初級翻訳・小公女 第4話

小公女

「お父さんが、あなたにフランス人の女中を雇って下さったのは、あなたにフランス語の勉強を特にさせたいお考えからだと思いますが。」

セーラは少しもじもじしました。
「あの、お父様があの方を雇って下さったのは――あの、お父様が、私があの方を好きになるだろうとお考えだったからでしょう、ミンチン先生。」
「どうも、あなたは……」とミンチン先生は少し意地の悪い薄笑いを浮かべました。「大変甘やかされていたとみえて、何でも好きだから人がして下さると考えているようですね。私の考えでは、お父様はあなたにフランス語を勉強させたいのだと思いますがね。」

セーラはただ黙って頬を紅らめました。かたくなな先生は、セーラなどはフランス語を何一つ知っているはずがないと思い込んでいるらしいのでした。しかし、実はセーラは、フランス語を知らない時はなかったようなものでした。セーラの母はフランス人でした。父は母の国の言葉が好きでしたので、母がセーラを生んで亡くなってしまった後も、よく赤ん坊のセーラにフランス語で話しかけたものでした。そのため、セーラも自然と幼い時からフランス語は聞き慣れていたのでした。しかし、ミンチン先生にそう言われると、先生の思い違いを正すのは失礼なように思えて、申し開きも思うようには出来ないのでした。
「私――私、ほんとにフランス語の勉強をしたことはないのですけど、でも――でも。」

ミス・ミンチンの人知れぬ悩みの種は、自分自身にフランス語の能力がないということでした。そのため、彼女はこの苦しい事実をなるべく隠しておこうとしていました。ですから先生は、セーラに何か問われて、自分のボロを出してはならないと思ったのでした。
「それでよろしい。まだ習わないのなら、早速始めなければなりません。もうじきフランス語の先生のデュファルジュさんが見えるはずですから。見えるまでこの本を持って行って、下読みをしておきなさい。」

セーラは席へ戻って、第一ページを開いてみました。この場合、笑っては失礼だと思ったのですが、「ル・ペール」は「父」、「ラ・メール」は「母」などということを、今更教わらなければならないのかと思うと、どうしてもおかしくなるのでした。ミンチン先生は、セーラの方をちらと探るような眼で見て、「何をふくれているのです、セーラさん。」と言いました。「フランス語を勉強するのが、いやなのですか?」
「私、大好きなのです。でも――」
「何か物を言いつけられた時、『でも』などというものではありません。さ、御本を見るのですよ。」

セーラは本を見ました。「ル・フィス」は「むすこ」、「ル・フレール」は「兄弟」。分かりきったことでしたが、セーラはおかしさを耐え続けました。セーラは心の中で、「デュファルジュ先生がいらしたら、分かって下さるでしょう。」と思っていました。
デュファルジュ先生はすぐに来られました。大変立派で、賢そうな中年のフランス人でした。彼は熟語読本に身を入れようとしているセーラのしとやかな姿に眼をとめますと、心を惹かれたような様子をしました。
「これが、私の方の新入生ですか?」と、彼はミンチン女史の方へ振り向きました。「うまく行けばいいですがね。」
「この子のお父さんは、大変フランス語を習わせたがっているのですが、この子は何だか勉強したくなさそうなのです。」
「それはいけませんね、お嬢さん。」彼は親切そうに言いました。「一緒にお始めになりさえすれば、きっと面白くなりますよ。」

セーラは辱められでもしたかのような気持ちで、立ち上がりました。彼女は大きな青鼠色の眼で、デュファルジュ氏の顔をじっと見ました。話しさえすれば、先生は分かって下さるのだと彼女は思いました。そこで、セーラは何の飾り気もなしに、美しい流暢なフランス語で話し出しました。ミンチン先生には、もちろんセーラが何を言っているのか分かりませんでした。
しかし、セーラはフランス語でこう言ったのです。
「先生が教えてくださるのなら、何でも喜んで勉強いたします。ただ、この本に載っていることは、もうとっくに知っているということを、先生(ミンチン先生)にお伝えしたいのです」

ミンチン先生はセーラが話し出したのを聞くと、飛び上がるほど驚いて、眼鏡の奥から何か不愉快そうな目つきでセーラを見つめました。
デュファルジュ先生は微笑み始めました。その微笑みは、とても喜んでいるしるしでした。セーラの子供らしく美しい声が、自分の母国語をこれほど率直に、可愛らしく語るのを聞いていると、まるで故郷にいるような懐かしい気分になったのです。暗い霧のロンドンにいると、いつもは故郷が世界の果てのように遠く感じられていたのですが。

セーラが話し終えると、デュファルジュ先生は愛情のこもった表情で熟語読本を取り上げ、ミンチン先生にこう言いました。
「ねえ先生、もう教えるほどのことはありませんよ。この子はフランス語を覚えたのではありません。この子自身がフランス語そのものなのです。アクセントも素晴らしい」

「なぜ、私に言わなかったの?」
ミンチン先生はひどく気分を害した様子で、セーラに向き直りました。
「私……お話ししようと思ったのですが、切り出し方が上手くなかったのでしょうか」

ミンチン先生には、セーラが何を言おうとしていたのか分かっていました。また、セーラがそれを言い出せなかったのは、自分に恥をかかせないためだったということも理解できました。けれども先生は、生徒たちがセーラの話を聞きながら、フランス語の文法書のかげで忍び笑いをしているのを見ると、急に腹立たしさがこみ上げてきました。
「静かにしなさい、皆さん!」
先生は机を叩いて、厳しい声を上げました。
「静かにしなさいと言ったら聞こえませんか!」

その時以来、先生はセーラに対して、いくらか敵意を抱いているようでした。

アーミンガード

その最初の朝、セーラは教室の生徒全員が自分を熱心に見つめているのを感じながら、ミンチン先生のそばに座ったとき、自分と同じ年頃の少女が一人、明るくぼんやりとした青い目で自分をじっと見ていることにすぐ気づきました。
太っていて、唇を少し突き出したその子は、あまり賢そうではありませんでしたが、性格はとても良さそうに見えました。亜麻色の髪をきっちりと結い、リボンをつけています。デュファルジュ先生がセーラに話しかけた時、その少女は少し怯えたような目をしました。しかし、セーラがいきなりフランス語で答えると、少女はびっくりして飛び上がり、顔を真っ赤にしました。何週間も何週間も、フランス語の「父、母」という単語さえ覚えられずに泣いていたというのに、目の前の少女が、自分の知らない単語までいとも簡単に動詞でつなぎ合わせて話しているのを見て、少女はたまらなくなったのです。彼女は夢中で見つめながら、思わずリボンを噛んでしまい、ミンチン先生に見つかってしまいました。先生はちょうどイライラしていたところだったので、たちまち少女に食ってかかりました。
「セント・ジョン! その態度は何ですか。肘を直しなさい。口からリボンを出しなさい。

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