初級翻訳・アリスの地底めぐり 第6話

アリスの地底めぐり

なんてけったいなのかしら、ウサギのお使いだなんて! 今度はダイナがあたくしをお使いにやるんじゃないかしら?」
すると、こうなるのかな、とあれやこれや思い浮かんできました。「アリスお嬢さま、ただちにこちらへ、お散歩の支度を!」「今行くから、ばあや! でもこのネズミ穴を見張らないと、ダイナが戻ってくるまで、ネズミが逃げ出さないか見ておかないと――」「でもたぶん」とアリスは続けます。「もうダイナはうちに置いておけなくなるわね、そんなことをあの子が人間に言いつけだしたら!」

このときまでになんとか入れたお部屋はこぎれいなところで、窓際にテーブルがひとつあり、上には鏡がついていて、(アリスの思った通り)ちっちゃい白ヤギの手ぶくろが何組か置いてありました。
一組取り上げて出て行こうとしたとき、目に飛び込んできたのが、鏡わきに立てられた小びんです。
今度は〈ノンデ〉の札もなかったのですが、気にせず栓を抜いて口につけてね、「きっとなにか面白いことが起きるに決まってるわ」とひとりごと。
「なにか食べたり飲んだりするといつもそう。だからこのびんだって、たぶんね。今度は大きくなってくれるといいな。だってもうこんなにちーっちゃくなるのなんてうんざり!」

して、その通りになりました。しかも思ったよりもずっと早く、びんの半分も飲まないうちに、気づけば頭が天井におさえつけられるではありませんか。首が折れないようにと身をかがめて、あわててびんを下に置きながらひとりごと。
「もうけっこうよ――もう大きくならなくていいから――あんなに飲むんじゃなかったわ!」

なんたること! もはや手おくれです。ぐんぐん大きくなっていって、たちまち膝をつくほかなくなり、またたくまにそうする余裕もなくなって、なんとか横になろうとして、ひじをドアにぶつけたり、反対の腕を頭まわりでまるめたり。
まだまだ大きくなるので、最後の手として腕の片方を窓の外へ出し、片足をえんとつの中につっこんで、そこでひとりごと。
「もうこれでせいいっぱい――これからあたくしどうなるの?」

アリスにさいわい、魔法の小びんのききめはここで打ち止め、もう大きくはなりません。
とはいえやっぱり居心地が悪く、それにどうにもこのお部屋の外には出られる見こみもなさそうで、気がふさぐのも無理はありません。
「おうちにいた方がまだいい」とは、ふびんなアリスの想いです。
「ずっと伸び縮みしてばっかりとか、ネズミやウサギに頭ごなしに言われることもなくって――あのウサギ穴に入らなきゃよかった、って思うけど、けれど――どこかへんてこよね、こんな世界って。ふしぎなの、どんなことが起こってくれるのかしら! いつもおとぎ話を読んでると、こんなことぜったい起こりっこないって決めるのに、いま、ここで、あたくしはそのまっただ中にいるの! なら、あたくしについて書かれた本があってもよくてよ、じゃなくて? 大きくなったら書くんだから――まあ、今だって大きいけれど」と、いじらしい口ぶり。「といっても、ぎゅうぎゅうでここではもう大きくなれなくてよ」
「だとすると、」とアリスは思う。「今よりもう年は取らないってこと? ほっとしなくはないわ――おばあちゃんにならなくていいし――でもそうなると――いつまでもお勉強の山! えっ、そんなのぜったいいや!」

「もう、アリスのバカ!」とまだまだひとり言は続きます。

「ここでお勉強なんて、できっこないんだから! ねえ、あなたひとりでぎゅうぎゅうなんだから、教科書なんかぜんぜん入るわけないじゃない!」

というわけで、まずはひとりめの役、それからもうひとり、というように、かけ合いをぜんぶひとりでやっていましたが、何分かすると外から声がしたので、やめて耳をそばだてました。

「メリアン! メリアン!」とその声。

「とっとと手ぶくろを持ってくるでおじゃる!」そのあと、階段からたたたたとかすかな足音が聞こえてきます。

アリスはウサギがさがしに来たとかんづいて、ふるえだしたら、なんと家までぐらぐら揺れてしまいました。すっかりうっかりしていましたが、自分が今やウサギの何千倍も大きいなんてことは忘れていたのです。もし思い出していれば、こわがる必要なんてなかったのに。

そくざにウサギはドアのところへやってきて、開けようとしました。でも内側に開くドアだったものですから、アリスのひじがつっかえて、いくらやっても開きません。

アリスの耳にひとりごとが聞こえてきました。「ならば回りこんで、まどから入るでおじゃる。」

「そんなのむーりー!」と思うアリス。待ちかまえて、まどのま下にウサギの気配がしたところで、いきなり手をのばして、そのままつかむそぶりをしました。

何もつかまえられなかったけれど、聞こえてきたのは小さなさけび声と、ずっこけてガラスをわる音。

というわけで頭のなかでは、ウサギはキュウリのなえ箱か何かに突っ込んだのかも、なんて想像してしまいました。

お次に来るのはぷりぷり声――ウサギのね――「パット、パット! どこにおじゃる!」それから今度は聞いたことのない声。

「ここにおりますだ! 土リンゴほり中で、あのその、おやかたさま!」

「土リンゴほり、ほおお!」とぷんすかウサギ。

「こっちへおじゃれ、ここから出すでおじゃる!」――さらにガラスのわれる音。

「さあ教えるでおじゃる、あのまどからはみ出てるものは何ぞえ?」

「きっとうんでだで、おやかたさま!」(正しくは、うで、ね。)

「うで! あほうが! あんな大きさのうでがおじゃるか! ほれ、まどわくいっぱいぞ、の、のお?」

「そうでごぜえますが、おやかたさま、やっぱどう見てもうんでだで。」

「なぬ、そんなの知ったことか、あれを片づけておじゃれ!」

そのあと長々と静かになり、アリスにもときどきささやき声が聞こえたくらい。それも「ぜってえいやですだ、おやかたさま、めっそうもねえ!」「言うた通りにおじゃれ、へたれめ!」といったもので、とうとうアリスはもう1度手をのばして、またつかむそぶりをするはめになりました。

今度はふたつの小さな悲鳴、それとまたしてもわれるガラスの音――「いっぱいたくさんキュウリのなえ箱があるのね!」とアリスは思います。「お次はどう出るかしら! まどの外へ引き出すっていうなら、願ってもないことだけど! ほんっともうここから出て行きたくてしかたなくってよ!」

しばらくじっとしているあいだ、何も聞こえなかったのだけど、ついに耳に入ってきたのはごろごろと転がる手おし車の音、たくさんの話し合うざわめき。

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