初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第14話

アリスはふしぎの国で

 アリスには、自分も庭係の3人と同じようにひれ伏したほうがいいのかどうか、よくわかりませんでした。でも、行列というものにそんな決まりがあるとは聞いたことがありません。「それに、行列にいったい何の価値があるっていうの? もしひれ伏して顔を下に向けてしまったら、どのみち何も見えないじゃない」と考え、その場に立ったままじっとしていました。
 行列はアリスの目の前まで来ると、そろって立ち止まり、アリスのほうを向きました。そこでクイーンがひとこと、ぴしゃりと言いました。「この者はだれかえ?」
 問いかけられたのはハートのジャックでしたが、返ってきたのはお辞儀とニコニコした笑みだけでした。
 「バカ者!」とクイーンは頭をツンとそらして、そのあとアリスの方を向いてさらに言いました。「そこの子ども、名はなんと言う?」
 「あたくしの名前はアリスです、クイーンさま」とアリスはうやうやしく答えましたが、心の中ではこう思っていました。「ふん、どうせただのトランプ1組じゃない。恐れるに足らないわ!」
 「では、あれは何者かえ?」とクイーンが指さしたのは、バラの木のまわりに倒れている3人の庭係です。うつぶせになっていたので、背中の柄はどのトランプも同じであり、そこにいるのが庭係なのか、強者なのか、側仕えなのか、はたまた自分の子どもたちなのか、クイーンにはさっぱり見分けがつかないのです。
 「あたくしに聞かないでください」とアリスは答えました。自分の気の強さに、自分でもびっくりしてしまいました。「知ったことではありませんわ」
 怒りで真っ赤になったクイーンは、ちらっとアリスを睨みつけてから、やにわに獣のような恐ろしい声で叫びました。「こやつの首をちょん切れ! こやつの……」
 「すっからかんよ!」とアリスが大きな声で言い返すと、クイーンは黙り込みました。
 キングがその手をクイーンの腕に置いて、おずおずと言いました。「これお前、考え直したらどうだ。ほんの子どもではないか!」
 クイーンはぷいっと顔をそむけて、ジャックに言いつけました。「こやつらをひっくり返せ!」
 ジャックは、そろりと片足でそれをやってのけました。
 「立てい!」とクイーンがキーキーと大声を上げると、3人の庭係はたちまち飛び起きて、キングやクイーン、王子や王女、そしてみんなに向かってお辞儀を始めました。
 「ええい、やめい!」とクイーンが金切り声を上げました。「目が回るわ」そう言ってバラの木の方を向くと、続けました。「ここで今まで何をしておった?」
 「おそれながらクイーンさま」と2がへりくだるふりをして、しゃべる間じゅう片ひざをついています。「なんとか3人で……」
 「もうわかった!」とその間にバラを確かめていたクイーンは言いました。「こやつらの首をちょん切れ!」
 行列が動き出し、処刑役の強者が3人あとに残されたので、追いつめられた庭係はアリスに駆け寄って助けを求めました。
 「打ち首なんかさせないわ!」とアリスは3人とも手近な大きな植木鉢の中に突っ込んで隠しました。
 強者たちはものの数分うろうろと探し回りましたが、見つからないので、あとはみんなの後を追ってすたすたと行ってしまいました。
 「首はなくなったかえ?」とクイーンが遠くから大声で叫びました。
 「みな首なしにてございまする、クイーンさま!」と強者たちも大声で返事をしました。
 「よろしい!」とクイーンが叫びます。「そちはクローケーができるか?」
 黙り込んだ強者たちがアリスの方を向いたので、どうやら自分に聞いているらしいとわかりました。
 「はいっ!」とアリスは大きな声で答えました。
 「ならば来い!」とクイーンが声を響かせます。アリスは行列の仲間入りをしましたが、これから一体何が始まるのか、気になって仕方ありません。
 「これ……良いお日柄であるな!」と、脇からおずおずと誰かが声をかけました。なんと、隣を歩いていたのはあの白ウサギで、おどおどした顔でこちらをうかがっていました。
「本当に」とアリスは言いました。「御前さまはどちらにいらっしゃるの?」
「しっ! しーっ!」とウサギはひそひそ声で早口に返しました。話しているあいだも、そわそわと後ろをふりかえりながら、やがてつま先立ちして小さく耳打ちしました。「御前さまは処刑を言いわたされておじゃる」
「どうして?」とアリスが聞きました。
「どうしてなかなか、おいたわしやとな!?」とウサギが聞き返します。
「そうじゃなくて」とアリスは言いました。「悲しいとかじゃなくて、わけを聞いているのよ」
「クイーンさまにびんたをはったのじゃよ――」と言い出すウサギ。
アリスはぷぷっとふきだしました。
「これ、しーっ!」とウサギはびくびくしながらひそひそ言いました。「クイーンさまに聞こえるでおじゃる! ほれ、あの方がちょっと遅刻をされたもんで、クイーンさまがな――」
「ものども、位置につけい!」と大声をとどろかせるクイーン。一同はてんでばらばらに走り出して、たがいにごっつんこ。
けれども、ものの数分で位置につきおわって、すぐに試合が始まったのです。
アリスは思いました。生まれてこのかた、こんなへんてこなクローケー場は見たことがない、と。
そこらじゅうがデコボコで、玉は生きたハリネズミだし、ボールを打つ槌(つち)は生きたフラミンゴ、それに強者どもがわざわざ両手両足をついて身体を二つ折りにし、玉のくぐるところを作っているのです。
なかでも一番むずかしいとアリスがまず気づいたのが、フラミンゴのあつかいでした。
なんとかうまくそいつの胴体をおさまりのいいように脇に押し込んで、足をぶらぶらさせてみたのですが、たいていは首をうまくまっすぐにして頭でハリネズミを打とうとしたとたん、そいつに身体をひねられて顔をのぞきこまれるのです。相手があまりに困った顔をするものだから、アリスはぷっとふきだしてしまうしかありませんでした。
それから頭を下向きにして仕切りなおしても、今度はハリネズミが丸まってくれずにちょろちょろとどこかへ行き出すものだから、いらだたしいったらありません。
ましてやそれどころか、ハリネズミをどこへ転がしたいにしても、たいてい行く先には凸か凹があるし、二つ折りの強者どもはしじゅう起き上がってべつのところへ歩いていってしまうから、アリスもたちまち、この試合はむずかしすぎると思うにいたりました。
やっている人たちも自分の番を待たずにみんないっせいに打つし、ずーっと大声で言い合って、ハリネズミを取り合っています。
なのであっというまにクイーンは怒り爆発、どしんどしんと歩いていっては、「あの男の首をちょん切れ!」とか「あの女の首をちょん切れ!」ってどなること、1分に1回。
アリスはどうにも気もそぞろでした。たしかにまだクイーンとは一度も口げんかしてなかったけれど、いつ起こるともしれないから、「そうなったとき、あたくしの身はどうなるの?」とアリスは考えました。「このひとたち、ここにいるひとたちを打ち首にしたくてしたくて仕方ないみたい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました