずみとり氏を訪ねたようだ』、と。
さらに、『床下通り二十九番地ポ氏は、昨夜の真夜中から今朝にかけて、ツェ氏とはりがね製のねずみとり氏がはげしく言い争い、時には取っ組み合いをする声を聞いた』、と。
以上のことから考えると、本事件には、はりがね製のねずみとり氏が深く関わっているようだ。
本社はさらに事件の真相を調べた上で、大いにはりがね製のねずみとり氏をペンでこてんぱんにやっつけてやりたいと思う』、と。
ははは、ふん、こいつはもう間違いなしだな。
ツェのやつめ、ねずみとりに食われちまったんだ。
こいつは面白い!」そのつぎはと。
なんだ、ええと、新任のねずみ会議員テ氏。
エヘン、エヘン。
エン。
エッヘン。
ヴェイヴェイ。
なんだちくしょう。
テなんかがねずみ会議員だなんて。
えい、おもしろくない。
おれでもすればいいんだ。
えい。
おもしろくもない、散歩に出よう。
そこでクねずみは散歩に出ました。
そしてプンプン怒りながら、天井裏街の方へ行く途中で、二匹のむかでが親孝行の蜘蛛の話をしているのを耳にしました。
「ほんとうにね、そうはできないもんだよ」
「ええ、ええ、全くですよ。
それにあの子は、自分もどこかからだが悪いんですよ。
それだのにね、朝は二時ごろから起きて薬を飲ませたり、おかゆをたいてやったり、夜だって寝るのはいつもおそいでしょう。
たいてい三時ごろでしょう。
ほんとうにからだがやすまるってないんでしょう。
感心ですねえ」
「ほんとうにあんな心がけのいい子は今ごろあり……」
「エヘン、エヘン!」と、いきなりクねずみが怒鳴りつけて、おひげを横の方へ引っ張りました。
むかたちはびっくりして、話もそこそこに別れて逃げていってしまいました。
クねずみはそれからだんだん天井裏街の方へと上がっていきました。
天井裏街のガランとした広い通りでは、ねずみ会議員のテねずみもう一匹のねずみと話をしていました。
クねずみは壊れたちり取りの陰で立ち聞きをしておりました。
テねずみが、
「それで、その、わたしの考えではね、どうしてもこれは、その、共同一致、団結、和睦の、セイシンで、やらんと、いかんね」と言いました。
クねずみは、
「エヘン、エヘン」と聞こえないようにせきばらいをしました。
相手のねずみは、「へい」と言って考えているようです。
テねずみは話を続けました。
「もしそうでないとすると、つまりその、世界のシンポハッタツ、カイゼンカイリョウがそのつまりテイタイするね」
「エン、エン、エイ、エイ」クねずみはまた低くせきばらいをしました。
相手のねずみは、「へい」と言って考えています。
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