初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第6話

アリスはふしぎの国で

「まあ、でしたらほどかせていただけませんか?」
「そんなこと一言も言ってないよ!」とネズミは立ち上がって、「そんなすっからかんの話でバカにされるなんて!」
「思いちがいよ!」とアリスは苦しまぎれに言いわけをしました。「でもあなただってずいぶん短気なんだから」
ネズミはただ「フン!」と唸るだけです。
「さっさとお話の続きを閉めてくださる?」とアリスが去っていくネズミの背中に呼びかけると、ほかのみんなもあとからそろって、「そうだ、ちゃんと締めくくってくれ!」と叫びました。ところがネズミはイライラと頭を振るだけで、足早に歩いて行ってしまいました。
「残念、行っちゃった!」とインコがため息をついたのは、ネズミが見えなくなってすぐのことでした。
そしておばさんガニは、ついでとばかりに娘に小言を言います。
「ほらね! つまり、あなたもすぐカッカしちゃダメってことなのよ!」
「ママはだまってて!」と子ガニは少しつっけんどんに言いました。「ガマン強いカキだって、ママの小言を聞かされたらどうにかなっちゃうわよ!」
「ここにうちのダイナちゃんがいたら、きっとよかったのに!」とアリスは大きな声で言いました。特に誰に向けてというわけでもありません。「あの子なら、あいつをたちまち連れ戻してきてくれるわ!」
「そのダイナってどなた? よろしければ教えてくださらない?」とインコがたずねました。
アリスは乗り気でお返事します。だっていつでも自分のペットのお話をしたい盛りなのです。「ダイナはうちのネコよ。ネズミ取りにかけてはもう一流なの、おわかり? それにああ! 鳥を追いかけるあの子をお見せできれば! もう、小鳥なんか狙いをつけた途端にガブリよ!」
こんな話をしてしまったものだから、その場はたちまち大騒ぎになりました。逃げ惑う鳥もいたほどで、おじさんカササギなんかは、そっと身支度を始めてこう口に出しました。「そろそろ家に帰らねばな。夜風は喉をいためるのでね」それからカナリアは声を震わせながら子どもたちに呼びかけました。「行きましょう、さあ! もうみんなおねんねする時間よ!」
それぞれ言い訳を作って去っていくみんなを見送って、アリスはたちまち一人ぼっちになってしまいました。
「あたくしとしたことが、ダイナの話なんてしなきゃよかったわ」と、アリスはしょんぼりひとりごとを言いました。「だれもあの子が好きじゃないみたいね、ここには」「本当に世界一のネコなのに! ああ、ダイナちゃん! また会える日が来るのかしら!」と、そんなふうに思ったらあまりに切なくて、アリスはまた泣き出してしまいました。心細くて、すっかりしょげていたのです。
ところがしばらくすると、遠くからパタパタという小さな足音が聞こえてきたので、アリスはハッとして顔を上げました。もしかしたらネズミが考え直して、お話の続きをしに戻ってきたのかもしれない、と期待したのです。

4 ウサギ、ビルくんをさしむける

なんと、白ウサギがとぼとぼとこちらへ戻ってくるところでした。ウサギは何かをなくしたみたいに、キョロキョロとあたりを見回しながら歩いています。
その独り言が聞こえてきました。
「公爵夫人! 公爵夫人! ああ、なんてことだ、なんてことだ! あの方の機嫌を損ねたら、白イタチが白イタチとして真っ白になっちまうよ! どこで落としたんだ、いったいどこで!」
アリスはすぐにピンときました。ウサギはあの扇子と白い手袋を探しているんだわ。アリスは親切心から一緒に探してあげようとしましたが、あたりを見渡してビックリ。池で泳いでからというもの、景色がすっかり変わってしまっていたのです。あのガラスのテーブルも、小さなドアも、大広間さえも、どこにも見当たりません。

やがてウサギはアリスに気づくと、探し物でイライラしていたのか、頭ごなしに怒鳴りつけました。
「おい、メリアン! こんなところで何をしているんだ! さっさと家へ走って、手袋と扇子を持ってくるんだ! 早く、ほら!」
アリスはあまりの剣幕におびえてしまい、人違いですよ、と言う余裕もありません。言われるがままに指さされた方向へ駆け出しました。
「私がメイドだなんて、とんでもない勘違い!」と走りながら独り言を言います。
「私が本当は誰だか知ったら、きっと驚くわ! でも今は、とにかく扇子と手袋を探してこなくちゃ――もし見つかればの話だけど」
そうこうしているうちに、目の前にこじんまりとした家が現れました。ドアにはキラキラした金属の表札がかかっていて、『シロー・ウサギ』と彫ってあります。
アリスはノックもせずに中へ入り、階段を駆け上がりました。本物のメリアンと出くわしたら大変です。扇子と手袋を見つける前に、家から追い出されてしまうかもしれませんから。
「なんて不思議なことでしょう」とアリスは独り言を言います。「ウサギのお使いをするなんて! 次はダイナが私にお使いを頼むのかしら?」
そんなふうに想像がふくらみます。「『アリスお嬢様、すぐにお散歩の準備を!』『今行くわ、ばあや! でも、ダイナが戻ってくるまで、このネズミ穴からネズミが出てこないか見張っていないと』……でも、そんなことを人に言いつけたら、ダイナはもううちには置いておけないわね!」

この時までになんとか入れたお部屋は、とてもこぎれいな場所でした。窓際のテーブルの上には(思った通り)扇子と、小さな白い手袋が何組か置いてあります。
アリスは扇子と手袋を1組手に取って出て行こうとしたとき、鏡の脇に立てられた小瓶が目に飛び込んできました。
今度は『のんで』という札はついていませんでしたが、アリスは気にせず栓を抜いて口にしました。
「きっと何か面白いことが起きるはずよ」と独り言。「何か食べたり飲んだりするといつもそうなるもの。今度こそ大きくなれるといいな。もうこれ以上ちっちゃくなるのは、本当にうんざりだわ!」

すると、思った通り、いや思ったよりもずっと早く、瓶の中身を半分も飲まないうちに、アリスは頭が天井にぶつかってしまいました。首が折れないように慌てて身をかがめます。
急いで瓶を下に置いて、独り言を言いました。
「もう十分よ――これ以上大きくならなくていいから!――このままじゃドアから出られないわ。あんなにたっぷり飲むんじゃなかった!」
なんてことでしょう! そう思ったときにはもう手遅れです。アリスはどんどん大きくなっていき、あっという間に床に膝をつく余裕もなくなりました。なんとか横になろうとしましたが、肘をドアにぶつけたり、腕を頭の周りで丸めたりするのが精一杯。
それでも体はまだ大きくなり続けます。最後の手として、片方の腕を窓から突き出し、片足を煙突の中に突っ込んで、こうつぶやきました。
「もうこれが限界だわ。これから私はどうなってしまうの?」

幸いなことに、魔法の小瓶の効き目はここでストップし、もうそれ以上大きくなることはありませんでした。とはいえ、居心地は最悪です。この部屋から外に出られる見込みもなさそうで、落ち込むのも無理はありません。
「おうちにいた方が、ずっとマシだったわ」「あぁ、なんてかわいそうな私!」と、アリスは思わずため息をつきました。

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