初級翻訳・いたずら小僧日記 第23話

いたずら小僧日記

一週間も練習すれば、きっとすぐに上手になれる。
そうすれば、ぼくが真っ赤な衣装を着て、あの馬の背中で縄跳びや逆立ちをするんだ。
見物人たちがみんな拍手喝采してくれるだろう。
今鳴った鐘は十一時だな。
十二時、十三時……いや、十二時、一時代、二時、とまだ三時間もある。
早く行って待っていたほうが間違いなさそうだ。
ぼくがいなくなったら、お母さんはきっとびっくりするだろうけれど、これも立身出世のためだと思えば仕方がない。
サーカスの人たちは出発の支度をしていた。
車が何台もずらりと並んでいる。
まだ荷物は何も積まれていない。
ぼくは隙を見て、荷車の上の大きな箱の中へこっそり入り込み、頭から風呂敷をすっぽりとかぶった。
もうこれで弟子になれるものとすっかり安心していた。
ぼくは、おそらくまもなく眠ってしまったのだろう。
目が覚めたときには、車はすでに動いていた。
あまりに車がガタピシと揺れるので、それで目が覚めたらしい。
外をそっと見ると、満天の星が綺麗に光っている。
ああ、もうこれで本当にお母さんともお姉ちゃんともお別れなんだなと思ったら、少しだけ悲しくなった。
体はあちこち動くし、車の音はうるさいし、馬方がやたらに馬を怒鳴るもんだから、なかなか落ち着いて眠れない。
少しうとうとしても、すぐにパッチリ目が覚めてしまう。
そうこうするうちに、あたりがだんだん明るくなってきた。
いったいここは何の箱なのだろうと思ってあたりを見回すと、ぼくはあまりのことにひっくり返りそうになるほどびっくりしてしまった。
ほんの三尺(約90センチ)ばかり向こうに、本物のライオンがいたのだ。
しかも、ライオンはぼくの顔をじっと凝視している。
サーカスで見たときのように床に寝そべり、自分の前足の上に顎をちょこんと乗せているのだ。
夜はすっかり明けていた。
ぼくはいったいどうすればいいのだろうと思った。
ぼくが少しでも体を動かすと、ライオンは低い声で「ウーッ」と唸る。
こちらもじっと動かずにいると、向こうも黙ってぼくの顔を見つめている。
時々、パチリとまばたきをする。
いつガブリと噛みつかれるかもしれない。
本当に気味が悪くてたまらない。
ぼくはぎゅっと目を固くつむって、心の中で「主の祈り(お祈り)」を唱えた。
ライオンは相変わらず古い姿勢のままだ。
ぼくは主の祈りを五回も六回も必死に唱え続けた。
おやっと思って恐る恐る目を開けてみると、なんとライオンはぼくの額をペロペロと優しく舐めていた。
気がついたときには、ぼくは広々とした草原の上に寝かされていた。
大勢の人たちがぼくを取り囲んでいる。
誰かがぼくの顔に水をピュッと吹きかけていたんだ。
「ああっ、食べられずに済んだぞ!」
「もう少しで食べられるところだったんだからな」
と、馬方が言った。
「いったいどうしてあんな箱の中に入り込んだんだい?」
と、親方が呆れつつも感心したように尋ねた。
それからぼくは、どうしても曲馬師の弟子になりたくて、あの箱の中に隠れていたのだと正直に話した。
みんなは大笑いをして、早くお母さんのところへ帰りなさいと言った。
「危ないところだったなあ。
あのライオンはちょうど病気だったから、昨日の夜に急にあの箱へ移しておいたんだ。
病気じゃなかったら、お前はとうに食べられてしまっていただろうよ。
まったく危ないやつだ。
まるでヨナみたいな小僧だなあ」
いや、ヨナはライオンの箱になんか入らない。
ライオンの穴に入ったのはダニエルのはずだ。
この親方は、何でもかんでもヨナにしてしまうんだから困る。
