初級翻訳・イワンの馬鹿 第3話

イワンの馬鹿

この畑はすっかり鋤き返されてしまったから、あの馬鹿をとっちめるにはどうしてもあの牧場だな」
そこで小悪魔は牧場へ出かけて行って、イワンの秣場(まぐさば)に水をまき、草を泥だらけにしておきました。
イワンは野原から夜明け方に帰って来て、鎌をといで、秣場へ草刈りに出かけました。
が、どうしたものか鎌を一二度ふったばかりでひどく刃がまがって、ちっとも切れなくなって、またとがねばなりませんでした。
イワンはしばらく刈っていましたが、やがて、
「こりゃいけねえ。鎌とぎ道具を持って来なくちゃ。
そしてパンも持って来ることにしよう。
たとえ一週間かかったって、草を刈ってしまわずにおくものか」
とひとりごちました。
小悪魔はそれを聞いて考え込みました。
「こいつはなかなか手に負えないぞ。
こんな手じゃとても馬鹿を取っちめることはできない。
何か他の手でやってみなくちゃ」
イワンは家へ帰って鎌をといでまた草を刈りはじめました。
小悪魔は草の中へもぐり込んで、その鎌の先きを捉えて、切尖(きっさき)を地へ突っ込むようにしはじめました。
イワンは、仕事が大へん骨折れると思いましたが、それでも秣場をすっかり刈りおえて、沼地に入っているところだけ少し残しました。
小悪魔はその沼地へ入り込んで、
「たとえ両手を切り取られたって、刈らせるこっちゃない」
と考えました。
イワンはやがてその沼地へ来ました。
草はそう茂ってはいませんでした。だが、鎌は思うようにスムーズには動きませんでした。
イワンはすっかり怒ってしまい、持てる限りの力をこめて鎌を大きくふりはじめました。
小悪魔は力の勝負で負けてしまい、もうこれ以上はとても持ちこたえることができなくなりました。
「いよいよおしまいだ」と思った小悪魔は、草むらの中へとろけるように倒れ込んでしまいました。
イワンはそのまま鎌をふって草むらをわしづかみにして刈り取ったため、小悪魔はそのしっぽの半分を切り落とされてしまいました。
イワンは刈り取った草を妹に集めるように言いつけると、今度はライ麦を刈りに行きました。
イワンが鎌を持って行ってみると、例のしっぽを切られた小悪魔が先回りをして麦をめちゃくちゃに乱しておいたため、またしても鎌が引っかかってしまいました。
そこでイワンは一度家へ帰り、別の鎌を持ってきてから再び刈りはじめ、ついにライ麦をすっかり取り入れてしまいました。
「さて、今度は燕麦(えんばく)の番だな」
とイワンは言いました。
すると、しっぽを切られた小悪魔はこう考えました。
「ライ麦のときであいつをうまくやっつけることはできなかったが、燕麦ならきっとできるはずだ。明日になったらどうなるか、見ていろよ」
小悪魔は翌日の朝、大急ぎで燕麦の畑へ行きました。
ところが、燕麦はすでにすっかり刈り倒されていました。
イワンは麦の粒がこぼれ落ちるのをできるだけ少なくしようと、なんと夜通し働いて刈り終えてしまっていたのです。
小悪魔はひどく腹を立てました。
「あの馬鹿め、おれの体中を傷だらけにしやがって、すっかりうんざりさせちまった。
これじゃまるで戦争よりもひどいじゃないか。
ちくしょう、あいつは少しも眠りやしない。
あんなやつにはとてもかなわないぞ。
よし、今度は麦束の中にもぐり込んで、腐らせてやれ!」
そこで小悪魔はライ麦の畑へと行き、麦束の中に入り込みました。
すると、麦束はみるみるうちに腐りはじめました。
小悪魔はその中で麦束を温めていましたが、やがて自分の体もぽかぽかと温かくなってきて、そのままぐっすりと寝込んでしまいました。
イワンは馬にエサをやると、用意をして妹といっしょにライ麦を運び出しにやって来ました。
そして、さっそく麦束を積みはじめました。
車に二束ほど投げ込んで、三束目を持ち上げようと熊手を突き刺したその時、熊手の尖(きっさき)がなんと小悪魔の背中にグサリと突き刺さりました。
慌てて熊手をふり上げてみると、その先端にはあのしっぽの切れた小悪魔が、逃げようとしてしきりに体をジタバタとのたうち回っていました。
「おや、おや、また出てきやがったな」
「い、いや、ちがうんです!
さっき来たのは私の兄弟です。
私はあなたの兄さんであるシモンのほうについていたんです!」
と小悪魔は必死で言いました。
「ふん、どいつだろうと知ったこっちゃないね。
お前もあいつと同じ目にあわせてやるまでだ」
イワンは小悪魔を荷車へ力いっぱい叩きつけようとしました。
小悪魔は大声で叫びました。
「ま、待ってください!
二度とあなたの邪魔はいたしません。
あなたの言うことなら何でもききますから!」
「ほう、手前には何ができる?」
「何でもあなたのお好きなもので兵隊をこしらえることができますよ」
「兵隊なんていったい何の役に立つんだ?」
「どんなことにだって役に立ちます。
あなたが命令さえ下せば、どんなことでもやってくれますよ」
「じゃ、歌がうたえるかい?」
「ええ、できますとも! あなたが命令さえなさるなら」
「よしよし、じゃあ一つこしらえてくれ」
すると小悪魔は言いました。
「じゃあ、その麦束を一束取って地面につき立てて、こうおっしゃるんです。
『麦束よ、麦束よ
おれの家来に命じる
一本一本の麦わらから
兵隊が一人ずつ飛び出してこい!』ってね」

イワンが麦束を取り上げて地面へドンと叩きつけると、小悪魔が教えたとおりに唱えました。
すると、麦束がバラバラと音を立ててほどけたかと思うと、わらがみるみるうちにすべて兵隊になり、ラッパ吹きや太鼓打ちまでそろっていました。
こうして、あっという間に一隊の軍勢がすっかり出来上がりました。
イワンは面白がって笑いながら、
「こりゃ面白い! すっごく立派だなぁ。
村の娘っ子たちもさぞ喜ぶこったろう」
と言いました。
「じゃあ、ぼくを放してください」
と小悪魔は言いました。
「そりゃいけないな」
とイワンは答えました。
「おれは、兵隊を脱穀したあとのわらでこしらえるのでなきゃいやなんだ。
そうしないと、せっかくのいい麦がダメになってしまうだろ。
これをもとの麦束に返す方法を教えてくれ。
おれはこれからちゃんと麦の脱穀をしたいんだからな」
すると小悪魔は言いました。
「それならこう言うんです。
『私の家来に命じる
兵隊よ、兵隊よ
もとのわらに飛んで帰れ!』ってね」

イワンがそのとおりに言うと、兵隊たちはあっというまにもとの麦の束に戻りました。
そこで小悪魔は再びおそるおそる頼み込みました。
「どうか、放してくださいよ……」
イワンは、「いいとも、いいとも」と言いながら、小悪魔を荷車の横へ押しつけ、片手でおさえながら熊手からそっと引っこ抜いてやりました。
「神様がお前をお守り下さるように」
とイワンが言いました。
イワンが神様の名を口にするかしないかのうちに、小悪魔はまるで水に落ちた石のようにスルスルと地面へ消えていきました。そして後には小さな穴が一つだけ残りました。
イワンは家に帰りました。
家に帰ってみると、次の兄のタラスと、そのおかみさんが来ていて、晩飯を食っていました。

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