初級翻訳・小公女 第5話

小公女

すぐ立ちなさい!」

セーラはそれを見て、その子がひどく可哀想になり、お友達になってあげたいような気持ちになりました。他人が悩んでいたり、不幸であったりすると、すぐその争いの中に飛び込んで行きたくなるのがセーラの性分でした。
「もしセーラが男の子で、二、三百年前の時代に生まれていたら」とお父さんはよく言ったものです。「きっと抜き身の剣をひっさげて、苦しんでいる人なら誰でも助けたり庇ったりしながら、諸国を旅して回っただろうになあ。この子は困っている人たちを見ると、いつでも戦いたくなるのだから」

授業が終わると、セーラはその太った少女を探しに行きました。少女はしょんぼりと窓の下の席にうずくまっていました。セーラはこんな時、誰でも言うような言葉をかけただけでしたが、セーラが言うと、それは何かしら温かい気持ちがこもっていて、心地よく聞こえるのでした。
「お名前、何て言うの?」

太った少女はびっくりしました。転校生というものは初めはなんとなく近づきにくい存在ですし、しかもセーラは前の晩からみんなの間でいろいろ噂の的になっていた新入生です。馬車や小馬、付き人の女中や身の回りの持ち物から考えても、少し近寄りがたい少女だったのです。
「私、アーミンガード・セント・ジョンっていうの」
「私はセーラ・クルー。あなたのお名前、本当に素敵ね。まるでおとぎ話に出てくる名前みたいに聞こえるわ」
「あなた、そう思う?」とアーミンガードは飛び上がりそうになって言いました。
「私……私はあなたの名前、大好きよ」

セント・ジョンは、学者の父親を持っているために、いつも勉強で苦しめられていたのです。父親は七、八ヶ国語を操り、何千冊もの蔵書を暗記しているような厳しい人でした。ですから、お父さんは娘が、簡単な歴史やフランス語ぐらい覚えていて当たり前だと思っているのです。
ところが、セント・ジョンは学校の中でも一番の劣等生でした。
「この子は、無理やりにでも覚えさせるようにしてくださらなければ駄目です」と、お父さんはミンチン先生に頼み込んでいたのでした。
そういうわけで、アーミンガードはいつも叱られたり、泣かされたりしていました。
彼女は覚えたかと思うと、すぐに忘れてしまいます。
一生懸命詰め込んでも、何のことだかさっぱり理解できないという様子でした。
ですから彼女は、セーラを感嘆の眼差しで見つめることしかできませんでした。
「あなた、フランス語がお上手なのね」
セーラは大きな、奥まった窓際の席に座り、両手で縮めた足の膝を抱えていました。
「家でいつも聞いていたから話せるのよ。あなただって、耳にしていれば、きっと話せるようになるわ」
「まあ、私なんか駄目よ。どうしても話せないの」
「なぜ?」
アーミンガードは頭を振りました。垂らした髪がぶらぶらと揺れました。
「あなたは、お利口なのね」
セーラは窓越しに暗い街を眺めました。濡れた鉄の欄干や、すすけた木の枝などに、雀が飛び交いながらさえずっていました。
セーラは少しの間、心の中で考えてみました。
自分はこれまで何度も「お利口だ」と言われたことがある。本当にそうなのだろうか?――もしそうなら、一体どうして私は利口なのだろう。
「私、わからないわ」
セーラは相手の丸っこくてむっくりした顔に浮かぶ悲しげな表情を見ると、かすかに笑いながら話を変えました。
「あなた、エミリイちゃんを見たことある?」
「エミリイちゃんって、どなた?」
アーミンガードは、さっきのミンチン先生のように聞き返しました。
「私のお部屋にいらっしゃいな。見せてあげるわ」
二人は一緒に窓際の席から飛び降りて、二階へ上がっていきました。
「ほんと?」客間を通り抜ける時、アーミンガードは囁きました。
「あなた一人の遊び部屋があるって、ほんとなの?」
「ええ。お父様がミンチン先生にお願いしてくださったの。だって――ねえ、私、遊ぶ時、自分でお話をこしらえて、自分に聞かせるからなの。人に聞かれるのはいやでしょう? それに、誰かが聞いていると思うと、お話が駄目になってしまうんですもの」
その時二人は、もうセーラの部屋の前の廊下に来ていました。
アーミンガードはふと立ち止まって目を丸くし、息を呑んで「お話をこしらえるんですって?」と喘ぐように言いました。
「そんなこと、あなたにできるの?――フランス語みたいに? 本当にできるの?」
セーラは驚いて、少女を見返しました。
「誰にだってできるんじゃないの? あなた、やってみたことないの?」
セーラは何か前触れのように少女の手を握りました。
「そっと扉のところへ行きましょう。それからさっと戸を開けるわ。そうすれば、きっと捕まえられるから」
セーラは笑っていましたが、その瞳には神秘的な期待が宿っていました。
アーミンガードは、なぜ、どうして、何を捕まえるのかさっぱりわかりませんでしたが、セーラの眼差しにはすっかり魅せられてしまいました。
何でもいい、きっと面白いことに違いない――アーミンガードは胸を躍らせながら、つま先立ってセーラの後から戸口に近づきました。
不意に扉が開くと、小ぎれいに片付いた静かな部屋が目に入りました。
暖炉には穏やかに火が燃えていました。
椅子の上には見事な人形が、ちゃんと本を読んでいました。
「あら、もう席に戻っているわ」とセーラが叫びました。
「いつだってああなのよ。稲妻みたいに早いんですもの」
アーミンガードは、セーラから人形へ、人形からセーラへと目を移しました。
「あのお人形――歩けるの?」
「ええ。どうしても歩けるはずだと思うの。歩けると思っているつもりなのよ。そう思うと本当にそう見えるんですもの。あなた、いろんなことの『つもり』になってみたことある?」
「いいえ、ちっともないわ。私――ねえ、お話してちょうだいな」
エミリイは、少女が今まで見たこともないほど見事な人形でしたが、少女はセーラにすっかり魅せられてしまったので、風変わりなこの新しいお友達の方へ目を向けました。
「まあ、腰をかけましょうよ」セーラは言いました。
「お話を作るなんて、本当に造作もないことよ。そして、始めたらとても止められないの。エミリイ、あなたも聞いていなくちゃいけないことよ。この方はアーミンガード・セント・ジョンさんなの。アーミンガードさん、こちらはエミリイと申します。あなた、抱いてやってくださる?」
「抱いてもいい? 本当にいいの? まあ、なんて綺麗なの」それからの一時間は、アーミンガードにとって、今まで考えたこともないような楽しい時間でした。
お昼のベルが鳴って、食堂へ降りて行くのが名残惜しいほどでした。
その間、セーラは暖炉の前に体を小さくして座り、不思議なお話をたくさん聞かせてくれました。
セーラの緑色の瞳は輝き、頬にはほんのりと赤みが差していました。
航海の話、インドの話――けれど、アーミンガードを最も夢中にさせたのは、お人形についてのセーラの空想でした。
お人形がみんなのいない間に歩いたり、おしゃべりをしたりすること、でもそれを誰にも知られてはいけないから、人の気配がすると「稲妻のように」自分の席へ飛び戻るのだという話などでした。
「私たちには真似できないわね。

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