それに、ぼくもさすがにそろそろ家へ帰りたくなっていたところだったので、サーカスの子分の一人に家まで送り届けてもらうことになった。
ぼくが夕方に家へたどり着くと、長い道のりを歩いたせいで、足にはすっかり豆ができていた。
家の者たちはみんな大喜びでぼくを迎えてくれた。
まるで『放蕩息子(とうとうむすこ)』の物語から旅人が帰ってきたかのような騒ぎだった。
やっぱり、お家の中にいるほうがずっといいや。
お手伝いのお島に聞いた話だと、お母さんは一日中泣きっぱなしだったそうだ。
伯母さんのところへ電報を打ったり、あちこちに人を捜しに出したりして、それはもう大騒ぎだったらしい。
ぼくはもう二度と絶対に家出なんかしないぞ。
お父さんは、ぼくを送ってきてくれた人にちゃんとお金を渡して、丁寧にお礼をしてくれた。
もう二度と、絶対に曲馬師になんてなるまい。
そうこうするうちに、もうすぐ待ちに待った暑中休暇になる。
忠公は、夏休みの間は避暑に出かけるんだそうだ。休暇になってから毎日忠公と遊んでいたら、そのうちどんな大怪我をするかわからないから、できるだけ早く海岸へ連れて行くんだ、とお母さんは言った。
あいつのお母さんは、本当に話の通じない頑固者だ。
そんな風に悪口ばかり言っていると、誰からも可愛がられなくなっちゃうぞ。
うちの太郎ばかりが悪いわけじゃないって、お母さんは言っている。
忠公だってかなりの悪ガキだ。
だけど、お母さんは人がいいから、言いたいこともぐっと我慢しているんだそうだ。
それでも、ぼくは忠公と一番気が合うんだ。
ケンカすることもあるけれど、すぐに仲直りしちゃう。
子ども同士の方がよっぽど仲がいいのに、お母さん同士がにらみ合っているなんて、なんだかすごくおかしな話だな。
忠公はぼくに蛇の卵をくれた。
全部で五つ取ってきて、ぼくには二つ分けてくれたんだ。
忠公はあれはマムシに違いないと言い張っているけれど、ぼくは青大上のくだくだしいやつじゃないかと思っている。
もし本当にマムシだったら大儲けだな。
何が生まれてくるのかわからないから、客間のストーブの中に隠してある。
毎日二、三回は見に行っているんだけど、今日は遊びに夢中になっていて、一度も様子を見に行っていない。
もしかすると、もう卵からかえっているかもしれないな。
今日は一段と暑かった。
文法の先生は本当に困ったやつだ。
さっきから蛇の卵のそばに陣取って、お歌さんとおしゃべりをしている。
何度見に行っても、一向にその場から動く気配がない。
裏の池ではカエルがしきりに鳴いているけれど、いくらカエルが鳴いたところで、あの男は帰りそうにもない。
「竹刀を取られるところなんて面白いでしょうねえ。
『ほら、そこで竹刀を取られちゃったんだよね』っていうところが面白いでしょう?」
「そこで小手も取られちゃったんですかあ?」
と、二人は実に楽しそうにケラケラと笑っている。
どこが面白いんだか、ちっともわからない。
どうしようもない連中だ。
ぼくはもう我慢ならないと思って、つかつかと客間に入っていった。
そして、黙ってじっと立ってやった。
こうすれば、ストーブのそばから退散するだろうと思ったのに、平然とおしゃべりを続けている。
どうしてこの人には少しも恥じらう心がないんだろう。
本当にうんざりしてしまう。
とその時、玄関の呼び鈴が鳴った。
誰だろうと思って行こうとしたところ、お姉さんが「太郎さん、ちょっと」とぼくを呼び止めて、こんな内密の命令を下した。
「富子さんだったら、お留守だと言って断ってちょうだい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました