初級翻訳・小公女 第23話

小公女

」
セーラの声は、そこらの乞食の娘たちの声とは似ても似つかぬものでしたし、身のこなしも良家の令嬢そのものでしたので、馬車の中の少女たちは身を乗り出して耳を傾けました。
ですが、ガイ・クラレンスは、せっかくの親切をひっこめるのがいやだったので、銀貨をセーラの手の中に押し込みました。
「君、受け取ってくれないと困るよ。これで何か食べるものでも買いたまえ。二十銭あるんだからね。」
少年は、非常に優しい顔をしていました。
セーラがこれ以上拒めば、少年をひどくがっかりさせてしまうだろうと思い、セーラは素直にお金を受け取らなければ悪いと感じました。
そこで、ようやく自分の気持ちを抑えましたが、頬は真っ赤に燃えました。
「ありがとう。坊ちゃんは本当に親切で、可愛い方ね。」
少年が嬉しそうに馬車へとびこむのを見ると、セーラもそこを去りました。
胸は締め付けられるようでしたが、それでも微笑みたい気持ちでした。
彼女の目は、霧の中でキラキラと光っていました。
セーラは自分が妙な格好をしていること、みすぼらしいことは前からよく知っていましたが、まさか乞食に間違えられるとは思いもよりませんでした。
走り出した馬車の中で、大屋敷の子供たちははしゃいで喋り出しました。
「どうして、お金なんかあげたの?」ジャネットがガイ・クラレンスに言いました。
「あの娘は乞食なんかじゃないと思うわ。」
ノラも言いました。
「口の利き方だって、乞食みたいじゃなかったわ。顔も乞食のようには見えなかったもの。」
「それに、おねだりしたわけでもなかったじゃないの。」ジャネットは言い続けました。
「私、あの娘が怒りはしないかと思ってはらはらしていたのよ。乞食でもないのに乞食と見られたら、腹を立てるのが当たり前だわ。」
「でも、あの娘は怒ってはいなかったよ。」と少年は言いました。
「あの娘はちょっと笑って、あなたは本当に親切で可愛い方だと言ったよ。その通りさ。僕は僕の持っている分をあげたんだもの。」
ジャネットとノラは顔を見合わせました。
「乞食の子なら、そんなことは言うはずがないわ。『ありがとうございます、旦那様、ありがとうございます』なんて言って、ぴょこぴょこ頭を下げるはずだわ。」
セーラはそんな話があったとは知る由もありません。
が、その時以来、大屋敷の人たちは、セーラが大屋敷に対して感じているような興味を、セーラに対しても持ち始めていたのでした。
セーラが通りかかると、子供部屋の窓に子供たちの顔がいくつも現れました。
みんなはよく暖炉のまわりでセーラのことを話し合いました。
「あの子は、学校で小間使いみたいなことをしているらしいのよ。」とジャネットは言いました。
「誰も面倒を見てやる人はいないようよ。きっと孤児にちがいないわ。でも、決して乞食じゃないことよ。身なりは汚いけれど。」
それで、それからはセーラを『乞食じゃない小さな女の子』と呼ぶようになりました。
あまり長い名前なので、小さい子たちが急いで言うと、ひどく滑稽に聞こえました。
セーラは、あの銀貨に工夫して穴をあけ、細いリボンの切れ端を通して首にかけました。
セーラは、大屋敷がだんだん好きになりました。セーラには、好きなものをますます好きになってしまうという癖がありました。
ベッキーに対しても、スズメたちに対しても、ネズミの一家に対しても――そしてエミリーに対しては、特にそうでした。
セーラは以前から、エミリーには何でも分かっていると思っていましたが、時折、今にもエミリーが口を開くのではないかと思われることもありました。
けれど、エミリーは何を尋ねても、返事だけは決してしてくれませんでした。
「返事といえば、私だってよく返事をしないことがあるわ。
恥ずかしい思いをした時などは、黙って皆を見返し、考え込んでいるのが一番いいのよ。
怒りほど強いものはないけれど、その怒りをじっと我慢しているのは、もっと偉いことだわ。
だから、いじめてくる人たちには返事をしないに限るの。
もしかするとエミリーは、私自身が自分に似ている以上に、私に似ているのかもしれないわ。
エミリーは味方に対してでさえ、返事なんてしないほうがいいと思っているのかもしれない。何もかも自分の胸一つに包み込んでおくためにね」
そう思ってはみましたが、あまりにひどい目に遭ったり、恥ずかしい思いをしたりすると、ただ棒のように立っているだけのエミリーを、生きているものだと思って自分を慰めることも、馬鹿らしくなってくることがありました。
ある寒い晩のことでした。
セーラは空っぽのお腹を抱え、煮えくり返るような思いを胸に、屋根裏部屋へ帰ってきました。
すると、エミリーは今までになくうつろな目をして、おがくずを詰めた手足を棒のように投げ出しているのです。
たった一人の友達であるエミリーまでこんな様子では――セーラはすっかりがっかりしてしまいました。
「私は、もうすぐ死んでしまうわ」
そう言っても、エミリーはうつろな目を見開いているばかりでした。
「もう我慢ができないの。
寒いし、服は濡れているし、お腹は死にそうに空いているんだもの。
死んでしまうに決まっているわ。
朝から晩まで、一体何キロ歩いたことでしょう。
それなのに、料理番の用事が見つからなかったからといって、晩ごはんを食べさせてくれないの。
ぼろ靴のせいで私が滑って転ぶと、みんなは私をあざ笑うのよ。
私は泥まみれになっているのに、みんなはゲラゲラ笑っているの。
エミリー、分かってくれる?」
エミリーのガラス玉のような目や、不服もなさそうな顔つきを見ていると、セーラは急に腹立たしくなってきました。
彼女は小さな手を荒々しく振り上げ、エミリーを椅子から叩き落とすと、急にしゃくりあげて泣き始めました。
セーラが泣くなどということは、今までになかったことでした。
「あなたはやっぱり、ただの人形なのね。
人形よ、人形よ。
おがくずの詰まった人形に、何が感じられるものか!」
ふと、壁の中にただならぬ物音が起こりました。
メルチセデクが誰かを叱りつけているのでした。
セーラのしゃくりあげる声は、だんだんおさまってきました。
こんなにへこたれるのは、いつもの自分らしくない、とセーラは意外に思いました。
彼女は顔を上げて、エミリーの方を見ました。
エミリーは横目を使ってセーラの方を見ているようでした。
その目は確かにガラス玉には違いありませんでしたが、どこかセーラを同情しているように見えました。
彼女は身をかがめて人形を抱き上げました。
悪かったという気持ちで、胸がいっぱいになりました。
「あなたが人形なのは、当たり前よね。
あなたはあなたで、できるだけのことはしているのかもしれないわね」
そう言いながら、セーラはエミリーにキスをして、服のしわを伸ばし、いつもの椅子の上に座らせてやりました。
以前からセーラは、隣の空き家に誰か住めばいいのにと思っていました。
というのは、その家の屋根裏の窓が、セーラの部屋のすぐ向かいにあるからでした。
その窓が開かれて、四角い枠の中から誰かの頭や肩が出てきたら、どんなにいいだろうと思われました。
「立派な顔の人だったら、こっちから挨拶してみよう。

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