初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第19話

アリスはふしぎの国で

「皮靴をまだらに磨く?」と不思議そうに繰り返します。

「そうさ、靴を磨いたらどうなる?」とグリフォン。

「つまり、きゅっきゅっと磨いたらってこと?」

アリスは自分の靴を見つめてから、少しばかり考えて答えを出しました。

「ふつうは、ぴかぴかの真っ黒になるわよね。」

「海の中で皮靴を磨きゃあ、はげてまだらになるんだよ。覚えときな」と、グリフォンが野太い声で続けます。

「その『海の皮靴』って、どんなふうになっているの?」そのへんてこぶりに、アリスはワクワクしてきました。

「そりゃあ、下は靴ジャコで、靴ハモを結ぶのさ」と返すグリフォンはいらだたしげです。「そんなこと、カレイだって知ってるぜ。」

「あたしがマダラだったら」とアリスは言います。さっきの歌のことが、ずっと頭から離れないのです。「サメにはこう言ってやるわ。『ついてこないでちょうだい! いっしょにいたくないの!』」

「連れて行かなきゃならないのですよ」とウミガメフーミ。「ズサメ(随伴)しなきゃ、魚ってものはどこにも行けないんですから。」

「そんなまさか?」と、アリスはかなりびっくりした口ぶりです。

「そのまさかですよ」とウミガメフーミ。「もしあたしのところに魚が来て、『これから旅に出る』なんて言ったら、あたしはこう言いますね。『どこをズサメるんだ?』」

「それって『目指す』じゃなくて?」とアリス。

「てやんでえ!」とウミガメフーミはむっとした様子です。

するとグリフォンが口を挟みました。「まあ、てめえの身の上でも聞かせてやってくれよ。」

「それなら、あたしの身の上を教えてあげるわ――そもそもは今朝のことなんだけど」と、アリスは少しおそるおそる話し始めます。「でも、昨日を振り返るのはお断りよ。だってそのときは、あたし別人だったんだもの。」

「そっちを語っておくれ」とウミガメフーミ。

「ダメだ、ダメだ! 先に身の上でい!」と、グリフォンがじれったそうに言います。「そんなの語っていたら、すさまじく時間がかかる。」

そこでアリスは今までの身の上を語り始めました。始まりは、白ウサギを目にしたところからです。はじめのうちは少し気後れしていましたが、二匹の生き物は右に左にと間近にすり寄ってきました。聞き手はずっと黙って聞いていましたが、アリスが青虫に教わった「ウィリアムじいさん」をそらで歌い、まったく違う替え歌になってしまったくだりに入ると、ウミガメフーミが長々とため息をついて言いました。

「そりゃあ、へんてこなことだ。」

「こりゃあ、何もかもへんてこの極みだな」とグリフォン。「全部違っちまうとは!」としみじみ繰り返すウミガメフーミ。「ちょいと何か聞いてみたいね。せっついておくれ」と、アリスに言いつけるのは自分たちの役目だと言わんばかりに、グリフォンを見つめます。

「ほれ、立って。歌は『グズの歌』でい」とグリフォン。

「ほんと、ここの生き物ときたら、ひとに何か言いつけたり、いちいちそらでやらせたりばっかり!」とアリスは思います。「学校に行っている方がまだマシね。」

とはいえ、立ち上がってそらでやってみることにしました。頭の中はロブスターのカドリールでいっぱいだったので、自分が何を口走っているのかほとんどわかっていません。歌の文句も、こんなひどくけったいなものになってしまいました――

エビの声が 聞こえてくる
焼きすぎだ 砂糖をまぶせ
アヒルみたく 鼻を使って
おしゃれして 外またで立つ
引き潮では はしゃぎだし
サメをバカに したけれど
満ち潮では サメが来る
声はふるえ ぶるぶる
声はふるえ ちぢこまる

「ガキの頃によく歌ったのとは違えな」とグリフォン。

「うーん、聞いたこともありゃしませんが」とウミガメフーミ。「尋常じゃねえほど、すっからかんな歌で。」

アリスは何も言えなくなってしまいました。アリスは両手で顔をおおったまままたへたりこんで、自分がまた元通りになることが果たしてあるのかどうかと悩んでいました。

「どういうことなのか、ときほぐしてくだせえ」とウミガメフーミ。

「できるわけあるか」とうろたえるグリフォン。「その続きをやってみようや」

「でも外またってのは?」としつこいウミガメフーミ。「鼻でどうやって外に広げるってんですかい、ほれ?」

「ダンスのとき、まず足をそう置くの」とアリス。

だけど何やかやでもう頭がひどくぐちゃぐちゃで、話を変えたくてしかたがありません。

「その続きをやってみようや」とじれったそうにまた言うグリフォン。「『庭先にて』からいってみよう」

また間違えるに決まっているとは思いつつも、とりあえずアリスは言うことを聞くことにして、声を震わせながらも続きを歌いました――

庭先にて パイをわける
フクロウとヒョウの2ひき
パイとお肉 食べるヒョウ
フクロウは 残りのお皿
パイがすっかりなくなると
フクロウ スプーンいただくが
せまり来るは ヒョウのやつ
ナイフかまえ がるるる
〆に ……

「そんなもの歌って何のねうちがあるってんだ?」と横入りするウミガメフーミ、「しかもそのまま自分ではときほぐせねえってんだ。こんなややこしさきわまるもん聞いたこともねえ!」

「そうさな、たぶんもうやめなきゃどうしようもねえな」とグリフォン。アリスもやめられてほっとすることしきりです。

「もうひと回りとしゃれこむか?」とグリフォン。「それよかお歌が好みか?」

「ええ、お歌をお願い!」とアリスの返事があまりに本気なので、グリフォンもちょっと傷ついたみたいで、「へえ! 人も好き好きか! 『ウミガメスープ』を歌ってやれ、こんにゃろめい?」

深くため息をついたウミガメフーミは、涙にむせびながらも歌い出しました――

こくまろすうぷ すうぷ
おなべで ほかほか!
がまんできない もう!
よるのすうぷ すてきなすうぷ!
よるのすうぷ すてきなすうぷ!
 すう~うてきな すう~ううぷ!
 すう~うてきな すう~ううぷ!
よお~おるの す~ううぷ!
 すてきな すてきな すううぷ!

おさかな いらない
おにくも ばいばい!
みんなほくほくだよ!
これでおーけぇ すてきなすうぷ!
これでおーけぇ すてきなすうぷ!
 すう~うてきな すう~ううぷ!
 すう~うてきな すう~ううぷ!
よお~おるの すう~ううぷ!
 すてきな すう~うてきな すううぷ!

「※くり返し!」とグリフォンが声を張り上げ、ウミガメフーミがふたたび歌い始めたまさにそのとき、「おさばきの始まり!」という叫び声が遠くから聞こえてきました。

「こっちでい!」とグリフォンはアリスの手を取って駆け出していきます、歌の終わるのも待たずに。

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