初級翻訳・こがね丸 第2話

こがね丸

しかし、大王が自ら踏み込んでは、いたずらに人間を驚かすばかりで、敵の犬が逃げてしまうかもしれません。これには私に良い考えがございます」と言うと、金眸の耳に口を寄せて何かをささやき、再び金眸の前に立って、高慢な顔で進んでいきました。

第二回

この村の庄屋の家には、月丸と花瀬という雄と雌の犬がいました。
長年、情けをかけて飼っていたので、二匹もその恩に感じていたのか、とても忠実に仕えていました。おかげで長年、泥棒が入ることもなく、家はますます栄えていました。
降り続く大雪の中、まるで親戚にでも会ったかのように、月丸は雌の花瀬とともに、奥の広い庭で遊んでいました。
そこへ、裏の納屋の方から鶏の叫び声が激しく聞こえ、続いて「キャンキャン」という狐の声まで聞こえてきたのです。
「さてはあの狐めが、また今日も忍び込んだな。先日あれほど懲らしめたのに、もう忘れたのか。憎たらしい奴め、許しておくわけにはいかない。今度こそ仕留めてやる」
そう言って、月丸は雪を蹴立てて一文字に納屋の方へ走り出しました。狐はそれを見ると、あわてふためいて逃げ出しましたが、月丸は逃がすまいと追いかけ、表門へ出ようとしたその時、一声「ウォーッ!」と吠えながら、横の間から飛びかかってくるものがありました。
何者かと見れば、なんと自分よりも二回りも大きな虎ではありませんか。目を怒らせ、牙を鳴らし、爪を反らしているその様子といったら、恐ろしいことこの上ありません。
普通の犬であれば、その場で腰を抜かしてしまうところですが、月丸はもともと心猛き犬だったので、そのまま虎に立ち向かい、喚き叫んでしばらくの間、力の限り闘いました。
しかし、もともと強弱の差は歴然としており、無残にも肉は裂け、皮は破れ、悲鳴とともに息絶えてしまいました。
虎はその死骸を口にくわえ、後ろに白い雪を蹴立てながら、洞窟へと帰っていきました。そのあとには流れる鮮血だけが、雪の上に紅梅の花を散らしたように残っていました。
雌の花瀬は、最初から物陰でその様子をすべて見ていましたが、彼女はか弱い雌犬でした。
しかも、この頃から乳房が垂れ、子を宿している身であったため、夫の非業の最期を目の当たりにしながらも、救い出すことさえできず、ただ一人心を悶えさせながら、いかにも哀れな声を張り上げて激しく吠え立てました。
人々はようやくそれに気づき、ただ事ではないと駆けつけてみると、門前の雪は八方に蹴散らされ、血がいたるところに流れていました。ふと遠くの山陰を見ると、一匹の大虎が口にくわえて持ち去るものこそ、間違いなく月丸の死骸でした。
「さてはあの虎に食われたか。あと一足早ければ、あんなことにはならなかったものを」
主人は地団駄を踏んで悔しがりましたが、どうすることもできません。悲しみに狂う花瀬をなだめて、その場はなんとか収めましたが、収まらないのは花瀬の胸の内でした。
その日からというもの、彼女は物狂おしくなり、朝晩は小屋にこもるばかりで、与えられる食事もほとんど口にしませんでした。
怪しげな声で泣きわめき、門を守ることさえしなくなったので、番犬の役には立ちませんでしたが、主人は事の経緯を知っているため、より一層不憫に思い、心を込めて看病をしました。しかし花瀬は次第に痩せ衰えるばかりで、今は肉が落ちて骨が浮き出て、鼻の頭もすっかり乾き、この世の犬とも思えないほど、頼りない姿になってしまいました。
そんな折、月が満ちたのか、突然産気づき、苦痛の中で産み落としたのは、とても美しい茶色の雄の子犬がただ一匹でした。
背中あたりに金色の毛が混ざり、不思議な光を放っていたので、その名を「黄金丸(こがねまる)」と呼びました。
ただでさえ病気で疲れ果てていたところに、子を産んだものですから、今まで張り詰めていた気力が一気に緩んでしまい、重い枕も持ち上がらないほど、明日をも知れぬ命となりました。
臨終の際、かねてより親しくしていた裏の牧場で飼われている牡丹という牝牛を枕元に呼び寄せ、苦しい息を喘ぎながら言いました。
「牡丹さん、ご覧の通りの私の様子では、もう長くは生きられそうにありません。死に際にあたって、たった一つだけあなたに頼みたいことがあります。私の夫の月丸は、先日、猛虎・金眸のために非業の最期を遂げたことは、あなたもご存じでしょう……」「あの時、私が夫の無残な最期を目の当たりにしながらも、救おうとしなかったのは、情けない不貞の犬だと思われたかもしれません。
しかし、もともと犬の雌というものは、たとえ我が身が滅びようとも、雄の危機を救うべきなのは言うまでもなく、義理を知る獣の本分です。私もそれを見過ごしていたわけではありませんが、あの時命を惜しんだのには、私ならではの特別な事情があったのです。
もし私がその場に飛び出して、虎と争っていたらどうなっていたでしょう。
夫と共に殺されていたはずです。
そうなれば、誰が仇を討つというのでしょうか。
結局、親子三匹とも命を捨てることになり、それは貞節のように見えて、実は何の役にも立たない『犬死に』というものです。
そう心に決めていたので、耐えがたい屈辱を耐え、堪えがたい悲しみをこらえて、夫を殺された後も生きながらえてきたのです。
それもひとえに、お腹の中の子を産み落とした上で、仇を討たせたいと願ったからに他なりません。
ところが私は不幸にも、情けないことに病に倒れてしまいました。今にも消えそうな命を、必死に繋ぎ止めてようやくこの子を産み落としましたが、私にはもうこの子を育て上げる力もありません。せっかく頼りにしていた仇討ちも、水泡に帰してしまうのかと思うと口惜しくてなりません。私の思いを察してくださるなら、どうかこの子をあなたの子供として迎え、あなたの乳で育て上げてください。
そして、この子が一人前の雄犬に成長した暁には、その時こそ私の今の言葉を伝え、私にとっては夫の仇、あなたにとっては父の仇である、あの金眸(こんぼう)を討ち取るよう、力を貸してやってください。
私のお願いは、これ一つだけです。お願いします……」
そう言う声も、冬の虫の鳴き声のように次第に細くなっていきました。草葉の露のように脆い命は、犬であっても同じことなのです。

第三回

哀れなことに、花瀬は夫の行方を追いかけて、死出の山へと旅立っていきました。その日の夕暮れに息を引き取ったので、主人はなおさら不憫に思い、その亡骸を棺に納め、家の裏にある小山の陰に埋めて石を置き、月丸の名も共に彫り付けました。形ばかりの比翼塚を作り、跡を懇切丁寧に弔ったのです。

こうして孤児となった黄金丸(こがねまる)は、東西南北もまだ分からぬまま、藁の上から牧場の牡丹(ぼたん)のもとへ引き取られました。それからは牛の乳を飲んで、牛の小屋で育ちました。
成長するにつれて、その骨格は並の犬よりも優れ、性質も雄々しく、頼もしい犬となりました。
また、牡丹が飼っている雄牛の文角(ぶんかく)は、生まれつき義理堅い牛だったので、花瀬の遺言を固く守り、黄金丸の養育に朝晩心を砕きました。たくさんの子牛の群れの中に混ぜて、時には角突き合わせたり、競争させたりして、ひたすら力仕事に励ませました。

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