初級翻訳・青い眼の人形 第3話

野口 雨情

昔、私が生まれた村の田んぼに、一匹の古狐が住んでいました。
若い女に化けて、旅人をだましたという話があります。
田んぼの狐は
  赤い櫛(くし)をさして
  赤い帯を締めて
  うしろ姿を見せて
  三味線を弾いていました

それから、風船玉に化けて村の子供をだまそうとした話もあります。
田んぼの狐は
  すすきの陰で
  赤い風船を飛ばした
  青い風船も
  飛ばした

ある時は、河童(かっぱ)の芥子坊主(けしぼうず)と畑の中で酒盛りをしていたという話もあります。
田んぼの狐は
  河童の
  芥子坊主と
  畑の中で
  小さな酒盛りをしていました

 隣村の狐

私の生まれた村の隣村の田んぼにも、悪い古狐がいました。
ある時、「おさよ」という村の娘に化けて、五兵衛さんの家の裏を馬に乗って通りました。
田んぼの狐は
  やせた馬に乗って
  三度笠(さんどがさ)をかぶって
  五兵衛さんのお家の
  裏の道を通り抜けた

  五兵衛さんが見ると
  笠で顔を隠した
  「おさよかい?」と聞くと
  「そうだよ」と言って
  笠で顔を隠した

  「どこへ行くんだ」と聞くと
  「越後の国へ、茶摘みに行くのさ
  五兵衛さんも行こうよ」と言って
  尻尾を出して
  見せた

また、ある時はお医者さんに化けて歩いていました。
田んぼの狐は
  薬箱を下げて、白い足袋(たび)をはいて
  お医者さんに化けた

  犬がかけてきたら
  薬箱を投げ捨てて、河原の藪(やぶ)へ
  逃げ込んじゃった

  犬が行ってしまうと
  河原の藪から、首だけ出して
  あっち、こっちと見ていた

 青野の森

ある年、私の生まれた村の田んぼの狐が、隣村の青野の森へお嫁に行ったという話があります。
田んぼの狐は髪を島田(しまだ)に結って
  青野の森へ
  お嫁に行った

  青野の森の
  婿(むこ)さん狐は
  とんがりお口

  青野の森の
  嫁さん狐も
  とんがりお口

海ひよどり

 磯の千鳥

磯が涸(か)れたと
啼(な)く千鳥
砂の数ほど
打ち寄せる波は

 昨日一日
 今日二日
 磯が涸れたと
 言って啼く

磯が涸れたと
啼く千鳥
どんど どんどと
打ち寄せる波は

 親の千鳥も
 子千鳥も
 磯が涸れたと
 言って啼く

 赤い靴

赤い靴をはいていた
女の子
異人さんに連れられて
行ってしまった

横浜の埠頭(ふとう)から
船に乗って
異人さんに連れられて
行ってしまった

今では青い目(の女の子)に
なっちゃって
異人さんの国に
いるんだろう

赤い靴を見るたび
考える
異人さんに会うたび
考える

 螢のいない螢籠(ほたるかご)

螢のいない 螢籠
螢は
飛んで逃げました

今朝目が覚めて見たときに
螢は
飛んで逃げました

青いダリヤの葉の上を
急いで
飛んで逃げました

高いお庭の木の上を
急いで
飛んで逃げました

螢のいない 螢籠
さびしい
籠になりました

 ひばり

雲雀(ひばり)は歌を
歌ってる

畑の歌を
歌ってる

朝から晩まで
歌ってる

菜種(なたね)が咲いたと
歌ってる

げんげが咲いたと
歌ってる

ピーチー ピーチー
歌ってる

 月の夜

機織り虫(はたおりむし)は
月の夜に
すすきにとまって
機を織る

 カンカラ コン
 カンカラ コン

まだ夜は明けない
明けないと
すすきにとまって
機を織る

 カンカラ コン
 カンカラ コン

 くたびれこま

かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり

くたびれました
くたびれました

赤いこまが
くたびれました

かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり

くたびれました
くたびれました

青いこまが
くたびれました

 海ひよどり

磯にとまって
海ひよどりは
海の向こうの
夢を見た

海の向こうに
小さい船が
赤い帆をかけて
走ってる

赤い帆をかけた
小さい船に
いつか別れた子供が
乗ってる

船と子供を
海ひよどりは
磯にとまって
夢に見た

 河原の河童

夜更けに子供が
歩いてる

頭にお皿が
載っていた

河原の河童の
子供だよ

河原で夜更けに
火が燃える

雨の降る晩なのに
火が燃える

河童の子供が
燃やすんだよ

 鳩さんはだし

少女「鳩さん、はだしで
どこへ行くの」

鳩「遠い田舎へ
お使いに」

少女「鳩さん、急いで
行っておいで」

鳩「はだしで急いで
行ってまいりましょう」

少女「鳩さん、あばよ」
鳩「お嬢ちゃん、さようなら」

少女「鳩さん、急いで
行っておいで」

 海女が紅(あまがべに)

港の空に
海女が紅(夕焼け)を
刷(は)いた

港の空に
赤い帯を
干した

信濃の国も
夕焼けで
燃えてるぞ

信濃の子供も
帯まで
赤く焼けてるぞ

(註。……)

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